第240話 爆撃機
9月17日。予算会議が始まって仁美さんが忙しく働いているのを横目に、爆撃機の試運転を見に行く。予算会議の方は、新税のお陰か幾分か楽になったようだけど、それでも研究開発費不足なのは続いている。やっぱり人件費が辛いけど、それは仕方のないことだから何も言えない。
田中さんは僅か5ヵ月で、簡易的とはいえ爆撃機をつくってしまった。積んでいる爆弾の数は2個だけだけど、十分だ。爆撃機があるというだけで、個人的な心労が軽くなる。ちなみにこの爆撃機、機銃も積んでいるので戦闘機も兼ねている。
相変わらず落ち着きのない加藤さんが試作爆撃機に試乗し、そこそこ高い高度から爆弾を投下した。案の定、クラスター爆弾だったので広範囲に鉄片が飛ぶ。あれを回収するのは、大変そうだな。
「あれを2発落とせるのか。近接航空支援機としては、十分じゃない?」
「爆弾を2つと、機銃の装備もしています。ただ、弾を多く積むことは出来ませんでした」
「ああ、機銃は弾が少ないのか。まあ、それは戦闘機の方で多く積んで役割分担をしよう。
早速、量産化かな。田中さんはお疲れ様。よく頑張ってくれたよ」
「ありがとうございます」
ふらっふらな田中さんが心配なので、安香さんにしっかりと体調管理をするよう言っておく。計算通りに無茶をするって、ある意味一番怖い状態だけど凄いことだよな。
機銃の方は12連射×10で、そこまで使い勝手が悪いわけでは無い。しかしながら、弾薬数は心許無い。せめて1000発は搭載したいけど、技術的に難しい模様。この爆撃機に搭載している機銃は、パイロットがレバーを動かしてリロードする作業を行なう必要がある。
戦闘中に出来るかは分からないが、加藤さんは飛びながらリロードが出来たようだし、ちょっと訓練すれば何とかなるだろうと予想。量産体制に入る。
これから、月に250機ほどこの爆撃機が生産されることとなる。実戦運用が上手くいけば、本格的な量産も行なうだろう。名前は……初めての爆撃機だし、新山で良いや。そんな感じの名前の爆撃機が、日本にあったような気もするし。
量産化に入るという事は、この飛行機を戦場に持っていくということにもなる。実戦投入をして、どうなるかは予測が難しい。他国の対空砲がどれほど凄いのか、日本はまだ体感してないのだ。
ただ、戦場で敵の歩兵を吹き飛ばすことや薙ぎ払うことが出来れば、日本にとってかなり優位な状況になるだろう。そう上手くいくとは思えないけど、時には楽観的な思考になりたい。
「空軍は分隊の概念を無くして、5機で1個小隊にするのか。……5機で、編隊飛行をするの?」
「そうなります。5機で1つの小隊、25機で中隊、125機で大隊、です」
「航空師団は、空軍大佐が率いることになると。少数の師団だし、そうなるか」
「大隊以下は、なるべく陸軍や海軍の階級と合わせています。小隊長は、空軍大尉となります、です」
島津さんが色々と空軍の戦術研究をしてくれていたけど、250機で1個航空師団として運用するらしい。航空師団にはパイロットの他にも通信兵や整備兵を多数抱えて、補給中隊や警備中隊も付随するから結構な人数になる。それでもトップは、大佐になるようだ。まあ、士官が増えればこの辺は見直されるだろう。
5機で編隊飛行は、頭で思い浮かびやすいV字型の編隊飛行になる。敵機と遭遇すれば、双方がどう動くのか、消費燃料についても色々と考えた結果、V字型の編隊飛行になった模様。1対1は避ける方針だとも、島津さんは言っていた。
空戦は、未だにイメージ出来る人材が少ない。だから机上の空論になりやすいし、議論すること自体が難しい。そんな中で、島津さんだけは地に足のついた理論を展開している。
「飛行機の性能で、求めるべきは最高速度ではなく加速力と旋回性です。田中さんには、そのことを伝えておいて下さい」
「わかった。でも、高度は求めても良いだろ?」
「高度は、必ず必要となるケースが少ないです。一方で、加速力は戦闘時において最も必要となります、です」
「……なるほどね。俺も、最重要項目は加速度だと考えるようにするよ」
島津さんに高度は必要ないとバッサリ切られたが、実際に必要が無いのか俺には分からない。敵機の方が高ければ一方的な戦いになりそうなものだけど……島津さんなりの理論があるのだろう。
とりあえず、島津さんがそこまで加速性能を求めるなら、きっと加速性能が最重要項目だ。田中さんを含めた航空機の開発チームにはこのことを伝えて、加速力を第一にして爆撃機や戦闘機の開発を行なって貰う。
後は、やっぱり飛行機の搭載能力を増やしていくことは大切だ。2人乗りにすれば操縦係と機銃係で役割分担が出来るし、爆弾も小型の爆弾では無くて大型の爆弾を積めるようになる。一回の飛行で、より多くの敵兵を殺すことが出来る。
そのためのエンジン開発は、やっぱりお金がかかるな。既存のエンジンを改良するのと同時に、何か新しい技術を盛り込んで遠距離の飛行も可能にしたいし、馬力も上げていきたい。
……それにしても、加速性能を向上させるにはどうしたら良いのだろう?プロペラを増やすのは、あまり意味が無いような気もするし、回転数を上げるしか無いか?それは最高速度を上げることにも繋がると思うけど、どうなのだろう?
空気抵抗を、なるべく抑えたりするのも重要になるか。一先ず、実験を繰り返してトライ&エラーを研究者達にさせよう。予算は、飛行機関連なら何とかなるはずだ。




