第224話 英国の使者
7月27日。開戦日から4日が過ぎて、徐々に日本軍も被害の報告が増えて来たころ、イギリスからお客様がやって来たという報告が入って来た。イギリスの外務大臣であり、女性議員のトップであるロイズさんだ。
「ロイズさんからロシアとの国境を越境して北方大陸領に入ったという連絡が入ったけど、北海道で会うことにしようか?そっちの方が、たぶん早いよね?」
「そうですね。孫を見せろとお母さんもうるさいので、今年も北海道には行くでしょうし」
「結局、彩由里さんと文人さんの同居生活はご破算したから申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。たぶん文人さん、今頃はプロイセンに向かう列車の中じゃないかな?」
「お父さん、美女に弱いのでロシア美女に誑かされそうです」
「え?文人さん、凄く厳格そうなのに美女に弱いの?
……いや、美女に強い男というのも謎だけど。少し意外だな」
ロシアとの国境を越えて入国したようなので、そのまま北海道まで移動して貰うことにした。どうせ8月は北海道で過ごすと決まっているし、向こうも京都より北海道の方が近いから都合が良いだろう。早速、ロイズさんが宿泊するという宿舎の管理人に連絡を取って、北海道まで来るよう誘導する。俺は英語で会話するのが難しいので、こういう時は愛華さん頼みだ。
ロイズさんは今まで会って来た外国人とは違い、日本語を喋れない。ついでにロイズさんの護衛もほとんど日本語を喋れず、日本語が本当に出来るのか怪しい通訳担当の人が1人いるだけだ。英語で手紙を送ってきたことから察せるけど、日本語を取得する機会が無かったのだろう。元々、日本語を嗜んでいる外国人はそんなに多くないようだし。
日本の海外進出が早かったから日本語を喋る人は案外いるけど、そんなに多くはないという状態。稀によくいる、みたいな状態だな。日本語自体、難しい言語ではあるし、簡単なあいさつ程度ならともかく本格的に文章を書こうとすると難しい。
何回か手紙のやり取りをしたから、ある程度は日本の常識を向こうも知っていると思うけど、会談がどうなるかは会ってみないと分からない。文通だけだったし、文字だけで美人かどうかは分からない。分かっていることは女性だということと、自称美人なナルシストだということ。後は達筆なことだけだ。
各国の動きが決定した結果、イギリスはプロイセンの助力をしながらフラコミュの艦隊を攻撃したり、陸軍の派遣をしたりしている。ベルギー王室はロンドンへ逃げたそうだけど、よく逃げられたと思う。6月28日に侵攻が始まって、7月3日にはロンドンに亡命しているってことだから1週間も持たなかったのか。
その後は一応、ベルギーの王子様の1人が軍を率いて戦っている。7月5日にはプロイセンの軍隊とも共闘して、一時は押し返しているようだけど、それでも戦況は厳しそうだ。フラコミュはベルギー領に3個軍規模で侵攻していて、プロイセン領にも3個軍で侵攻している。北アメリカ大陸も含めれば、もう180万人前後のフラコミュ人が前線で戦っているのか。
完全に、早期決着を狙っているとしか思えない。持久戦になればなるほど、敵国本土の併合は難しくなるだろうし、早期決着を狙うのは当たり前だから何とも言えないけど。フラコミュの食糧事情がどうなのかは分からないが、フランスは元々肥沃な土地を持っていたか。フランスはEUで最大の農業国、みたいなことを聞いたことがある。
……それでも食糧事情は、やっぱり日本が一段階上だろう。品種改良に着手して成果が出ている段階だから、他の農業国よりも上のはずだ。集団農場が成立しているのも大きい。個人での作業とは効率が段違いだ。そう言えば、エンジンが開発されたし農耕用のトラクターとかはいつか開発が出来るかもしれないな。
トラクターがどういうものなのか、イマイチ理解していないけど畑を耕すことが出来るならそれで良いだろう。馬を農耕用にすると決定した時にはまだ農耕用の機械は遠い存在に思えていたけど、今から本格的な開発に着手すれば数年後には完成しそうだ。集団農場だし、農民は国有企業で雇っているという状態だから人員を減らす方法は歓迎されるはず。
「自動車で田畑を耕すための機械の開発するのは、予算が足りないか?」
「現状、農作業を楽にする必要は無いですが、その内誰かが開発しそうですね」
「民間任せになるの?いや、それでも良いのか。エンジンが開発されて、色々な動力への応用は考えられるし、国が主導する必要性も薄くなる?」
「戦争関係以外には予算を向け辛くなったので、民間任せになるのは仕方ありません。現状、予算の確保が厳しいのは知っているかと思いますが……」
「知ってはいるけど、思い付き予算枠まで潰えたか。色々とやりたいことはあるけど、予算の確保がネックだなぁ……」
農耕用の機具や電波塔は、予算の確保が問題となっていた。電波塔は何とか予算を確保したいけど、受信機の研究開発費まで確保しようとすれば途端に難しくなったので、新しくラジオを販売する企業を設立することになった。……国民からお金を巻き上げるための株式になっている気がするけど、利益の還元もしているから何とかなっているとは思う。
結局は色々なものが猿まね状態だから、歪な経済情勢に歪なものを持ち込んでいる気がする。せめて、国債の発行にすれば良かったか。国債の発行も一種の株みたいなものだと自分は思っているけど、この認識自体が間違ってそうだ。




