第1話 停滞した帝国
1話だけなのにお気に入り登録して下さった方々、ありがとうございます。
出来る限り早いペースで更新をしていきたいと思います。
森田秀則は歴史改変前、平均的な一般家庭の元で生まれ、中学、高校と普通に生きていた。平々凡々とした男で成績は真ん中、運動は特に得意でもなく、ゲームが大好きだった高校1年生だ。戦略SLGやMMORPG、格ゲーやアクションゲーム、スマホアプリゲーまで幅広く手を出していた。
森田秀則は歴史改変後、平均的な一般農家の元で生まれ、5歳の時に豊森家の養子として迎えられた。過保護に育てられ、外出禁止、遊戯も禁止、勉強さえ禁止。神の子だとか今の大日本帝国の根幹にいる人物だとか言われ続け、世界情勢や噂話を養母に聞かされながら2020年まで軟禁生活を送った。
そして2020年の俺がタイムスリップしたその日にぶっ倒れて、1週間ぐらい眠り続けたそうだ。
「秀則様、口調が変わっておりますが、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。
そっか、豊森家はずっと日本を支配していたのか」
「支配なんてお言葉を使わないで下さい!ずっと秀則様から託された書で日ノ本を導いて来たのです!」
一先ず、眼前にいる何十人もの人間が頭を下げるという光景に気分が悪くなった俺は、頭を上げるように言うと最前列の女性が近くまで来た。記憶によれば、婚約者という体になっている豊森家当主の娘、長女の豊森 仁美さんだ。完全に俺の子孫です。後で家系図見せて貰ったら仁美さんのお祖父さんまでずっと長男が家を継いでいた。よく400年もの間、腐敗せずに統治していたと思う。
「それで、今から俺がこの国のトップなの?」
「はい。どうかまた、この日ノ本をお導き下さい」
400年間も停滞したこの国ではインターネットどころかコンピューターすら無く、未だに農奴がいる有り様。ただ、災害とかは思いつくままに書き連ねたからか、飢饉も無く安定した政治を行っていた様だ。そもそもの生産力がめっちゃ高い。食料自給率は200%を超えているぐらいに余裕がある。
また、鉄道網は日本全国に張り巡らされており、主要都市は改変前とあまり変わらない。京都と東京の地位が入れ替わっていることぐらいかな。それでも関東がそこそこ発展してそうだから、北条家が頑張ったのだろう。
「……俺がタイムスリップしたとか、信じるわけ?」
「もちろんです。豊森家が神格化した豊森秀則様、そのご本人ですもの」
いつの間にか俺は神になっていたらしい。そして目の前にいる仁美さんの妄信具合が半端じゃない。完全に変な新興宗教に嵌っている女そのものだ。見た目は黒髪長身の美人さんなのに頭の中が残念過ぎる。
「秀則、起きたのですか?いえ、今は秀則様、ですか?」
「……母さん」
「今まで窮屈な思いをさせてしまい、申し訳ありません。秀則様が今の世界に変える前に何かあれば、この世界は崩壊していた可能性すらあったために……」
次に声をかけて来たのは養子として俺を引き取った豊森家の現当主である豊森 美雪さんだ。前当主である美雪さんの父親が死んで、俺が当主の座に据えられてから、実質的な当主としての実権を握っているのが美雪さんになっている。今でも膨大な権力を握っているのに、俺に頭を下げる時点で少し気持ち悪い感覚に陥る。
「何か、俺が豊森 秀則だという証拠を見せる必要はあるか?」
「いえ、ありません。
現存する秀則様のお写真が、秀則様を秀則様だとする証拠です」
「……ああ。カメラ、作っちゃってたね」
この世界、カメラなどの映像技術は進んでいる。俺が被写体第一号だし。今ではかなり安価に複製まで出来る段階だ。2020年なのに未だに白黒写真から抜け出せてない時点で色々とヤバい。
「何か、食べたい」
「お食事の用意でしたらいつでも出来ます。秀則様が考案した中で好物だったと伝えられるハンバーグ、ラーメン、アイスクリームなど、あらゆる物を用意出来ます」
「じゃあ、ハンバーグとアイスクリームが食べたい。ご飯はあるよね?」
「はい。お米は大日本帝国の主食であり、全国民が毎日食べています」
「……説明ありがとう」
仁美さんは俺の記憶が曖昧なことを察したのか、逐一説明やフォローをしてくれる。お腹が減っていたので食事を頼むと、すぐに料理が持ち込まれた。そろそろ祭壇から降ろして下さい。
出された食事はイメージ通りのハンバーグと、木の茶碗に乗った山盛りのご飯。ガラスの器に盛られたトマトとレタス。キンキンに冷えているアイスクリーム。冷凍技術が気になったが、今は聞かないでおこう。味は改変前のモノと大差無いし、マヨネーズは俺が披露した時よりも濃いというか美味しい。
……というか凄く美味しい。最高級のお肉を使ってそうだ。
「とりあえず、この国の現状を見たいから外を出歩きたいのだけど、出ても良い?」
「良いですが、護衛をお連れ下さい。味方は多いですが、少なからず敵もいます」
「お、出してくれるのか」
外出できるか聞いてみたところ、渋々といった表情でOKしてくれたので立ち上がって歩く。なんか筋力が低下していて身体が重く感じるけど、立てないことはない。やたらと豪華な飾りつけのある祭壇から階段で降りて、左右に分かれた人の海を直進する。左右にサッと引いた人達、全員頭を擦り付けながら横移動していたので凄く気持ち悪く感じる。お願いだから普段の業務に戻って下さい。
そもそも、戦国時代でも頭を下げられるのには結局慣れなかった。そして辿り着いた大きな扉を開き外の景色を見ると……
高層建築物が何一つ無い、平坦な街並みが続いていた。
……これ、技術のモザイク状態というか、色々とおかしい世界だ。工場の概念も教えていたのに、どこにもそのような建造物は無かった。