第241話 規格統一
9月19日にロシアから入って来た一報で、バクー油田の火災を知る。オスマン帝国の工作員の仕業だとロシア国内では報道されているが、油田で火災というのは本当にヤバい。施設に働く人や警備の人に多数の死者が出たそうだし、被害総額はかなり高そう。
日本も、油田の火災に関しては何かしらの対策をしておかないといけないだろう。現状、燃えにくい大きな鉄の蓋を用意することで、酸素の供給を途絶えさせるという方法を準備しているけど、他にも手段はあった方が良い。
ロシアの方は二酸化炭素を吹き込んで消火することを目論んでいたが、見事に失敗して大炎上に発展している。バクー油田の石油が全て燃えるわけじゃないだろうけど、大損害だし大被害だ。
オスマンとロシアの戦線は膠着していたようだけど、今回の火災で一時的にオスマンが押し始めたらしい。後方で起きた大火災に、ロシア軍は動揺したわけだな。
「……ねえ、油田の火災ってまだ日本では起きて無かったよね?」
「はい。まだ一度も起きて無いはずです。流石に油田の火災を隠蔽するのは無理ですし、実際に火事になれば報告は上がるでしょう」
「なら、火災が起きても大丈夫なように消火案を複数、用意しておいて。火が大規模になってしまった時の対処法も、しっかり確立させておこう」
愛華さんに今までの火災対策を聞いて、防火の意識を高めようと思った。……しかし、実際に油田で火事が起こったらどうするのだろう?雨乞いしても消えるとは思えないのだけど、自然鎮火を待つのか?
とにかく、ロシア軍が押され始めたのは不味い。ロシア国内では共産主義者がのさばっているし、敗色濃厚になったら即座に負けになる可能性もあるから注意はしておくべきだった。
……イギリス軍が、スエズ方面から逆侵攻をすることは難しいだろう。となれば、日本が援軍を送ることになるのか。もういっそ、ロシア国土に日本の鉄道を敷設させようか。輸送能力が高くなれば、日本の物量も活かせて来るし。
「ロシア国内で日本の鉄道を敷設することは、無理かな?」
「線路の幅が一致しないので、後々には譲渡すると言っても難しいでしょう」
「……うん?線路の幅、違ったの?」
「はい。ロシアの方が、幅は広いですね。少なくともロシアの線路で、日本の汽車は走ることが出来ません」
そんなことを考えていたら、線路の幅が違うという衝撃の事実を愛華さんから告げられる。よくよく考えてみれば当たり前のことなのだけど、凄く意外な感じがした。線路の幅が違うから、日本の汽車は活用出来ないし、何より列車砲の輸出が出来ないのか。
「……フラコミュとも、規格は違う?」
「はい。報告では、フラコミュの線路は日本の線路よりも幅が狭いために活用することが難しいです。フラコミュの線路で列車砲を運用することは難しいので、轢き直すことになりますね」
「フラコミュの線路に合わせた汽車を、少しは作るべきだったな。敷設し直す作業の時とかは、活躍しそうだけど難しい?」
「いえ、難しくはありませんが……活用する方法を、模索しましょうか」
愛華さんと相談した結果、フラコミュの線路も活用できる列車を開発することになった。そんなに多額の予算は、必要無いだろう。あくまで、戦地で敵線路を活用するだけだし。
逆に言えば、日本の線路をフラコミュもロシアも活用出来ないのか。この事実は、結構重要な気がする。
規格が偶然にも一致しているというのは、無さそうか。プロイセンの規格はロシアと同じだろうし、日本の規格について気にしたことも無さそう。
線路だけでは無く、砲弾や銃弾も一致はしていない。そもそも、国内での規格化すらまだな国も多いのだ。連合軍として戦う時に、最大の足枷となる部分だな。日本軍は日本の小銃、大砲を持って行って使っているので、プロイセン軍と補給が別になっている。
この統一も必要だと思うのだけど、まだ統一司令部が出来たばかりだから難しいか。何事でも統一する際に起こる問題は多いし、必要性が高いものから順に統一していくしかない。むしろ、よく司令部が統一したと思うよ。
「……文人中将は、統一司令部の参謀部に所属することになったと。あの人、凄いな」
「お父さんは基本に忠実で、堅実な戦い方をしますが、それ以上に相手のミスを咎めるのが上手いです。敵の戦力低下を、感覚で知ることが出来ると言っていました」
「それ、半分人外の域に足を突っ込んでいるような気がするのだけど」
「完全に不死身な秀則さんに言われたくはないと思いますよ」
プロイセンからの報告書を読んでいたら、彩花さんのお父さんが統一司令部に異動したという内容が書かれていた。現場から有能な司令官を、次々と集めたらしい。それによって戦線が押され始めている箇所もあるようだけど、中央がしっかりしていれば持ち直すだろう。
彩花さんからは、お義父さんがシックスセンスにも頼れる堅実な司令官ということを教えて貰い、今までの戦果にも納得をする。プロイセン軍の第8軍を今まで率いていたようだけど、イタリア軍を相手に戦いを続け、大量の捕虜も獲得したらしい。
……日本人で最大の戦果を挙げているのは、対スカンディナヴィア戦線に配属された今川さんだけど。一時的に師団の司令官代行を務め、あり得ないレベルの戦果を叩き出している。師団を率いて軍団を翻弄する時点で、何かがおかしい。
まあ、プロイセンの戦線は明久中将に任せよう。あの人も、経歴を見ると目立たない日陰者だったようだけど、頭の回転の速さは常久さんも認めているし、俺も認めた。オーストラリアに駐屯させてある師団や沖縄に駐屯している師団を、少しずつ捻出して欧州戦線まで派遣しているそうだし、何とかプロイセンも踏み止まって欲しい。




