第260話 インド反乱
2月26日に、駐日イギリス大使から連絡があった。インドの北部を中心に、シク教徒が本格的な独立運動を展開。民衆が武装化し、警察や軍との衝突を開始した。それに便乗して国内の反英感情が高まり、各地でイギリス人への抵抗運動が勃発。現地のイギリス人の迫害を始め、インフラも混乱を始めたのか鉄道が止まったとのこと。
……そんな中、インドの西側の大都市であるムンバイにペルシア軍が上陸したという情報も入る。インド洋の制海権はボロボロだろうな、これ。ペルシアは石油が豊富だし、燃料切れに期待は出来ない。石油の富を使った富国強兵政策の中で、海軍の増強も行なっていたのだろう。
イギリスとの交渉は、わりと難航している。向こうはアラビア半島にある石油の情報を知らないっぽいようだけど、ペルシア湾を日本に譲渡する考えは無い様だ。……いや、知っていても知らないフリはするか。逆にこちら側も知らないフリをしているから、完全に腹の探り合いとなっている。電話越しだと、込み入った交渉も難しいか。
アフガニスタンやペルシアはともかく、アラビア半島を実効支配をしたら、いざ戦争が終わったという時に揉める可能性がある。イギリスの国力が思っていたより低いから、戦争で疲弊した後に対立しても問題は無い可能性も高いけど、無駄に敵を増やすことは得策では無い。北アメリカ大陸を確保すれば、今は味方のメキシコや中米諸国連合に圧力を加えていく方針だし。
「インドは、独立させたくも無いんだよね。民族自決の精神が広まるきっかけになるかもしれないし……でも将来的にイギリスを落とすなら、インドは独立させたいし、遺恨を残してやりたい」
「戦争後に独立を出来るよう、イギリスはインドの独立を保障したのですが、今度は反戦運動も起こってますね」
「……あれ?ペルシアに侵攻されているのに、反戦運動が起こるの?」
「インド国内では正しい情報の入手が難しいようで、情報の錯誤が起こっているようです。ですから日本に入っている情報も正しいとは限りません。ペルシアが、強襲上陸を仕掛けたことは間違いないようですが」
インドは広大だし、人口が多い。人数が多いから、例え少数派と呼ばれるシク教徒でも数百万人が信仰しており、独立運動は過激だ。共産主義陣営としては、分割して統治をしたいのだろうか?日本に入って来ている情報も必ず正しいというわけじゃないと怜可さんに言われたところで、中央アジアを中心にした広域の地図を見る。
ペルシアが、随分と大きく見えるな。イランとインドの間には、本来ならパキスタンが入っていたはずだ。カザフスタンは、確かこの辺だったはずだから……やっぱり、アフガニスタンの大きさも改変前とは違うか。
改変前はカザフスタンがあった地域をロシアが領有していて、その南にはもうペルシアと日本とインドしか無い。インドとペルシアと日本のちょうど真ん中にある地域は、カシミール地方だと教えられた。
……聞き覚えがあるというか、カシミール問題のカシミールじゃないかな?具体的な場所は知らなかったけど。今はカシミール地方を、ペルシアもインドも日本も領有を主張してそうだ。
地図を確認したところで、日本軍とインド軍の共闘は難しそうなことを悟る。インドと日本の間にはヒマラヤ山脈があり、綺麗に分断されている形になる。無理にペルシア軍を相手に共同作戦を行なうよりかは、別々に戦った方が良い。
インドの鉄道網が混乱しているそうだから、陸の援軍は無しになるな。徴兵した国民は、訓練が完了次第ビルマへ駐屯して貰おうか。インド軍がどう暴走するかは読めないし、人口だけは多いから非常に怖い。
何せ、イギリスもインド人の総人口は把握していないほどだ。イギリス人のロイズさんの概算だけど、軽く4億人ぐらいは英領インドに住んでいるとのこと。日本人口が中国人や混血人込みでざっと6億人だから、日本の3分の2程度の人口か。
それがイギリス式の小銃を装備して襲って来るとか、恐怖でしかない。下手を打ちたくないから、アラビア半島の交渉も慎重にならざるを得ないことは理解している。それでも早目に交渉を終わらせないと、大参事に発展する可能性はあるな。
「インドでも、共産主義者は湧くのか。カースト制度が根強く残っている国だから、下々の人間が共産主義に希望を見出すのは分かる気がする」
「インドの共産党は、比較的日本に近い地域で活動をしています。接触は可能かもしれません」
「……共産主義陣営と戦争を始めた今の日本とインドの共産主義者達が交渉してくれるかは分からないけど、即物的なら扱いやすいか。接触は、していくべきだろうな」
「では何名かの諜報員を選抜して、接触を図ります」
……既にインドの北西部、日本に比較的近い地域で共産主義者が扇動を始めている。北東部からはペルシアの大軍が流れ込んでいるらしいし、インドはかなり危うい状態になっている。飛行機の派遣先は、セイロン島にしておくか。
そこから西に共産主義陣営の艦船が入って来ないか見張っておこう。余裕があれば、ペルシアやオスマンの艦艇を沈めていきたいけど、優先順位が違う気がする。
怜可さんにインドの共産主義者と接触するように命じたけど、どのぐらいの時間が必要かは分からない。何に助力するべきなのかは、慎重に判断しないといけないか。




