表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/425

第19話 列車砲

「秀則様、先程の列車砲とは……?」

「ああ、気になっちゃったか。列車砲は文字通り列車として移動できる大砲だよ。

大砲を大きくすると強い反動があるけど、それを線路で受け流せるし、重くなっても運べるのが利点だけど、多くの人員が必要になる兵器だね」

「貨物列車が大砲を運ぶような感じでしょうか?」

「まあ間違ってはないけど……後で説明するか」


将寛さんの部屋を出た後、長い廊下を歩きながら愛華さんと話す。予算会議の間はここで寝泊まりする人も多いそうで、部屋数は多かった。将寛さんも寝泊りするのだろうか。


「列車砲の射程は最大で100キロ近くまで伸びると思うから、セイロン島からならインドを直接砲撃することも出来るし、列車砲を数門用意して軍港に砲弾を撃ち続ければ、それだけで投資するお金以上の成果が見込めると思う」

「射程100キロ、ですか。セイロン島の北西部からインドの海岸までの距離を50キロだとすれば、十分射程圏内ですね」

「海岸から海岸までが50キロだと、実際にはある程度内陸に置いておかないといけないから……ほぼ最大射程距離での運用になるかな?」


列車砲はロマン溢れる兵器だけど、人員が大量に必要なこと、砲身の耐久性を上げないとすぐに壊れてしまうこと、線路上でしか運用できないことなど、多くの欠点を抱えていることも確かだ。しかも、イギリス側に真似をされたら逆にセイロン島が危ない。


一応、セイロン島の要塞化の際にイギリス側が列車砲を使うことを考慮して、塹壕のように地下へ居住スペースを作らせるつもりだけど、列車砲の威力がどの程度かわからないから不安だ。


「セイロン島に日本人は500万人、だっけ。結構人がいるからイギリスも手を出し辛かったんだろうな」

「セイロン島は九州の1.5倍以上の大きさですから、500万人という数字は土地の広さに対して少ない方ですよ」

「……ありがとう。具体的なセイロン島の位置と大きさがイメージ出来たわ」


セイロン島に住む日本人の数はおよそ500万人と聞いており、島なのに意外と多いな、とか思っていたら九州の1.5倍以上の大きさだと言われて内心の驚きを隠せない。世界地図ではそんなに大きなイメージが無かったし、インドの右下にある小さな島だ、という印象しか今まで無かった。


……あれ、じゃあ列車砲ってあまり効果が無いんじゃないか?想像以上にスケールが大きいから、セイロン島に配備するのは無駄になるかもしれない。いや、火砲の研究という意味でも列車砲は作らせて損は無いか。最悪でもビルマの防衛で使えそうだし。


「セイロン島の主な農産物は茶、米、サトウキビ、コーヒーなどです。また紅水晶の鉱山を始め、様々な鉱山があり、資源面での価値も非常に高いです」

「出来れば戦場にしたくないような土地だね。……本当によく今まで強奪されなかったよ」


生産性が高い土地で、ルビーやサファイアとかの宝石類も産出するとか、セイロン島の価値が高すぎる。知れば知る程、手放したくない島だ。セイロン島の要塞化は正しい指示なのか、空回っている指示なのか微妙な所だったけど、正しい指示だったかな。


「ここが仁美さんの部屋です」

「……中で誰かと話してるみたいだけど、入って大丈夫か?」


仁美さんの部屋に着いたので中に入ると数名の男女と話している仁美さんの姿があった。召使いのような服装では無いので、仁美さんの周りにいる7人全員が豊森家の人間っぽいな。その内訳が男4人で女3人ってことは、少なくとも今の日本で男女の格差的なものは無いようだ。そもそも美雪さんが豊森家の当主になって日本のトップにいる辺り、改変前より女性の社会進出が進んでいると言えるかもしれない。


……これは俺が女鉄砲隊を編成したり、内政の一部を嫁に任せたせいだろうな。これに関しては良い事だと思うから、何も問題視しないし何も言わない。


「秀則様!?」

「おはよう。何で置いて行ったの?」

「いえ、それは、秀則様があまりにぐっすりと熟睡されていたので……」

「起こす方が悪いと思ったのか。まあ、本当に初日は何もしないみたいだから良かったけど」


仁美さんが俺に気付いて声をかけると、仁美さんの周りにいた人達は俺を視認するなり頭を地に付ける勢いで下げた。この光景を見て、豊森家の人間の方が権力とかには敏感なのかもしれないと思った。愛知で拾った3人娘はぺこんと頭を下げただけだったし。


「明日から本格的に会議するみたいだから、一番後ろの席で参加しても良い?」

「いえ、秀則様には壇上中央奥の席を用意してあります」

「やめて。そんなところにいたら一日で胃に穴が開くから。席が指定席なら一番後ろで立っているから」


明日からは各部署が使うお金を報告というか、全体に向かって説明するから、それをここにいる仁美さんを含めて8人の人間が指摘、追及をするそうだ。それが3日間ぐらい続いて、会議が終われば全体でお金を再計算して、問題のありそうな部署を個別に呼び出して答弁。予算案が纏まれば再度全体で審議を行い、今回の場合は2021年度下半期の予算が決まる。


……2021年度上半期の予算は去年の9月15日から9月30日まで行われた予算会議で既に決まってしまっているようだ。その修正も今回の会議で行うとのことだけど、本当に半月で半年分の予算を全て決めにかかるのか。


ふと、1枚の紙が目に入ったので流し読みすると、今年度の沖縄にある国有のサトウキビ農園での人件費や売上高、来年度のサトウキビの収穫量の予測などが書かれた紙だということがわかった。もう1枚、適当に選んだ紙を見てみると、今度は要人の警護にかかる費用を計算した紙だった。


……こんな情報まで全て頭に入れようとしているのかはわからないけど、部屋にいる人は仁美さん含めて全員で目を通そうとしているから邪魔しないでおこうか。本当は技術開発のことで言いたいことがあったのだけど、後日にしよう。


仁美さんに挨拶だけして部屋から出ると、まだまだ部屋に書類が運び込まれていく光景を目にした。活版印刷の技術は進展してそうだけど、それでも人海戦術で頑張ってそうだから現場を直視したくない。


……観客気分で明日の予算会議に出ても良いのか、凄く不安になってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ