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織田信長の天下統一を手助けして現代に帰った俺が何故か祭り上げられている件について  作者: 廃れた二千円札
第十章:世界大戦

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第235.5話 俯瞰視点

この国は、何なのだろうか?


イギリスの外務大臣であるロイズが日本に来て、最初に抱いた感情は拒絶だった。人々は機械的に仕事をこなし、支配層であるはずの豊森家でさえ失敗を恐れている。


成功主義、これがロイズの頭に浮かんだ言葉だった。とにかく日本人が全員、極度に失敗を恐れているように感じたからだ。実際、失敗して評価が下がることを恐れているのは間違いではない。


そして、日本は男女平等な社会だと勝手に思っていたロイズは、日本が平等な社会とは程遠いことも知る。男女は別の生き物として扱っており、優秀な男と平均未満の男では待遇に大きな差があることも知った。男性と女性の性差を、女性側が認めていることに気持ち悪さも感じた。


社会全体が、国のために生きている。愛国心が強いと言えば聞こえは良いが、実質的には日本に対する狂信である。国教である日本教は、国全体の一体感を高めるための宗教だとロイズは見抜いた。少なくとも、キリスト教にはそのような効力が無い。


効率と幸福を追求する管理社会は、イギリスとは比較が出来ない社会だ。同一ベクトル上に社会があればどちらが上とはっきり言えるが、完全に別ベクトルの社会を比較することは出来ない。ロイズは、日本に来てからずっと薄気味悪さも感じていた。


「この国には、化粧をする女性が少ないのね」

「化粧は、肌の寿命を縮めるとの研究報告がありますし、結婚後に上手くいかない原因にもなります。私も、素が一番だと思ってますので」


美雪とロイズの最初の会話は、化粧についてだった。挨拶を交わしてすぐにロイズは化粧をしている女性が少ないことに言及し、逆に美雪は化粧に給与のほとんどを注ぎ込むというイギリス人女性に恐怖を覚える。お互いがお互いに、理解をしている事象が少なすぎたのだ。


だから会談は最初、お互いの国を知る時間となった。イギリス側も日本側も、疑問に思ったことをどんどんと聞いて行く。互いに互いの国への興味が尽きないため、質問が途絶えることは無かった。


質問が尽きた頃には、日本という国が効率的に生きている、ということをロイズは把握する。日本国内だけで産業は完結しており、国民の生活は安定している。その安定の礎は、労働力にあるとロイズは見抜いた。


一度は現役を退いても、楽な仕事を請け負って働いている老人は多い。11歳から本格的な労働を始め、女性は子供を産んでも2年で現場に戻る。労働人口が多いから生産能力は安定するし、弱者への配給制度は崩れない。


その弱者も、可能な限り労働力として扱っている。戦争で脚や腕が吹き飛んでしまった人が、あまり頭の良くない人間とペアを組んで翻訳の作業をしている。あまり深く物事を考えられない人は、室内労働であれば膨大な数のアンケート用紙を、回答ごとの箱に入れていく仕事を。屋外であれば、物や人の運搬を手伝う。


国が雇用を創成し、就業希望者には必ず職を国が用意する。簡単なようにも思えることだが、完璧に行なうことは難しい。日本が完全雇用を達成していることに恐怖を覚えるイギリス側は、昨年の失業率が5%を超えている。




予定されていた会談の全日程が終了すると、ささやかなパーティーが開かれた。そこでロイズ達は日本の料理の精巧さと美味しさに何度目か分からない舌鼓を打つ。ロイズはしばらくパーティーを楽しんでいると、1人の女性がふらふらとおぼつかない足取りで歩み寄って来たため、話しかけてしまった。


「ちょっと、危ないわよ」

「こんばんは。あなたがロイズさんですか?」

「え?ええ、そうよ。あなたは、秀則さんの奥さんでしたか?」

「はい。1つだけ、質問があるのですがよろしいですか?」

「1つと言わず、何個でも質問してくれて構わないわよ」

「では……『何故日本語が分からないフリをしているのですか?』」


その女性は、彩花だった。話しかけた時はにこやかな笑顔だったのにも関わらず、日本語で質問してきた時には見た者が底冷えするような、冷ややかな目でロイズを睨んでいる。思わずロイズはたじろぎ、その反応だけで彩花は色々と察してしまう。


「冗談ですよ。気にしないで下さい」

「な、何を質問したのか分からなかったけど、英語でお願い出来るかしら?」

「ごめんなさい、英語で質問するには少し難しい質問だったんですよ。

私はあまり英語が得意じゃないので」


彩花は綺麗な英語でロイズを揶揄い、さっさと秀則の元に戻って行ってしまう。思わず得意の地獄耳で彩花と秀則の会話を盗み聞ぎするロイズだったが、2人の話す内容は化粧と香水についてだけだった。


この国に来てからロイズは、色々なことで圧倒され過ぎていた。だからこの国にも母国と同じ競馬があると聞き、見に行きたくなるのは必然だった。そこでロイズは、これまで以上の狂気と気持ち悪さを感じることとなる。


日本が、如何に効率化を推し進めているのか。人間としての価値観を砕かれると同時に、ロイズは無情さが日本の発展に繋がっていることを掴み取った。今の日本とイギリスを比較すれば、情が様々なものの妨げになっていることに気付く。


そしてその無情さを真似しようとは、ロイズは思わなかった。しかしロイズの側近達がどう思ったかは、また別の話である。

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