表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/425

第21話 答弁

予算会議2日目。今日からは本格的な予算会議が始まると聞き、講堂の隅の方に座って観戦していたけど、途中から居辛くなってきたので午前の部が終わると同時に抜け出してきた。


「いつも、あんな風に追及されるの?」

「いつも、あんな感じです」


会議を傍聴していて最初に思ったことは、多くの人がいるのにとても静かだということ。国の予算会議なんて野次罵倒が飛び交うものだと思っていたけど、全然違った。仁美さんや追及する側の人の声が、拡声器も無いのにとても良く通る。それぐらい雑談や、独り言すら無かった。


「……準備段階ではうるさかったのにね」

「会議中、私語は厳禁ですので」

「それでも一切の物音すらしないのは、凄いと思ったよ」


今年度の予算案の初期計画段階では、歳入に対して歳出が106%となった。これを仁美さん達は7%分減らして99%に納めることが仕事だ。だから少しでも怪しいところは追及するし、怪しくなくても追及する。


「今日の午前だけで目標の3割は削ったって仁美さんが言ってたけど、あのペースで3日間続けるのか……」

「ずっとあのペースではありません。今日は新規事業や予算を増やして欲しいと申告をしてきた部署の言い訳がメインなので、必然的に追及の回数は多くなります」


そして追及された側が弁明をすると、同業他社の人や偉そうな人から手が上がり、参考意見が提出される。日本海を中心に活動する船団を複数持つ人と、太平洋を中心に活動する船団を1つしか持たない人とでは感覚が違うと思うけど、その参考意見と本人の弁明を聞いて中央にいる仁美さん達が判断する。


要するに、日本のお金を実質的に管理しているのは壇上にいたあの8人だということだ。纏めた予算案が気に入らなかったら好き勝手にいじれるという豊森家の当主がその上にいるのは間違いないんだけど、実際好き勝手にいじった前例がほとんど無いそうだから、予算案はあの予算会議で決まるもの、と思って良いだろう。


……昔の予算会議は息子達が集まって、ガヤガヤと雑談しながら楽しそうに予算の振り分けをしていたのに、いつの間にこうなったのだろうか。1人、初めて予算会議に参加したと思われる男の子が涙目になりながら答弁していたのを見て、そう思った。


「秀則様、お帰りなさい」

「あれ、島津さんだけ?」

「愛莉はあまり長時間座って勉強することが出来ない、です。今は木下さんと外に行ってます」

「……京都探索でもしてるのかな。一応、愛知より店は多いし遊べそうな所も多いけど」


本邸に帰ると、島津さんは勉強をしていたけど加藤さんと木下さんが脱走していた。いや、脱走したのは加藤さん1人かな。


「まあ、誰か1人でも継続して勉強が出来ているならそれで良いか。講師役はここに大勢いるし、わからないところがあれば誰でも良いから聞けよ」

「はい。頑張ります」


飛行機の開発が終わって空軍の設立を行う時、知識や経験の無い人間を指揮官や隊長にすることは出来ないので、暇な時に3人娘には勉強をするように言っておいた。しかし、加藤さんは興味のある分野以外勉強できない体質らしい。特に暗記物は全く駄目なようで、勉強に対して集中力が続かないようだ。


……加藤さんみたいな子を無理やり勉強させても身に付かないだろうし、興味のあるという兵器学だけでもやらせるか。本当なら陸軍の中でもエリートだったという親衛隊の隊員から航空戦のイメージが出来る人間を空軍のトップに据えるのが正解なのだろうけど、俺以外誰一人として空戦のイメージが出来ていないのが現状。


「ただい、ま?」

「おかえり。今すぐ飛行機の絵に機銃を描き加えるから、絵を描く準備をしてくれ」

「え、あれ?怒らないの……?」

「何で俺が怒らないといけないんだ」


そうこうしている内に加藤さんが帰って来たので、飛行機の絵に機銃を足して貰う。本当に加藤さんは架空の存在、というか俺の頭の中にある絵を描くのが上手いので、これからも有効活用をしていく。そして、銃を持った飛行機の絵を描いたのに具体的な空戦のイメージができる人間は親衛隊の中にいなかった。


……まあ、ハンググライダーで飛んでいるところを見れば空戦の想像ぐらいは出来るだろうから、慌てなくても良いか。機関銃の開発自体がまだだろうし。対空砲だけは空戦のイメージが出来なくても設置させるけど。


セイロン島にも対空砲は設置したいから、将寛さんに伝えておこうか。予算会議中で大変だろうけど、賢そうな雰囲気だったし大丈夫だろう。


「一応、島津さんより木下さんの方が頭は良いのか。……木下さんは、暇な時に軍史や戦術学も学んでおいてくれる?」

「軍史と戦術学ですか。……あの、どうして私達に勉強をさせるのでしょうか?」

「最終的には飛行機のパイロットとしての技術を持つだろうから、軍に所属することになるなら知識を蓄えて欲しいって思っただけだよ。飛行機開発が完了したら終わる関係にはしたくないし」


この3人娘はハンググライダーの操縦者として、戦闘機開発や爆撃機開発の際のテストパイロットとして、操縦技術を身に付けるはずだ。そんな人を空軍に所属させない方がおかしいので、暇な時に軍人としての勉強や訓練をさせる。本人達も軍人になることへの抵抗とかはないみたいだし。


加藤さんとは違い、木下さんや島津さんは勉強ができるっぽいので、将来的には空軍の佐官候補となる。その時まで心身ともに無事なら、という条件はあるけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ