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織田信長の天下統一を手助けして現代に帰った俺が何故か祭り上げられている件について  作者: 廃れた二千円札
第十章:世界大戦

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第231.5話 姫

8月5日の昼に、ある船団がハワイに到着した。その船団の先頭の船から降りて来たのは、日本軍の第3軍司令官である織田(おだ) 竜馬(たつま)である。彼は28歳という若さでありながら数々の戦争に参加し、才覚を発揮して来た人物だ。直近の日中戦争では南方戦線の司令官として多大な戦果を挙げている。


「いやぁ、1番乗りは良いものだねぇ。口うるさい豊森家の面々も居ないし、空は晴れ晴れとしている。姫様も、1番乗りは好きでしょ?」

「……うん。まあ、好きだよ」


そんなに竜馬に姫様と呼ばれた人物は、若干痩せてはいるものの栗毛の長髪が可愛らしい若い女性だ。竜馬とは恋仲であり、竜馬の秘書という立ち位置で軍に所属している。彼女は現在、織田(おだ) 知永(ちえ)という名前を名乗っていた。


「今日から3日間は自由ですから、ハワイの海で泳ぐことも出来ますぞ」

「うーん、3日か。足並みを揃えるのも大変だよねぇ。まあ、泳ぎはしないけど高台から海でも眺めようかな」

「私も行く!あ、ちょっと待ってて」


竜馬から海を眺めに行くと言われた老人は、いってらっしゃいませと言って船に戻る。この老人は第3軍の参謀長に任命されており、各前線指揮官の癖や戦いぶりを熟知しているため、細かな計画を立てることに長ける人物だ。


そんな老人と面向かった女性、知永は小声で尋ねる。内容は、竜馬についてだ。


「竜馬が子供っぽいのは、あなたのせいよね?」

「はて?若様はそこまで子供っぽいですかな?余計な責任まで背負う所は、確かに子供っぽいかもしれませんが、姫様は嫌なのですかな?」

「……姫様呼びは止めてって言ってるでしょ」

「おかしなことを言いますね。秀則様の第二夫人の妹様なら、姫様呼びは妥当でしょう」

「ちょっ、大きな声で言わないでよ!」


質問をする知永に、曖昧な答えをする老人は知永を姫様と呼ぶ。豊森彩花の妹である知永は周囲に聞かれたらどうするつもりだと詰め寄るが、老人は周囲に人の気配が無いことを確認してから発言をしているので無用な心配だった。


「それで、若様が子供っぽいことについてでしたか。あれは単に若様の精神年齢が幼いだけですよ。最近は豊かになったせいか、労働意欲が低下し、自由気ままに生きたいという若者が増えています。それが単に子供っぽいと目に映るだけでしょう」

「労働意欲の低下?まだ社会問題として表立っては出て来てないけど、働かない人が増加しているから?私は、それが豊かになったせいだとは思ってないよ。その主張は、根本的に間違っている」

「では、何が原因だとお考えで?」

「人は究極的には怠ける生き物だから、かな。それと、豊かになったから増加したと言うよりは、単に母数が貴方の世代と私達の世代では違うせいというべきよ。母数が増加しているから、問題も増加しているように見えるだけ。割合的にそこまで大差は無いから、豊かになったのが原因とは言えないわね」


近年の日本では、働かない若者が話題となっている。この働かない若者のほとんどは親に遺産があるタイプであり、数は年々増加傾向である。しかし怠け者の数が増えているのは母数全体の数が増えているからだという知永の主張も、的を射ていた。


竜馬もどちらかと言えば、実務をサボりがちな人間である。それが軍の司令官を務めているのは家の力もあるが、支える人間が多いからだ。老人を始め、織田家の跡取りを盛り上げるためのバックアップは充実している。それを使いこなせるだけの頭は持ち合わせているから、竜馬は司令官として優秀な戦績を残している。


知永は元々豊森家の人間だが、同時に織田家の血を引く人間でもある。竜馬から見て知永は、従兄弟の娘でもあった。実家を飛び出て転がり込んで来た知永が使える人材だと見抜いた竜馬と、竜馬は利用できる人物だと見抜いた知永が、婚約するのに時間はかからなかった。


知永の思想は、徹底的な管理社会の方が効率的であるという思想だ。本人の意思、意向を無視してでも最大限に能力を発揮できる仕事、役職に就かせるべきだというもので、今の管理社会以上の効率化を目指している。


知永の思想を竜馬が聞いた時、竜馬は悟った。知永は本気で人類の自由意志を奪おうとしていることを。そんなことをさせるわけにはいかないが、知永は策略にも長けていることを竜馬は理解しており、結局竜馬は知永を傍に置くことにした。


竜馬は、知永を懐柔しようともしていた。外見は姉譲り、母親譲りの美貌で美しく、教養もある。ただ、思想が異端なだけの人間だ。最初は、知永の思想に竜馬は全く共感も出来なかった。


しかし、ずっと一緒にいると次第に知永の思想も理解が出来るようになる。例えやる気が無くても、他のことをさせるよりは効率が良いのなら、そうすべきだと思うようにもなった。戦争での知永の策略は、非情なものも多かったが効率的ではあった。竜馬本人の評価が、知永の働きで上がり続けたことは大きい。


「知永、遅いよ」

「ごめん、ちょっと芳樹さんと話してたの」


既に、2人は結ばれている。徐々に知永の思想は、広まりを見せていた。現在の管理社会より一層の効率化を行うことは、極端な選民思想でもある。性善説を主張し、自由さを失わせないことは彼女にとって、管理を怠る言い訳にしかならなかった。

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