第213話 プロイセンの決断
『分かった。イタリアやスカンディナヴィア、オーストリア=ハンガリーやオスマンの持つ土地や財産、人や物に対する要求権を手放すのであれば、日本の要求を受け入れよう』
『ご理解頂きありがとうございます。早速本国へ伝えるために電話を致しますね。一応、確認ですがフラコミュに対する宣戦布告は動員が完了してからでよろしいでしょうか?』
『日本の動員が大変だということは理解している。来月中に参戦してくれるのであれば問題は無い』
「……いやぁ、来月中か。7月30日でも大丈夫かな?」
「それでも構わないでしょう。イギリスとの不可侵条約も締結出来たので、ビルマ方面の軍の一部をプロイセンに派遣すると言えば信用は損なわれないと思います」
「イギリスとの交渉も上手くいったか。ビルマから動かす軍はどれぐらいの規模だ?」
「1個軍団、3個師団規模です」
プロイセンとの交渉は6月15日という期日より早い段階で打ち切られたようで、プロイセンは北アメリカ大陸から手を引いたという報告が電話で伝えられた。決断が早いように思えたが、フラコミュ以外の国々に対して要求する権利の放棄はプロイセンにとってもありがたいことだったのかもしれない。
参謀本部ではこの連絡が届いた時、どこかホッとしたような雰囲気が漂ったが、すぐにプロイセンへの助力について考え始めた。戦勝時の要求は、戦争に勝たなければ出来ないのだ。可能ならば反共産主義陣営は共産主義陣営に辛勝して、かつ日本は大きな損害を出さないようにしていく必要がある。
まず純粋な戦力の派遣は難しいと考えていたが、送らないよりは送る方が良いだろうと考えて1個軍団を送ることになった。これは、今すぐに派遣する分だな。常久さんが言った3個師団3万人という規模は、総力戦においてありがたいと思われるような戦力なのか微妙なところだけど、感謝はされるだろう。
それにしてもイギリスと不可侵条約を締結したのに、ビルマからは1個軍団しか引き抜かない慎重さは常久さんらしい。所詮、条約なんて簡単に破れるということをよく分かっている。……ビルマから1個軍団を転用って、もしかして彩花さんの父の文人さんの軍団か?
疑問に思ったので常久さんに文人さんの軍団なのか聞いてみると、違ったようなので一安心。しかし将来的には文人さんの軍団も欧州の方へ派遣するとは言われたので、時間の問題だろう。彩花さんの両親の別居生活は長引きそうだ。
再来月までには1個軍10万人規模で欧州に派遣する予定だけど、物資を届け辛い。シベリア鉄道の輸送能力が、思っていた以上に高くなかった。砲弾の規格は反共産主義陣営で統一させた方が、良いのかもしれない。足並みを揃えるようになるまでに最低でも1年はかかると思っているから、今の段階では騒がないようにするけど。
「参謀本部も欧州戦線担当と北米大陸担当で分担させるか。将寛さんが北米で、常久さんが欧州って感じで」
「全体を見る人は必要なので、分けるとすれば全体を見ることが出来る将寛元帥よりも明久中将を使った方が良いかと思います。明久中将が欧州戦線、私が北米戦線という分け方ですね」
「……明久中将って誰?」
「後方参謀のトップだった人物です。後方参謀に変わる物流管理部門が肥大化した結果、後方参謀は役目を失いましたが、能力の高さは私が保証します」
参謀本部に勤務している人も欧州戦線担当と北米戦線担当で分けることになった。最初の俺の案では欧州戦線担当にしたのに、しれっと北米戦線担当と自分で言っている辺りは常久さんの欲や責任感を感じる。間違いなく日本の主戦場は北米大陸だし、自分で仕事を増やしてるよ。
常久さんに紹介された明久さんは、常久さんの従兄弟だった。常久さんより歳は上だけど、一部門のトップだから参謀次長の常久さんよりかは偉くない人だ。俺のせいで仕事内容が奪われたので、現状暇なのかな?恨まれてそうだけど、欧州戦線で大事なのは食糧と物資を戦場まで供給することだから、後方参謀だった明久さんは適任か。
……当然のことではあるのだけど、参謀本部の上層部は豊森家の人間ばかりだな。豊森家の人間だらけなら兄弟で元帥同士とか、従兄弟で中将同士とか、そうなるのは当然のことなのかもしれない。
何気に大将が少ないのは、地方の領主の息子とかが大将に任命されるからか。独自に軍の編成権を持つ領主の子供は、大将に任命されることが多い。これはいつ出来た風習なのか分からないけど、少し奇妙な感じがするな。
確か、織田姓の大将もいたはずだ。日中戦争で南方戦線の総司令官だった、織田竜馬大将だな。攻撃的な戦争をする人で、手薄になっていた後方へどんどん浸透していた気がする。マレーシアにいる織田家の領主の息子で、攻めに関しては鬼才だそうだ。今回は、サンフランシスコ方面軍を構成する第3軍の司令官だ。参謀も織田家の面々で固めているそうだし、サンフランシスコ方面軍の総司令官は扱い辛そうだな。
物流管理部門が兵站も管理するようになったから、後方参謀と役割は被ることは失念していた。ただ、民間の物流を管理するのも仕事になるから兵站について考えていた明久さんよりかは元鉄道課の六さんの方が適任のような気がするので、間違えたとは思っていない。
……後で、明久さんには謝っておこうか。そして欧州戦線担当に割り振られた、参謀本部に勤務する人達のまとめ役をして貰おう。




