第191.5話 結婚式
2021年6月28日の正午に行われた秀則と仁美、彩花の結婚式は梅雨の時期にしては珍しく晴れていた。まず最初に秀則と仁美の式が挙げられ、次に秀則と彩花の式が挙げられる。この順番に関しては、3人で決めたことだった。
「久仁彦と友花里はどうしたの?」
「美雪さんとお母さんに預けてますよ。さぁ、あいさつ回りをしましょうか」
「彩由里さんも来てたのか。友花里の里の字を貰ったのだから、お礼も言わないといけないな」
「そう言えば、友花里ちゃんの名前はどうやって決めたのですか?」
「彩花の花と彩由里さんの里を貰って、頭に友達の友か優しいの優を付けるかで迷ったな。友花里にするか友里花にするかも迷ったよ。最終的に、彩花と2人で選んだら一致したから友花里にした」
秀則は急に2人の腕の中から消えた久仁彦と友花里の行方が気になったので彩花に尋ねると、彩花はそれぞれの母親に預けたと言う。彩花の母である彩由里も、今日の結婚式に合わせて北海道から京都まで駆けつけていた。彩花の出産の時も仕事を放り出して賢士と共に上京していたため、今回も招待状を見るなりすぐに参加することを決めている。
豊森家で宴会を開く時は基本的に秀則の方へ挨拶に行く人が多かったが、今回は秀則側があいさつ回りを行う。仁美と彩花を引き連れて、結婚式に招待をした人達へ言葉をかけていく3人。そこで秀則は、彩花の父に出会う。
「お父さん!?」
「えっ?彩花の、お義父さん?っと、本日はご列席賜りありがとうございます」
「はは、お三方の晴れの門出を心よりお慶び申し上げます。
……私個人としては、可愛い娘が第二夫人ということに心残りがあるがね」
「……はい」
彩花の父、豊森文人は軍人であり、体躯が大きく、凄まれた秀則は一歩足を引く。文人と彩花の母である彩由里は最初、連隊長とその副官という関係だった。年が近かった2人は、趣味が合い、お互いに意識せざるを得ない容姿だったため、恋心が発生するまでに時間はかからなかった。
そのまま付き合い始めて結婚まですぐだった2人は、彩由里の妊娠と文人の出世により引き離される。19年前のインパール会戦の時、文人は最前線で指揮を執っていたのだ。そのままビルマ方面に駐屯する軍の指揮官になった文人は中々家に帰れなかったが、彩花を娘として溺愛していたのは言うまでもない。
「師団長とは聞いていましたが、凄い身体ですね……」
「最近は異動があって、私は第13軍団の軍団長になったよ。まあ、そんなことはどうでも良い。
君は、彩花を本当に愛しているのだね?」
「はい。当然です」
「ならば良い。……彩花が見定めた男なら、今の質問は不要だったな」
秀則を君と言った瞬間、慌て始める彩花を秀則は抑える。そのまま、文人の質問に即答した。秀則にとって彩花は出会いこそ唐突で、関係を持ったのも唐突だったが、それでも気に入っていた。必ず本音を隠すような所や、自身の幸福を最大限に追求する所など、秀則にとって彩花は自身と似ている存在だった。
その後、ビルマに駐屯する軍の軍団長だと言うことを知った秀則は文人が中将以上であることに気付き、改めて彩花の家系の異質さに感付く。しかし文人の強面に気が引けていた秀則は、そのことについて聞く前に次の人への挨拶に向かった。
仁美と血縁が近い親族や、彩花の血縁関係者に挨拶をしていると、秀則は若干浮いた集団の存在に気付く。そしてすぐにそこにいるのは、自身の父だということを認識した。改変前の世界とは姿形が変わっていても、存在感が似過ぎていたのだ。
「父さん?」
「よく分かったな。最後に会ったの、12年前だぞ?」
「……っぷ、真面目な顔が似合わないのは変わらないのか」
「……お前こそ、真剣な顔が似合わない男になったなぁ」
ジッと見つめ合った後、急に肩を叩きあいながら、お互いの変貌を笑い合う2人。直後、妹2人と弟の登場に脳がフリーズした秀則は、父の後妻の登場で完全に硬直した。まさか、父親が2人目の女性と結婚していたなどとは欠片も想像していなかったのだ。しかもその後妻が、2児の母とは思えないほどに美人であった。
「まあ、母さんも元気そうで良かったよ。……何だろうな、話したいことは沢山あったはずなのに、言葉として出て来ないよ。母さんも、農園で仕事をしてるの?」
「農園ではあまり働かないかな。主に酒蔵で働いているから。ブドウ酒を造っているの」
「酒蔵の管理もしているのか。それは知らなかったよ」
「そりゃ、秀則が出て行ってから酒造りを始めたしな。地元では好評だよ。
商品として大量に持って来ているけど、ここで飲んでみるか?」
実母に仕事のことを聞く秀則は、母が酒造りをしていると聞いてまた驚く。そして父にブドウ酒を勧められた秀則は、ワインが苦手であるにも関わらず素直に飲んで父のブドウ酒を称賛した。秀則の称賛を見て、仁美や彩花も受け取ったブドウ酒を飲んで絶賛する。しかし、2人ともアルコール度数が高いことに気付き秀則の心配を始めた。
「うん?ジュース感覚で飲めるけど、結構アルコールが入っているのか」
「秀則さんはここまでにも結構お酒を飲んでいるから、そろそろ危ないですよ」
「1回控室に戻らせて、水を飲ませましょうか。これからは飲んで食べるだけなので、着替えもさせておきましょう。愛華を呼んで来てくれる?」
「分かりました」
その心配は当たり、既に秀則は式の最中からお酒を飲んでいたためかかなり酔っていた。このままでは失言する可能性もありそうだと考えた彩花は仁美にそのことを伝え、察した仁美は愛華を呼ぶ。案の定、秀則は控室に戻る最中、吐きそうになっていた。
控室に戻った後、秀則が愛華にだらだらと喋っているのを目撃する仁美と彩花。嫉妬に駆られた2人が写真を撮る名目で外へ連れ出すのに、時間はかからなかった。




