第218話 遥かな空
7月7日。ビルマ方面から引き抜いた軍団がオーストリア=ハンガリー軍を相手に戦闘を開始した。小隊ごとにシベリア鉄道を利用して送ったとはいえ、迅速な配置転換が出来るのは凄いな。
到着後、すぐの戦闘だったのに日本軍は相対する2個軍団を僅か2日で撃破し、プロイセン領内に侵攻して来るオーストリア=ハンガリー軍を食い止めたらしい。凄い活躍ではあるけど、単にオーストリア=ハンガリー軍が弱そうだから何とも言えない。
「オーストリア軍が弱いというよりは、日本軍の兵の練度が高かったのか?」
「いえ、日本の兵が強いというわけでは無いですね。プロイセン軍の配置が少ないのもオーストリア軍が弱いからでしょう。それと、まだ確定情報ではありませんが、イタリア軍がオーストリア領内を通って侵攻するようです」
「げ、イタリア軍の動きが思っていたよりも俊敏だな。フラコミュ領内では無く、オーストリア領内を通るのか」
ドイツ軍がフラコミュとの戦線に多くの軍を割いているのに対して、オーストリア=ハンガリーとの戦線には1個軍しか割り振っていないということに違和感を覚えるべきだったな。思っていたよりも、オーストリア軍は弱いらしい。
しかし日本軍がプロイセンに到着したのと同時に、2個軍という規模のイタリア軍がオーストリア=ハンガリーに到着したという情報も入ってきたと愛華さんから伝えられる。このイタリア軍はミュンヘンを目標にしているらしく、プロイセン国内では動揺が広がっている。
日本の軍団は、ミュンヘンを守るためにイタリア軍と戦いそうだな。ちなみにプロイセンに送った軍団の軍団長からは、プロイセンの豚肉は不味いという報告があった。問題が発生したら報告をしろとは言ったけど、最大の問題点として飯を挙げる軍団長はどうなのだろうか。
まず豚肉を食べさせて貰っているのに、不味いとか言ってはいけないだろう。日本の飯が美味し過ぎて、他国の兵糧食が食べられなくなるとかあり得るのだろうか?もしそうなら、日本から食糧を運ばないといけないので凄く面倒だ。
まあ、プロイセンに食糧はいずれ提供しないといけなくなるだろうから、その内日本の食糧も口にすることが出来るはず。派遣した日本軍は頑張ってイタリア軍の攻撃を退けて欲しい。オーストリア=ハンガリー軍の2個軍団を退かせたなら、イタリア軍の2個軍程度は撃退出来るだろう。……規模が違い過ぎるから、流石にこれはプロイセン軍と協力して戦うことになるか。
それにしてもイタリア軍、か。
……どうしても改変前のイメージに引っ張られるので「60万人のイタリア軍の被害内訳:戦死者30000人、捕虜270000人、脱走兵300000人」「ドイツ兵1人はイタリア兵20人に匹敵する」みたいなイメージしかイタリア軍にはない。流石に第一次世界大戦も第二次世界大戦も真面目に戦っている部分は知っているので、弱兵と侮るわけじゃないけど、警戒する必要性が感じられない。
真偽は不明だけど、砂漠でパスタを茹でたり戦車を盗まれたりもしてるし。この世界では共産主義になっているから、後ろから銃を撃つ、いわゆる督戦隊がイタリア軍にも存在しているかもしれない。その分、規律の守られた強い軍隊になってそうで嫌だな。
「それと、これが戦場に登場した飛行機についてです。プロイセンの飛行機も戦場で飛んでいますね」
「お、ありがとう。
……意外と、進歩していないみたいだね。大規模で長期化した戦争が、無かったせいかな?」
飛行機も登場しているみたいだけど、欧州では完全に偵察でしか使ってない模様。火砲の発達が著しいものだったからか、対空砲火が激しいようで、飛行機の墜落率が高いように思える。対空砲は発達しているのに、飛行機があまり発展していないから戦場に出せないのかな?
まあ、欧州で飛行機として利用しているのがまだプロペラ機、ということは把握出来たので、想定していた最悪のハードルが少し下がった。ジェットエンジンが開発されていないのなら、もう航空技術では追い付けそうなぐらいだ。この戦争で、目覚ましい進化をされる可能性も残っているけど、その時は日本の飛行機も進化すれば良い。
戦闘機の開発は順調とは言えないが、既に小型化させたエンジンを2基乗せて、機関銃を積もうと頑張っている。残念ながら、戦闘機はまだ安定して高い高度まで飛べないが、量産しようとしている初期型の飛行機は高い高度まで飛べるようになった。重い人が乗っても飛べるようにはなったし、日進月歩で改良が進んでいる。
ついでにこの前、日本で初めてのバードストライクが起こった。バードストライクとは飛行機に鳥が突っ込む、空の交通事故みたいなものだ。自動車の販売はしていないから、自動車より先に飛行機が交通事故を起こしたことになる。一応離陸前だったし、飛行機が頑丈だったからか機体が歪んだ程度の被害で済んだけど。
ちなみに、飛行機から飛び降りてパラシュートでの降下訓練を行なっている最中でもバードストライクが起きた。バードストライクを受けた当人はパラシュートが絡まり、そのまま森へと落下。奇跡的に一命はとりとめたものの、もう元の生活は送れないレベルで色々と障害を負ってしまった。
空でトラブルが発生した時に、冷静に対応することは難しい。鳥が突っ込んで来て事故を起こすなんて、確率的には低い事象だけど、対策はしっかりと練るべきだろう。そして豊森家の偉い人が考えた結果、予備のパラシュートも準備することになった。
絡まったら終わりだから、その辺の対策もパラシュートを背負う人間にはしっかりと伝えておくとのこと。そして飛行機の方だけど、滑走路に鳥が確認出来れば、発砲して追い払うことになった。
……発砲して、殺すようにもした。鳥は賢いから、飛行機に周りにいれば殺されると覚えさせれば近づかないだろうという期待もしているようだ。あまりにも物騒な答えだけど、効率的ではあるから何とも言えない。




