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第180話 多数派工作

「知れば知る程、民主政治の利点が見えて来ませんね。秀則さんが言っていた国民による行政の監視は、本当に機能するのですか?」

「……考え直せば、機能しているとは言い辛いな。そもそも改変前の日本は、色々と詰みそうだったことがよく分かるよ」

「この前に見た秀則さんの悪夢では、65歳以上の高齢者が30%を超えるという……私達にとっては非現実的な話ですが、改変前の日本では現実的な未来を見たのですよね?それだと、高齢者に不利な政策は実行出来ないように思えるのですが」

「うん。もう老人に不利な公約は出来ないような状況にまで追い込まれていたよ。60歳以上が日本人口の3分の1を占めていたし、若者は未来に期待を出来なくなっていた。……事実を列挙するだけで、異常性が分かるよ」


民主制の最大の利点は国民が政治家を監視することが出来る、というのは既に言っていたけど、この最大の利点は国民が政治に関心を持つ、という前提条件が必要になる。また、これのせいで足の引っ張り合いが発生したと言っても過言では無い。


仁美さんが民主制の最大の欠点である多数派を不利に出来ない、というのを聞いた後、即座に超高齢社会について突っ込んだのは流石だと思った。俺の記憶にある2020年時点の状態でも、日本人口1億2千万人の内、60歳以上の人口は4000万人を超える。既に老人が多数派に入れ替わっているのだ。政府が膨大する医療費を抑えられなかったのは、これが原因だろう。


ジェネリック医薬品を使おうが、治療のコストダウンを行おうが、治療をする人間が一方的に増えるのだからどうしようもない。高齢者の医療費負担を上げることは人口比率上不可能となり、若者の負担として伸し掛かる。俺があの時に聞こえた社会の軋む音の原因は、高齢者が多数派になったことなのかもしれない。


事実として、高齢者の負担が増える後期高齢者医療制度が原因で長く続いていた政権が交代したと言われている。あの時のテレビや新聞の報道は……ほとんどが後期高齢者医療制度を廃止する、老人の味方をする野党が正義のような報道だった。あの頃の高齢者率は、既に20%を超えていたはずだ。政権交代は、当然だったのかもしれないな。


「それでも、国民が国として正しい選択を選べば滅びが見えるまでは行かないはずなんだ」

「秀則さんはこの前、投票できるようになっても投票したいような政党は無かったと語っていましたが?」

「……あー、それは間違いなく本音だから言い繕うことが出来ないな。投票権を持っていたら、消去法で与党に投票していたと思うし」

「消去法が出て来る時点で、異常だと思いますよ?もっと気軽に立候補は出来ないのですか?」

「立候補自体は気軽に出来るはずなんだけどね。立候補したところで、国民が政治に興味を持って無いからどうしようもないよ」


別に、国の政治家として立候補は誰でも出来る。立候補した所で、国民に言葉を伝える手段が少なすぎるから票なんて集まらないけど。未来を危惧した政治家が出て来た所で、一定の票数すら確保出来ずに供託金の没収すらあり得る。国民に言葉を伝えようとするほど、お金はかかるしな。


若者と高齢者、投票率が高いのは高齢者の方だ。60歳以上が投票権を持つ人口の4割を占めていて、60歳以上の投票率は65%前後。対して投票権を持つ人口の3割にも満たない20代30代の投票率は40%前後。シルバーデモクラシーが起こって当然のような状態だ。このような状況で高齢者に不利な政策は打ち出せないということは俺でも分かる。だからと言って、どうすべきだったのかは俺にも分からないが。


「少なくとも、今の日本で高齢社会は心配しなくても良いから後回しにするよ。出生率が維持できるのだから、この議論は必要ないし」

「今の、余裕ある内に考えておいた方が良いのでは無いですか?それに、こういう思考実験は楽しいですよ」

「提案なら出来るけど、解決策まで考えるのは付き合わないぞ」

「それは、どのような案ですか?」

「例えば…………選挙権を18歳からにするなら、平均寿命から18を引いた年齢から選挙権を持てない、とか?」

「なるほど。それなら間違いなく、高齢者優遇政策に歯止めはかかりますね」


彩花さんと言い合いながら、思考実験を繰り返す。本来ならあり得た世界だけど、もう俺にとってはあり得ない世界の話だ。現実的ではない提案を繰り返していると、その度に民主制の欠点が露出していくように感じる。そして仁美さんが最後に言い放った言葉が、俺の中では1番しっくりと来た。


「何の知識も与えず、投票を行わせるような民主政治は政治体制として未完成だと思います」


改変前の日本の民主政治は未完成。言われてみれば、そうなのかもしれない。それなのに一時の俺は共産主義を頭ごなしに否定し、管理社会に忌避感を覚え、民主制にこだわっていたから、盲目的になっていたことがよく分かる。


まあ、せっかく隣国のアフガニスタンはそのような民主制に移行しようとしているのだから、内戦の経過を観察しよう。一党独裁化が起こるのかも見物だし、共産主義勢力が選挙で勝った場合、一党独裁化は起こり得るだろう。その時になってイギリスやロシア、ペルシアがどう動くかも注視したい。


アフガニスタンは資源があったはずだし、農業も可能なはずだから立地自体は悪くない。だからイギリスも支配下に置いていたのだろう。そこに住む人達が、そこを支配するメリットを打ち消していただけだ。人が減れば、また狙う国も多いと考えている。日本も、その国の中の1つということだな。

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