第263話 インド宗教
インドは一言で言えばカオスな国だ。国の4分の3がヒンドゥー教徒で、残りの4分の1がイスラム教徒。少数派ながらシク教徒やキリスト教徒も存在するせいで、宗教間の対立は深いし内乱は起きやすい。民族も多く、多種多様な人間が住んでいる。
インドと言えば仏教の発祥の地でもあるけど、仏教徒はあまり聞かない。この理由については知らなかったのだけど、イスラム教徒が仏教徒を絶滅させたと仁美さんから教えられる。13世紀頃までには仏教徒が全滅しているようだから、これはたぶん改変前でも同じ理由だろう。
「……シク教もインドの総人口から見れば5%程度で、キリスト教も3%ぐらいか。このシク教が暴動を起こしているとは聞いたけど、抑えられないものなの?」
「インドの総人口が4億だと仮定しても、シク教徒は2000万人ほどいますよ。その全員が武装しているわけではないでしょうが、戦える男子を5%だと仮定しても100万人は暴れていますね」
「ああ、その数が決死隊なら辛いか。宗教に嵌っているような人間は、痛みを感じながらも前進してくるから厄介極まりない」
今までシク教徒の数は具体的に分かって無かったが、諜報員の活躍もあり2000万人ほどだという数字が出た。比率では5%だから、比率で見たら大したようには感じないけど、2000万人とあらためて聞くと多く感じる。仁美さんが戦える男子を5%と仮定しているけど、実際にはもっと多いだろうし、子供も女性も戦おうと思えば戦える。独立運動を、止めるのは難しいそうだな。
イギリスの対応が後手に回っているのと、ペルシア軍の侵攻が被さったから、イギリスは悲鳴を上げているわけで、ペルシアの利権交渉すら難航しているのは意外だ。イギリスは、石油が無いのか?
インドの石油埋蔵量は流石に憶えてないけど、資源面の価値も悪くは無かったはず。むしろ、良かったように思える。日本が領有しているセイロン島の各種資源産出量はかなり多いし、インドも鉱山とかは多いんじゃないかな?
「ちなみに、日本教ってインドではどういう扱いになってるの?」
「不可触民に対して、広く浸透しているようです。……上手くいけば、暴動を起こせるかもしれません」
「不可触民って何……いや、大体分かるな。カースト制度の外って感じの人達か」
「その通りです。かなり排斥されている立場の人間のようで、反抗心もあまり持ち合わせてはいないと報告にありました」
仁美さんにインド人にとっての日本教を聞いてみると、1000万人ぐらいは日本教徒だろうという推計を出された。インドの総人口の1割以上が、不可触民というカースト制度から外れた人間だということも教えられる。人口にして、約4000万人かな?それだけの人間が、虐められている立場だということだ。
カースト制度の中にいる人達にとって、嫌な仕事を押し付けられる枠組みの人だということだろう。不可触民は糞尿処理や家畜の屠殺を主な仕事としており、インドは職業が基本的に世襲制だから抜け出せない。
よく暴動が起きなかったなと思うが、最近は仕事をボイコットする不可触民も増えてきているとのこと。……この不可触民や日本教徒を使って、仕掛けることは出来そうだな。彼らは別の仕事が出来るとなれば、今までの仕事をして暮らしていく必要が無い。
世界大戦後に、インドを1つの国として独立させるわけにはいかない。国として大きくなるし、征服するのが面倒だからな。シク教徒の国や共産主義の国など、出来る限り纏まりを無くしてから独立させたい。
幸い、既にインドはシク教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒で内紛が起きているし、そこに日本教徒を突っ込むことは楽なはず。共産主義者達のことも考えれば、複数に分けての独立は楽かもしれない。
今はイギリス人が地位の高い役職を独占していて、それに怒ったインド人がイギリス人狩りを始めたからか正確な情報は入って来ない。所詮、戦争は数だということを理解させられる。
「インド総督府が燃えたという情報は入って来てますよ」
「そこが燃えるとか、暴動の規模がどうなっているのか気になるな。ペルシア軍の進行状況は分かる?」
「日本がペルシア領に侵攻してから進軍は止まっているようです。彼らにとって、日本軍が侵攻してくるのは予想外だったようですね」
「……まあ、フラコミュとアメリカ大陸をかけた戦争中に纏まった軍隊が侵攻して来るとは思って無かっただろうな」
インドは無政府状態へ一直線だし、そこに侵攻をするペルシアも一旦はストップしそうだな。ムンバイに上陸したというペルシア軍もそこから前進出来ていないようなので、インドとペルシア間の戦線は硬直しそうだ。
それにしても宗教の対立というのは、どこの世界でも遺恨が残る。日本教がある程度伝播しているのは、良かったというべきか。日本への嫌悪感が強まった原因の1つでもあるだろうから、素直には喜べないけど。
インドに住むイギリス人の家が燃えても、インフラが止まっているから対応は出来ない。燃えた家から出て来たイギリス人を、襲う者も出て来ている。無抵抗主義者はいないのか、徹底的にイギリス人を追い出そうとしているな。
……これは、纏めて独立させても面白いような気がする。白人を追い出してスカスカとなった行政が、復活する可能性は極めて低い。それでも、分割して独立させた方が好ましいか。独立運動に参加しているインド人達が、どういう思想になっているかも気になる。
インドの案件は今後の世界情勢にも影響を及ぼすから、慎重に決めていきたい。大戦中の独立は我慢して貰って、大戦後に何ヵ国かに分けて独立させる方針で良いとは思うけど……イギリスの動向次第になりそうだ。




