第190話 築山
セイロン島の要塞化とほぼ同時に出していた列車砲の開発は順調に終わり、既に射程40キロ以上の化け物級列車砲が第2号まで完成している。砲身は超が付くほど長く、砲の内径は36センチだ。スペックを見ると、色々と凄い数値が書かれていた。元々重砲の技術は持ち合わせていたから、課題は耐久性能だけだったと開発チームの人は語っていたけど、それでもこんなに早く完成させてしまうとは思わなかった。
砲弾や砲身のコストは重いけど、破壊力は抜群である。そんな列車砲を要塞線の一角に配備しようとしている参謀本部。要塞をぶっ潰す側の兵器を要塞線の強化に使うのは斬新だ。具体的な使い方は、トンネルを用意して山を築いて列車砲を敵陣に向かって発射するというもの。巨大なクラスター爆弾を敵陣地に撃ち込むつもりだな、これ。止める気は起きないけど、味方への被害が怖い。
……山とトンネルがあるからそこを列車砲の隠れ蓑として利用するのでは無く、列車砲のために山とトンネルを用意するのか。装填して前進、発射して後退という分かりやすい戦法を採用するようだけど、山を築く必要性は分からない。やろうとしていることは分かるけど、本当にそうするしか無かったのかは疑問だ。
特にアラスカ方面では、国境地帯の主要道路を目標にして列車砲を配備することになっている。列車砲だけでは無く、国境地帯はあらゆる火砲の射程範囲に入るから、フラコミュ側もかなり攻め辛いはず。迂回されるルートも少ないので、あとは制海権と制空権さえこちらが握れば抑え込むこと自体は出来る。その制海権と制空権の確保が1番の問題であることからは目を背けたい。
「……向こうが飛行機を飛ばして来たらどうしようもないのは変わらないか。対空砲も、気球相手に試し撃ちをしただけだし、有効な攻撃手段になっているのかがイマイチ分かり辛いな」
「それでも低空を飛ぶと予想される戦術爆撃機を、撃ち落とせるとは思います。……こればかりは模擬戦闘を行なわないと、確証を得られませんが」
「高高度から戦略爆撃を受けたら一巻の終わりであることに変わりは無いよ。早く戦闘機を開発しないと、手遅れな状態のまま戦争状態に入ることは分かってるのだけど、どうしようもないか」
田中さん達の研究チームは無事に自動車を完成させたから、既にその経験を活かして飛行機開発に戻っている。このペースで行けば10月ぐらいには滑空する飛行機ぐらいは作れると豪語していたが、要するにちゃんと飛べるようになるまでにはまだエンジンパワーが足りないという状況だ。
海軍関係では、海戦のドクトリンについて色々と進展があったようで、敵艦隊が魚雷での攻撃を行うと想定しての戦術研究が進んでいるらしい。ようやく重い腰を持ち上げてくれたようだから、これからに期待したいけど、こちらも魚雷を開発しないことには、従来の戦術から変われないようにも思える。
陸軍の編成についても再度口出しをし、軍団と軍を明確に分けた。今まで複数の師団を纏めて軍団とし、その軍団を束ねるのが方面軍だったので、その名称を変えた。以降は少将が率いる師団を複数個束ねて軍団にし、その軍団を束ねて軍とする。その軍を纏めるのが方面軍や軍集団といった形だな。軍=軍団だったのを切り離した形だ。
「この軍と軍団を切り離した意図に関してお聞きしたいのですが?」
「単に、今までの第6軍軍団長という響きに違和感があっただけだよ。これからは第6軍第1軍団軍団長、みたいな形にしようと思ってる。基本的に軍団は3個師団、軍は2個軍団と4個師団で編成しようと考えてるよ」
「軍を、10万人の単位とするのですね」
「そうなるね。階級の目安は軍団を中将、軍を大将が率いることにする。師団が1万人の単位なら、軍は10万人の単位だ。
……ロシアもプロイセンも、メキシコですら軍団と軍を分けていたしな。」
分け方自体は違うかもしれないが、ロシアやプロイセンの軍編成を参考にした結果になる。今回の件でまた将官が異動になるが、すぐに適応出来るのかもチェックさせておく。参謀本部はわりとすんなり対応出来ていたから、大体の人は大丈夫だと思うけど。
「列車砲は、2両を中隊単位で管理出来るか?……2両での斉射を基本にするなら、破壊力は絶大だろうし」
「1つの山に6つのトンネルを並べる予定なので、列車砲を扱うのは3個中隊になりますね。砲兵連隊に属する大隊に1個ずつ列車砲中隊を所属させましょうか?」
「6つもトンネルを並べるのか。……6つもトンネルを作るのに、線路は単線なの?」
「……四複線や六複線でも良いかもしれませんね。六複線にして、36両を管理する列車砲旅団を編成しましょうか」
愛華さんと相談しつつ列車砲旅団を編成し、築山の管理までを行わせることに決定。1個大隊で6両も列車砲を管理することになるけど、上手く運用出来るかは不明。というか36両という数を並べても、砲撃音が五月蠅いから一斉に砲撃をすることは難しい。実験的に2両同時の砲撃を行っているみたいだけど、2両で何とか撃てるという状態だし、実戦での連携力は未知数だな。
今の日本の凄い点として、この列車砲の大量生産が出来る点は他国にとって脅威だろう。射程が60キロを超える、砲口径が72センチの列車砲も開発を開始しているので、こちらの完成も楽しみだ。残念ながら72センチ砲の方は大量生産が難しいと言っていたが、数両でも用意できれば戦略級の兵器として運用が出来る。
線路を敷くための工兵連隊を列車砲旅団に随伴させるよう命じて、列車砲を取り入れた攻勢計画も立てさせる。防衛としても使えるのかもしれないけど、やっぱり本懐は要塞や城壁を破壊することだろう。防御陣地や軍施設を一撃で吹き飛ばせるなら、数百人を使ってでも砲撃させる価値がある。……線路を敷かないといけないし、人員を大量に使うから、列車砲師団にしてしまうか。




