第266話 胡蝶の夢
2023年3月10日。夢で見た改変前の日本の未来について、分かったことや疑問に思ったことを仁美さん、彩花さんに伝えていく。
「昨年はとうとう高齢者率が30%を超えたと言って、絶望していませんでした?」
「してたね。今年はあまりそっち方面に意識が行って無かったから、爽やかな目覚めだったのか」
「新日本革命党……やはり、改変前の世界でも秀則様は重要人物だったのではありませんか?」
彩花さんに昨年の夢について触れられたので、悪夢とは感じなかった理由が分かった気がする。そして仁美さんがとんでもないことを言い始めたので、訂正しておこう。
「あくまでも、俺は平凡な男子高校生だったんだからそれは無いよ」
「いえ……改変前の世界で将来的に、何かをしでかす存在だったのでは?」
「……うん?
…………うん?」
改変前の世界は、今まで並行して進んでいる世界だと勝手に思い込んでいたけど、あれが遠い過去という話もあり得るのか。オカルトは認めない主義だったけど、今では認めている部分もあるし、一考の余地はあるな。
……俺が未来で、何をしでかしたのかは分からない。今日の夢が、過去の出来事だったと言うのなら、知らないことが夢で出て来たことも理解は出来る。
本当に、何をしたのかは分からないけど。政治家は16歳時点の俺で、無理だと思うような職業だ。でも20歳の俺が、無理だとは思わなかったのかもしれない。
SNSを中心に政治活動なんて、難しそうというか無謀な気しかしないけど、あの夢に出て来た俺は今の俺より判断が甘いのかな。
「まあ、今の世界には関係が無いから夢は夢として利用するけどね。でもそうか、最低賃金を上げればIoT化は当然の流れか」
「あいおーてぃー、ですか?」
「IoTはInternet of Thingsの略だった気がする。まあ、全自動化のことだね。格安賃金で働いてくれる人がいなくなったから、全部自動化してしまうの」
「全自動化ですか。今の日本では、まだまだ追い付けないですね」
仁美さんがIoTについて突っ込んで来たので、解説をしておく。Iがインターネットかインテリジェントか分からなくなったけど、たぶんインターネットだったはず。まあ、意味さえ分かっていれば問題は無い。
企業を実際に経営した立場にもなったから分かることだけど、本当に人件費は占める割合が大きい。最低賃金で働かせることが出来るなら、最低賃金にするのが当たり前でもある。最低賃金が上がれば、安い賃金で働いてくれる人は0になる。
失業率5%が、どこまでヤバいのかは分からない。いや、イギリスで確か失業者の割合が5%を超えて、グレートブリテン共産党の勢いが増しているとか言っていたな。赤化するほどの危機では無いだろうけど、赤い政党が幅を利かせそうだ。
……今の日本の完全雇用は、ある意味完成されていると言っても良い。これが機械化されていって、余った人員をどうするのかは考えないといけないことだ。IT分野が発達したら、幾らでも人員を割けるのだけど、それもまだまだ先の話だろう。
「高齢者が多い社会で、出生数が減っているのはいつ破綻を迎えるか、今日の夢で何か分かりましたか?」
「いや……破綻はまだ起きて無かったし、破綻するのがいつなのかは結局分からないな。でも成人式の挨拶で、2023年に産まれた人の数は71万人だと言っていたな。そして今年は、70万人を切りそうだとも。でも、結局のところ若者の数が目に見えて減るのは20年後だし、どうしようもないんじゃないかな?」
「……それ、自然に減る人口数はどれぐらいですか?」
「死者数から出生数を引いた数のことなら、50万人ぐらいは減ってそう」
彩花さんが、自然に減る人口数を聞いて来たので簡単に頭の中で計算すると、恐ろしい数が算出された。今の戦争中の日本でも、1年で50万人も減らないからだ。というか、戦争で十数万人が死んでもなお今の日本は増加傾向だし、人口が減ることに現実味が無いから想像が難しい。
2023年の出生数は、壇上にいた人が71万人だと言っていた。2019年は86万人だったから、随分と減ったものだ。2016年に100万人を切ってから、凄まじい勢いで衰退していると言っても良い。でも、強制的に子供を産ませるわけにもいかないから、結局は子育て支援を推進していくしか行政は打つ手が無い。
生涯未婚率も深刻な問題になっていて、労働人口は移民で賄うしか無くなっていた。日本の女性達は、出産の痛みを強要されたくないと言っていた。基本的に、その主張は未婚の人しかしていなかったが。
この先の日本というのを、夢という形でも見たい。それを反面教師にすることは出来るし、個人的な興味も尽きない。超々高齢社会の先というのを、見てみたい。
……とりあえず、出生率の維持だけはしっかりと管理するよう言っておこう。この出生率さえ間違えなければ、国の衰退は無い。結婚の自由化は感情的に推進したいけど、お見合い結婚が悪いというわけでは無いだろう。今のバランスを、崩壊させる意味は無い。
改変前の日本は全自動化が、間に合うか否かが焦点だ。AI関係がもっと発達すれば未来はあるだろうけど、実用化までにはあと何年かかるのだろう?




