第243話 対空砲火
9月27日。上陸した軍から、フラコミュの飛行機を撃ち落としたという報告が入る。撃ち落としたのはサンフランシスコ方面軍の第3軍で、偵察飛行をしに来た飛行機に対して機関銃で立ち向かったらしい。そして飛行機が機関銃で落ちるという事は、まだまだ飛行機の技術レベルは低いということだ。
対空専用の機関銃を開発しておいて、良かったというべきか。もしもフラコミュの飛行機が頑丈なら、機関銃では撃ち落とせなかっただろうから、運が良かったというべきか。アラスカ戦線で飛んで来なかったのに上陸軍に対しては飛行機を飛ばしている、というのは対空砲の警戒をしていたのかな。
とにかく、対空砲が機能したことは大きいし、日本の飛行機も簡単に撃ち落とされるだろうということが把握出来た。新山の実戦投入は、難しいかな。フラコミュ側も、対空砲は用意してそうだ。
まず日本の飛行機は機関銃で簡単に撃ち落とされないように、鉄板を仕込んだりすることで強度を上げる必要がある。それか、速度とパイロットの練度を上げて当たらないように回避する方向で対策をするか。ただパイロットは補充が効かないことを考えると、機体性能を上げるべきだよな。
「やっぱり、エンジン性能の強化は必須か。出力を上げないと、どうしようもないし、航続距離も伸びない」
「そのお金を、どこから捻出するかですね」
「……赤字事業の民営化は、流石にしない方が良いな。新税導入はこれ以上したくないし、他の研究費を削るか」
予算会議で疲れている仁美さんが死んだ目でどこの研究費を削るんです?と聞いて来たので、とりあえず新型の火砲研究をストップさせる。これ以上精度を突き詰める必要が無いし、もしかしたらプロイセン陣営で統一規格を開発するかもしれない。そもそも、火砲関連には無駄にお金を使っている感じだ。
と言っても、対空砲の研究は進めないといけないのでそれ以外から削るしかない。となると、超巨大な列車砲の開発をストップさせるしかないか。まあ、現行の列車砲は取り扱いもしやすいし、一時的に開発を停止させても問題無いだろう。
元々セイロン島に配備する予定だったんだし、イギリスを警戒しなくても良い状況で、開発を急ぐ必要も無い。あと、セイロン島の要塞化もスローペースにして予算を浮かせよう。
「それにしても、対空砲って砲弾を空中で炸裂させるしかないのか?」
「現状、効果が最も高いのは炸裂弾です。次点で機関銃ですね。味方の被害を抑えながら、敵機の被害を大きくしようとするのも難しいです」
愛華さんに、砲弾の種類について聞いておく。現状、日本の砲弾は幾つかあり、役割毎に砲弾を切り替えている感じだ。対空砲で使用している炸裂弾は、時間経過で爆発するから空中で爆発するとのこと。よく時限式の信管で飛行機を撃ち落とせたな。
戦場で人に向けて砲撃をするならクラスター弾だし、要塞に穴を空けるなら徹甲弾になる。そして大型の船に対しては、最近になってナパーム弾っぽい物が開発された。初風型駆逐艦から搭載を始めた、かなり危険な砲弾のようだ。
石油を精製する過程で得られる燃えやすいものの粘度を高くして、敵艦船にそれを貼り付ける主砲と、それを引火するための副砲。これのお陰でフラコミュの戦艦は炎上し、沈没するに至った。
……仰角を高くして甲板にぶち当てられるのは凄いと思うし、炎上狙いは悪くない。ただ、戦艦が炎上するまでの間、砲弾の雨を降らせ続けるのは流石に効率が悪かった。こちら側にも甚大な被害が出たというだけで無く、海軍の中核を担うはずの若者が大勢死んだのは痛すぎる。
参戦した駆逐艦64隻の内、沈没16隻、大破17隻、中破14隻は色々とヤバい。無事な駆逐艦の方が少ないのは、如何に戦艦を相手にするのが難しいかの現れでもある。向こうの副砲が直撃するだけで、下手すればこちらの駆逐艦は沈むしな。
まず朝から晩まで艦隊決戦が続いたこと自体、異常だ。今回戦ったフラコミュの戦艦は、たぶん世界で最も凄惨な結末を迎えた戦艦だろう。ナパーム弾っぽいものの名前は、開発者が油炎弾と名付けているのでそちらを使おう。たぶん、ナパームを使っているわけじゃ無いだろうし。そもそも、ナパームの原材料が何かを知らないし。
「特殊弾は、結構あるな。今までの積み重ねで開発して来た弾と、最近になって色々と改良を加えた弾があるのか」
「その分、弾の切り替えがややこしいと砲兵からは不満気味ですが、効果は大きいです」
「砲弾の切り替えぐらいは簡単に出来そうなものだけど、やっぱり難しいの?」
「司令官が現状を把握してから指示を出しているとタイムラグが発生するので、あらかじめ指示を出すしかないのですが、上手く切り替えられるような指示を出せる司令官は少ないですね」
日本の砲兵は、練度が高いと言われている。それは砲弾を寸分の狂いなく撃ち込めるからだけど、砲弾の重さや大きさがある程度統一されているのも大きい。ただ、フラコミュの方が練度という面では高そうだ。
フラコミュの砲兵は、目標物に接近するまでひたすら前進し、当てられるようになってから砲撃する。気が狂っているというか、よく戦場のど真ん中を前進出来るな、とは思う。日中戦争で従軍しているから分かっているけど、砲弾が降り注ぐ中で前進するのはかなりの勇気が必要だ。
日本の兵に、その勇気は無い。圧倒的な物量と火力と人数で押し潰すことが基本戦術だけど、人命は大切にしている方だ。この差が、アラスカ戦線では不利に働いた点だろう。アラスカ戦線では、物量も火力も人数も不足していたしな。




