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織田信長の天下統一を手助けして現代に帰った俺が何故か祭り上げられている件について  作者: 廃れた二千円札
第九章:開戦とそれに至るまでの経緯

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閑話⑧ 第2軍(西暦2022年7月23日)

「コンクリートで出来た、大要塞か。フラコミュ側も、日本を随分と恐れていたことが分かる。だが、秀則様が開発した列車砲は生半可な要塞なんて吹き飛ばすはずだ。……準備は良いか?」

「もちろんです。唯一の懸念であった天候は清清しいほどの晴天ですから、絶好の開戦日和でしょう」

「……列車砲13両を前に出せ。目標はフラコミュの国境の要である、フォート・ジェイムズ要塞だ。時刻は、正午きっかりに始めるぞ」


第2軍の司令官である酒井龍牙は参謀長である九鬼(くき)(はやて)に指示を出す。九鬼は元々練られていた計画を実行するだけなので、気負っている様子はあまりない。しかしこの初戦で、日本の未来を左右することは当然理解している。


九鬼は正午から砲撃を開始するようにと各前線の指揮官に伝えて、北米大陸の地図に視線を落とした。難民として押し寄せて来たイギリス人や、フランス人の証言。それに加えて秀則の知識を参考にして作られた地図であり、正確性に欠けることは司令部にいる全員が把握している。


秀則の考えでは、ロッキー山脈の攻略がこの戦争でのターニングポイントになっている。ロッキー山脈の南北を突破することでフラコミュの対応を間に合わせなくすることが、上陸軍に求められる動きである。アラスカ方面軍に求められるのは、その上陸軍の補佐であり、フラコミュ軍を引き付ける役割になる。


2022年7月23日の正午、日本軍の砲撃が始まった。列車砲による砲撃の攻撃目標は、国境からさほど離れていない場所にあるフラコミュの要塞、フォート・ジェイムズ要塞になる。フォート・ジェイムズ要塞は元を辿ればイギリスの要塞であり、フラコミュはこの要塞を陥れるのに数週間という時間と十数万の兵士、数千の砲弾を要した。


対フラコミュ、対日本のためにイギリスが建築したこの要塞は、分厚いコンクリートで出来た難攻不落の要塞である。その要塞をフラコミュは修繕、補強したために、日本軍から見れば厄介な存在となっていた。だからこそ第2軍の司令官である酒井はここを目標としたし、九鬼もそれに反対意見を述べなかった。


「始まったな」


酒井が呟くと同時に、13両の列車砲は火を吹いた。その轟音は離れていた司令部にも届いており、九鬼や酒井の耳にも入って来る。射程は40キロを超えるが、正確性も悪くない列車砲は、目標である要塞に砲弾を叩き込む。そしてフラコミュ軍も、応じるかのように砲撃を開始した。


「第4軍団の前進は待たせますか?」

「ああ、そうだな。まだ前進はしなくても良い。フラコミュ軍の砲撃はまだ届いていないだろう。後列の列車砲で、前進してくる敵砲兵を狙え」

「……一部、フラコミュ軍の砲撃は届いているようです。後退させた方が良いかと」

「ならば後退だ。こちらも歩兵は要塞線に籠らせておけ。列車砲は全て稼働させて、可能な限り敵砲兵を削ろう」


司令官である酒井は、九鬼の意見を重用する。自身が大将の器に似合わない男だと内心で思っているからこその弱気であるが、それ以上に九鬼のことを信頼しているからだ。


「フォート・ジェイムズ要塞はどうなっている?」

「数発の着弾は確認したようですが、損害を与えたかはまだ確認が出来ていないです。それより、親子爆弾が想定以上ですね。フラコミュ軍の前進が完全に止まってます」

「ほお。当初は列車砲で親子爆弾を運用する必要が無いと思っていたが、想定以上に被害が出るようだな。列車砲は撃てるようになったら順次、敵前線に撃ち込むよう伝えてくれ。あと、途中から要塞も再度攻撃するので砲弾の切り替えは忘れないように、注意だけしてくれないか?」

「了解しました。初戦は、こちらの被害が軽く済みそうですね」


列車砲は、連続して撃ち込むことが出来ない。一発ごとに点検をしないと、自陣に被害が及ぶ可能性すら存在するからだ。しかし、耐久性を重視して火砲の研究を続けていた日本の砲が一発で駄目になるようなことは無く、この後も砲身の交換は最低限にして、どんどんとフラコミュ軍に撃ち込んでいく。途中から要塞にも砲弾を撃ち込み、多くの被害を与える。


しかし、フラコミュ軍もただ黙って砲弾を受ける存在ではない。時間が経過するに連れて、徐々にフラコミュ軍の本性が現れる。


「おい、もう4両も潰されたのか!?」

「……あれは、異常です。あの砲撃の雨の中、フラコミュ軍の砲兵は慎重に近づき、列車砲を射程に収めました。敵砲兵の進軍が、止まらない。敵軍の数が、異常だ」

「落ち着け!参謀が狼狽えるな!」

「……心配しないで下さい。俺は、いつでも落ち着いています。そもそもフラコミュ軍の数が多いなら、完全に作戦通りですから」


列車砲は僅かな期間で4両が破壊され、フラコミュ軍は屍を乗り越えて接近してくる。互いに激しい砲撃戦となり、フラコミュ軍は歩兵の突撃する回数が多くなった。日本軍は攻勢に出ていないにも拘らず、徐々に消耗しているようにも九鬼は感じた。


フラコミュ軍の被害を顧みない突撃に、若干の動揺が全体に走る中、突如としてその報告は第2軍の司令部に飛び込んで来た。


「第12軍から救援要請です!既に幾つかの堡塁が落とされて、1つ目の要塞線に穴が空きました!」

「……そうか。これは、想定以上にフラコミュ軍が集まっているな。第15歩兵師団と第2騎兵師団を派遣しよう」

「仕方ありませんね。第12軍が崩壊するとは思えませんし、1線目を突破されたところで痛手ではありませんが、数が多いことは確かです。本土に援軍の要請もしておきましょう」


報告の内容は救援要請であり、フラコミュに対する日本の防衛線は4重になっているが、その1つ目が早くも崩れかけていることだった。酒井は冷静に援軍を派遣し、九鬼は本国へ援軍の要請を行なう。




開戦から僅か十日間で、アラスカ戦線では両国合わせて13万人以上の死者を出した。その7割がフラコミュ軍ではあるが、決して軽くない被害を日本は被った。

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