第255話 インド侵攻
年明けは研究関係で良い報告が続いたが、1つだけとんでもない報告が入って来た。それはペルシアによるインドへの侵攻と、インド人の蜂起だ。とうとうイギリスの支配下に置かれていたインド人の怒りが頂点に達したということだけど、最悪のタイミングだ。
きっとペルシアが扇動している地域もあるのだろうし、色々な国が介入しているはず。日本も、インドへはそれなりに諜報員を送っていた。共産主義陣営からの工作員も、侵入していると考えて良い。
……事ここに至っては、オスマンとペルシアの戦争なんて無かったと言わざるを得ない。元々、ペルシアは単独陣営だった。アフガニスタンを併合し、国内の機運を高めて、イギリスを背後から刺す。インドの防衛戦力は少なかったらしく、イギリスはすぐに救援を求めて来た。
十数年前に日本のビルマ方面へ侵攻しておいて、よく救援要請なんて出せたなぁと思いながらも、ここでイギリスが死なれても困るので援軍は出す。イギリスが倒れたら、プロイセンへの負担が急増して、プロイセンが倒れれば、そのままロシアまで倒れるだろう。そのシナリオは回避しなければならない。
共産主義陣営が勝つより、反共産主義陣営が勝つ方が戦後の世界で動きやすい。とりあえずビルマ方面に駐屯している軍は、インド救援に向かわせる方が良いだろう。ビルマに駐屯している軍の規模は、まだ大きいはず。
新しく戦線が構築されるので、中央アジア方面軍と名付け、軍集団の司令官を決めることになる。参謀本部に転がっている優秀な人材が我先にと立候補を始めたので、その中から1人、変わった人を指名した。
「毛利 真司さんにお願いしようかな」
「……参謀本部勤務の、毛利少将ですか。理由をお聞きしても、よろしいでしょうか?」
「いや、純粋に豊森家以外の将官の中で1番若そうだったから。まだ、33歳なんでしょ?」
「若い点は、メリットだけでは無いと思いますが……」
毛利真司さんは、苗字で分かるけど豊森家の人間では無い。また、豊森家の女性を嫁として受け入れてもいない。
……単純に名簿でも目立っていたし、庶流とはいえ毛利家の子孫らしい。というか、毛利家は本家の血筋が途絶えているのか。今まで積極的に調べて無かったけど、戦国時代にあれだけ苦労して降した相手が滅んでいるのは、諸行無常を感じる。
毛利さんは過去の戦争の研究を行なっていた人だけど、能力的には司令官でも問題無いだろう。参謀本部に豊森家じゃないのに在籍している時点で、基礎スペックがおかしいはず。常久さんが微妙な顔をしていたけど、若すぎることが問題というなら常久さんも明久さんも若い。というか、俺から見れば参謀本部にいる人は全員若い。
毛利さんには対ぺルシア軍の司令官として、インドを守るのと同時に、旧アフガニスタン国境からペルシアへ侵攻するように命じた。後は毛利さんが、何とかするはず。軍はビルマ方面に駐屯している軍と、ビルマに住んでいて予備役になっている人を集めて編成する軍を活用することになった。
インドからイギリス軍が流れ込んで来た時の備えとして、元々50個師団規模はすぐに用意出来る範囲だった。その内、10個師団は明久中将がプロイセンへ送ったから、残りは40個師団規模かな。それを全部出してしまっても問題は無いけど、不安だから徴兵を始めるしかないか。
……ペルシアを相手にするのは、ちょっと苦しいかもしれない。そろそろ、徴兵を始めないと不味い状況に差し掛かる。まだ志願兵の応募が多いから何とかなっているけど、もう1つ戦線を抱えれば辛い。
そんな状況で、ロシアがオスマンを相手に形勢が不利だと伝えられる。どうやら偽装戦争をする意味も無くなったと判断したのか、オスマン軍が冬季なのに全力でロシアに攻め入っているらしい。これを救援する余力が日本には無いけど、戦線を突破されればロシアの柔らかい下腹部が食い破られるだろう。
幸い、今は冬だ。大規模な進軍は難しいと思いたいし、ロシアの対応も間に合うはず。問題は、冬とか関係無く暖かいペルシアとインドの戦線だ。日本軍が到着するまでに、どのぐらいの領土を失陥するかも読めない。
そもそも、インド国内を日本軍が無事に通過するのも難しいかもしれない。様子を聞いて、最悪の場合は旧中国領からペルシアに侵攻するしかないか。
「……日本以外、全方面で守勢か。耐えるしかないな」
「耐えた先に、活路はありますか?」
「アメリカ大陸におけるフラコミュ軍の軍量は、およそ80万人規模だと言っていた。その下にある民兵組織が150万人で、相対する日本軍は120万人。こうなると如何にしてフラコミュ軍を殺戮出来るかという戦いになるけど、今のところは順調だから、活路はあるはず」
フラコミュの捕虜からフラコミュ軍の総数が分かったことは、1番の収穫だったかもしれない。概算がしやすくなったし、民兵が多いという心構えも出来る。武器を生産する工場が多いから、弾薬切れを期待するのは難しそうだ。そしてフラコミュのアメリカ領は、ある程度の独立性もある。
フラコミュと物資のやり取りをしなくても、アメリカにあるフラコミュ領だけで自立が出来る。まあ、生産能力が高いのは当然か。イギリスとの北アメリカ大陸奪い合い戦争の時に、一々物資をフラコミュから輸送していては勝てるものも勝てなくなる。
だからある程度、工場や農場があることは覚悟していた。人口は、ざっくりと推計すると1億人程度。その内550万人が、既に日本軍によって支配された地域に住んでいる人だ。人口だけみれば、まだアメリカ大陸の5%しか占領出来ていないことに驚く。
……日本軍が奪取したフラコミュの工場は、大体が爆発したり、燃やされたりしている。北アメリカ大陸にいる日本軍の物資が心許無いことは、分かっているのだろう。焦土作戦を国民が勝手にやっている感じだし、厄介なことこの上ない。
日本軍の破竹の行軍もそろそろ止まりそうだな。これからは、補給線を保ちながら進軍しないといけない。アメリカの東海岸は、まだ遥か先だ。




