第247話 フラコミュの内情
10月12日。待ちに待った、フラコミュ人捕虜が日本に送られて来た。フラコミュでも比較的高い地位に居た、老若男女20人だ。内一名、航海中に脱獄したようで殴り合いとなり、日本軍人が殴り殺してしまったから海に捨てた模様。日本軍人のヤバさがよく分かるエピソードだ。
彼らは上陸作戦の決行日から3日以内に捕らえられた捕虜で、海岸付近の街に住んでいたらしい。軍港に勤務していた人もいるので、情報の山だ。
連れて来られたフラコミュ人は、ほぼ全員が一枚の布しか纏っていない上、目が死んでいる。同胞を1人、殴り殺されているなら死んだ目にもなるか。ほとんどの人間が反抗的だったから、大変だったと連れて来た人達は言っていた。……基本的に、臣従しないなら死ねという路線を貫いていたから、反抗的な人間を無理やり連れて来るのは経験が少なくて大変だったのだろう。
そもそも、船で1ヵ月かけて移動するだけでも大変なのだ。往復で船の操縦をしていた人達にはちゃんと休んで貰って、またアメリカの大地まで食糧や弾薬を運んで貰おう。人員は増やしているから、しっかりローテーションも出来ている。
これからフラコミュ人は、尋問部屋というか、拷問部屋で色々と情報を吐いて貰うことになる。一応、船の中でもある程度は聞いたらしいけど、深い部分までは聞けていない。というかほとんどの人間が口を閉ざしていた。フラコミュの洗脳教育は、凄まじい成果を挙げているようだな。
「……日本人はとても野蛮で頭がおかしい、と喋っています」
「おかしいのは共産主義なのに高い地位が存在することだよ。
地区のリーダーがいて、農場のリーダーがいて、監視者がいるって共産主義の理念が崩壊しているぞ」
今年で10歳になるアリスちゃんが通訳を担当し、唯一心が折れている20代男性の人からフラコミュの情報を入手していく。一先ず突っ込みたいのは、管理者や権限のある立場になると労働時間が増えるのに賃金は変わらないという、改変前の日本のブラック企業みたいな状態になっていることだな。
……仕事量が増えるから、立場ある仕事はみんなが嫌がるので、譲り合いが行なわれるらしい。一方で国を取り仕切る7人の席は、ある程度の競争が起こるとか。聞く限り、随分と鬱屈した社会だ。
そして仕事への意欲は、日本以上に低かったみたいだ。しかしサボるようなやつには裏で制裁を与えることも少なく無いようで、全員が働いてはいた模様。サボる人間に対して、犯罪が看過されているって状態か。給与が同じだから、意欲はどうしても低くなるのは分かるけど、それで社会が成り立っていたのは驚きしかない。
フラコミュ人捕虜と同時に、鹵獲品も送られて来たので解析し放題だ。一番大きいのは、フラコミュの内燃機関の設計図を手に入れたことだな。亡命して来たフランス人達の内燃機関も参考にはなったけど、古い情報だった。今回は、フラコミュの最新鋭の艦船に使われる内燃機関だから、この世界では高い水準のものだろう。
それと同時に、潜水艦の技術や魚雷の技術も取得できるはずだ。フラコミュの、大きな戦艦を再現できるかもしれない。16インチ砲って、41センチ砲か。大型の戦艦を、造ってみたいという気持ちはあるな。装甲関係の技術に関しては、全部取得しておくか。
後はやっぱり、ソナーや無線機器、電池や魚雷の技術が入ったのは大きい。フラコミュには超音波で敵潜水艦の位置を把握できるソナーがあって、これは3ヵ月もあれば真似して量産できると研究統括本部の人は言っていた。
……本当に、3ヵ月で開発出来るなら半年で量産体制まで持って行けるだろう。潜水艦対策は、万全にした方が良い。駆逐艦にソナーと爆雷を積むことで、潜水艦への備えにしよう。
フラコミュから回収できる技術は、かなり多いと思う。残りの部分をプロイセンから買い取れば、世界最高水準の技術力を手に入れられるだろう。そうなれば、日本はかなり優位に立てる。
ただ、真似事ばかりなので本当の開発力があるかないかで問われると微妙だ。一先ず、鹵獲品は解析と部品レベルの再現から始めよう。フラコミュも工場での大量生産は行なっていたみたいで、規格化は行えていたらしい。その点が、フラコミュの強みでもあったのかな。
「優秀な人間をこき使うことが効率化への第一歩ではあるのだけど、フラコミュの場合は半強制的に働かせ続けていたのか」
「それでいて、同一賃金は酷いですね。私財すら認めない共産主義は、末恐ろしい社会です」
「社会主義を実践した国は知ってるけど、まさかフラコミュがガチの共産主義とは思わなかった。それでよく、100年も世界のトップを走れたものだ」
「共産主義に切り替わったタイミングが良かったのと、仕組み自体を考え付いた人が凄い人物だったのだと思います」
フラコミュの内情は、聞けば聞くほど仕組みを考えた人物の頭の中を知りたくなってきた。アリスちゃんは切り替わったタイミングが良かったとも言っているけど、タイミングよりかは仕組みを考えた人の頭が凄かったことの方が要因として大きい。
貯金がアウトは、流石に笑えない社会だ。高額の物を買う時は、基本的に分割して払うことになるようで、先々の給料が天引きされる。生涯で稼ぐ賃金というものが、あらかじめ決まっている。本当は、お金すら廃止したかったのだろう。
逆にフラコミュの人は、日本の超が付く格差社会に驚いていた。どうやらフラコミュ人は日本も共産主義だと思っていたらしい。どうしてそう思ったのか、凄く不思議だけど、フラコミュの上層部的にはそう思って貰った方が都合は良かったのかな?




