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織田信長の天下統一を手助けして現代に帰った俺が何故か祭り上げられている件について  作者: 廃れた二千円札
第十章:世界大戦

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第238.5話 処刑場

8月18日。プロイセンの参謀本部で開かれた会議では統一司令部の設立が議題に上がり、各国から派遣された士官達もそれを歓迎した。最早、派遣された軍の損害回避などをしていれば、プロイセンを救えないからだ。


そして前線で指揮をしていた士官や、各国から集まった若い士官が集まり、司令部の設立について、具体的な話が進んでいく。統一司令部のトップには、プロイセン軍人であるバルヘルム元帥が据えられることになっている。


その場に居た品川少佐は、すぐに元留学生達にこのことを伝えた。当然、対スカンディナヴィア戦線に配属されていたこの3人にも、情報は伝わる。


「とうとう、統一司令部が設立されるみたいね」

「……思っていたより早かったな、か」

「秀則様は、どのぐらい時間がかかると思っていたんだろう?」


豊森香保子は受話器を置き、重苦しい雰囲気になっている豊森明佳と今川忠治に統一司令部が設立された件を伝える。その内容を聞いて、明佳は秀則が前に電話で喋っていた言葉が気にかかった。秀則は統一された司令部の設立をすると聞いた時に、思っていたよりも早かったなと、素直な感想を吐露しているからだ。


連合軍が1つの軍として戦えるようにするため、司令部の統一という作業は必要な作業だ。しかし秀則には、第一次世界大戦でイギリス軍とフランス軍は共闘こそしていたものの、最終年になるまで司令部の統一が為されていないことを知っていた。


各国から集まった軍は、あくまで援軍であり、その国々の国民で構成されている。独自に裁量する権限を持っていないと、被害が大きくなる戦線を担当させられたり、無理な戦闘をさせられる。要するに、援軍を率いる司令官は自国の軍に大きな損害を与えたくないのだ。


プロイセンに派遣されたロシア軍やイギリス軍にも、大戦初期はこれと同様の動きがあった。被害が大きくなりそうなら早期に撤退して、後方に戦線を張り直す。ベルギー領を守る時には、本土を守るための戦いなのだからとベルギー軍を主力にし、損害の回避を図った。


しかし、そのようなことをしていればベルギー軍やプロイセン軍が早々に潰されてしまう。事ここに至っては、損害回避の動きをしていても無駄だという思考になり、今回の統一司令部の設立にはロシア軍もイギリス軍も賛成した。


残るは、日本軍である。元々規模は小さいながらも、プロイセンの師団を利用して日本軍も独自の戦略で動いていた。数が少ないながらも、日本軍だけは多大な戦果を挙げていた。


「日本軍の士官が、結構な割合で統一司令部に入ったから評価はされているわよね」

「というか、明るい話題は第8軍が戦っている対オーストリア=ハンガリー戦線しかないからね。」

「第8軍が、文人中将の率いる軍だったか。文人中将が司令官なら、3倍の数が相手でも跳ね返すだろう。問題は、統一司令部の参謀に文人中将が選ばれたことだ。現場から有能な司令官を集めるのは分かるが、今のタイミングでそれをすれば戦線が崩壊する可能性もあることが分からないのは不味い」


香保子は日本軍の士官が統一司令部に多い割合で所属することを素直に喜んでいるが、対して明佳は現場から有能な司令官が消える懸念をしている。日本軍人が多い対オーストリア戦線は、一番戦力比の差が大きい戦線だ。現場でも有能な司令官は必要不可欠であり、その数が少なくなると起こりうる問題は多い。




統一司令部が最初に目標として定めたことは、現在最も連合軍が楽に戦えているオーストリア軍とイタリア軍を、包囲殲滅することだ。統一司令部のトップであるバルヘルム元帥は、作戦名「Gericht」の具体的な内容を日本軍人達と煮詰めていくことを決め、会議は終わった。


3人は、そのことについても話し合う。


「作戦名のGerichtは、日本語に訳せば処刑場で良いの?それとも、裁きとかの方が格好良い?」

「どっちでも大差無いよ。作戦の内容的に、処刑場の方が良いかもね」

「……新規投入される軍隊のほとんどが、学生による新兵か。士気だけで前進し続けられるとは、とても思えないな」


香保子は、報告書に書く作戦名の翻訳に悩み、今川は処刑場と訳す方が良いと伝えた。プロイセン国内で起こった出来事を、留学生である彼らは出来る限り正確に報告書へ書いている。


現状、イタリア軍は3個軍、オーストリア軍は5個軍規模でプロイセン国内に侵攻している。その総数は、180万人だ。弱兵でも、装備が貧弱でも、数が多ければそれだけで対処をすることは難しい。それを防ぐプロイセン軍や日本軍、ロシア軍の総数は100万人で、どうしても防戦一方になってしまっている。


この戦場に、新しく編成した軍を投入することで幅広い戦線の両翼を押し上げ、大規模な包囲殲滅をしようとしている。包囲殲滅こそが戦場の華だと思っている人物が、統一司令部のトップになったからだ。


「……そろそろ休憩時間は終わりだし、行って来るよ」

「師団司令部の参謀長は大変だな。俺も出来れば忙しい方が良いのだが……プロイセンは、日本みたいに異動することは難しいからなぁ」


海軍の領海管理局に所属となった明佳と香保子は、陸軍士官として忙しい今川とは対極的に、それほど忙しい毎日を送っているわけではない。特に明佳は、香保子が日本向けの報告書を書くという仕事を奪っているため、時間的な余裕があった。


その余暇を活かして、大規模包囲は成功するか、成功するためには何が必要かを考える。それを明佳は紙に纏めて、橋渡し役として忙しい品川少佐まで送った。

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