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第16話 人が空を飛んだ日

少し未来の話です。

ハンググライダーが完成してから丁度2年の月日が流れた西暦2022年4月24日。ついに工学者の田中(たなか) (さとし)さんが率いるチームによってガソリンエンジンが開発され、飛行機の完成までこぎ着けた。日本初の飛行機は複葉機で、胴体部分から横に伸びている翼と、胴体の上にある翼が主翼だ。これは田中さんが勝手に編み出したようで、複葉機の存在を伝える前から複数の翼を持つハンググライダーで飛行実験が行われていた。


「オー、凄イデスネ」

「オーレリーさんもありがとうね。オーレリーさんがいなかったら、飛行機の開発には後2年ぐらいかかっていたよ」

「イエイエ。私達ノ保護、感謝デスカラ」


まだ若干片言なフランス人のオーレリーさんがガソリンエンジンの開発を手伝うようになると、ガソリンエンジンの実用化まで一瞬で終わった。後はエンジンを飛行機に積めるよう小型化することと、ハンググライダーでの実験から得られたデータを用いて胴体や翼の設計を行い、なんとか形になった結果だ。たぶんオーレリーさんと田中さんがいなかったら、あと2年は余計にかかっていただろう。


「行きまーす!」


日本初の飛行機で空を飛ぶのは、結局2年間で身長が1センチしか伸びなかった今年20歳になる加藤さん。精神的にも成長したはずなのに、未だに子供にしか見えない人だ。


加藤さんの行きまーす、という宣言が完成したばかりでノイズだらけの無線機から聞こえた後、飛行機からはエンジン音が鳴り響く。前面にあるプロペラが回り始め、徐々に機体は推進力を得て動き始めた。やがて滑走路から機体は持ち上がり、飛行機は宙に浮く。


「秀則さん!飛行機が、空を飛びましたよ!」

「俺にも見えてるって。

田中は本当によくやってくれたよ」


飛行機が空を飛んで珍しくハイテンションな仁美さんを横目に、加藤さんを乗せた飛行機を目で追う。一旦は高度10メートル付近まで上がった機体は、少しずつ高度を落とし、無事に離陸した場所から500メートルほど先にある目標着陸地点を少し超えた所で止まった。


「田中、ちょっと良い?」

「秀則様!?な、なんですか?」


歓声が起こり試験場が盛り上がる中、この飛行機開発に一心不乱に打ち込んでくれた田中さんにねぎらいの言葉を伝えるとともに、新しい仕事の確認をする。


「飛行機開発、ご苦労様でした。

来週末までは休んで良いけど、次はこの飛行機に機関銃や爆弾を乗せたものの開発をお願いね。出来れば2年以内で」

「はい。戦闘機や爆撃機、ですよね。それは把握しています」


その内容を聞いて、田中さんは頷いた。田中さんの周りにいる他の研究者の人も爆撃機や戦闘機の概念を理解している人達だから、あまり俺の言葉に不思議そうな顔をする人はいなかった。


この日は加藤さんの次に木下さん、木下さんの次に島津さんという順番で飛行機に乗り、ラストは予備の飛行機も使って加藤さんと島津さんが1キロ近いフライトを実践してくれた。実際に飛行している所を見ると、予想以上に速度も出ているから今後が楽しみだ。たぶん、数キロは今の状態でも飛べると思う。


「私が、小尉……ですか?」

「新設する空軍の少尉ね。まあまだ実体が無いし、飛行訓練だけ続けてくれたら良いよ」

「愛莉、お礼」

「あ、ありがとうございます?」


加藤さんは空軍の設立と同時に少尉に任命。間違いなくエースパイロットになると勝手に思っているので最終的には大佐ぐらいまで昇進しそう。そして加藤さんに小声でお礼を促していた島津さんにも、将来のことを話しておく。


「あと、島津さんは空中戦の理論や戦術について考えて貰うから、将来的に佐官待遇になると思う」

「え……?

良いの、ですか?」

「空軍なんてまだ枠組みしか作ってないから大丈夫。この国で空戦について理解があるのは俺を含めてもまだ数人しかいないし」


島津さんも空軍少尉に任命するけど、島津さんには空中戦の戦術について考えてもらう。最終的に将官まで昇進するかはわからないけど、空戦の具体的なイメージを出来るのがまだ数人しかいないので、鮮明な航空戦をイメージを出来る島津さんは貴重な人材だ。


そもそも、2年間も俺の近くにいて最も俺の思想に染まっている島津さんを手放すわけにはいかない。かなり知識も蓄えてくれたようだし、島津さんには期待している。


「木下さんは、将来教師になりたかったんだよね?」

「はい。学校の先生になりたくて……でも途中で挫折しちゃって……」

「今度設立する空軍士官学校の教師役、お願いね」

「ふぇ!?」


木下さんは飛行訓練を積んだ後に空軍士官学校の教師役をして貰おうと考えている。一応、倍率5倍の中学入試を豊森家のコネ無しで突破するだけの頭があるから、適任だろう。本人も学校の先生が将来の夢だったと語っていたし、実際に教えるということが上手い。空軍士官学校の教師だから、普通の学校の先生、というイメージとは違うだろうけど。


「……イギリスやフランスコミューンでは、10年以上前に飛行機が空を飛んでたんだよね?」

「ハイ。ソレハ間違イ無イデス」

「まだ戦闘機や爆撃機になってなければ嬉しいけど……希望的観測過ぎるか。少なくとも機銃を積んだ戦闘機ぐらいは開発されているかな」


オーレリーさんによると2010年にはイギリスで飛行機の大会があったようなので、おそらく2005年には飛行機が空を飛んでいる。まだ日本は後追いしている段階だけど、ジェットエンジンの開発が終われば航空戦に関しては間違いなく技術力で優位に立てるはずだ。……とにかく田中さんに、日本の空軍の行く先を賭けるしかないか。

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