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第176話 出産

何度立ち会っても、この緊張感は慣れないものだ。


4月3日、予定日となっていた日の早朝に彩花さんの陣痛が始まった。既に彩花さんは入院していたために、すぐに病院の分娩室に運び込まれる。分娩室には男性が入れない決まりなので、俺は素直に部屋の外で待つことにした。助産師は元々の女医の割合が高いからか女性しかおらず、分娩室は男子禁制が根付いているようだ。だから、彩花さんには頑張ってこいと一言だけ声をかけて見送った。


……そのまま、10時間ほどは進展を聞きつつ待機。こういう時だけは祈る現金な奴である。全員、神妙な面持ちでただ時間だけが経過していたが、夜になると流石に強烈な不安が襲って来た。そして夕食を断ったところで、無事に出産したという報告を担当の医師から伝えられる。


4月3日午後9時27分。第52子となる豊森友花里(とよもりゆかり)が産声を上げた。豊森家の家系図を作製している人達は、どうやってこの子を家系図の中に入れるのか凄く気になる。彩花さんは、俺の子の孫の曾孫の玄孫の来孫の昆孫だから21代後?……家系図は、もう見たくないな。


それから一時間後、ようやく部屋に入れるようになったので早速友花里を抱いてみると、少々重め。どうやら3400グラムもあったらしく、初産だったからこの大きさは負担になっていたようだ。彩花さんは15時間以上の格闘だったからか、ぐったりとはしているけど無事そうで安心した。


これから2週間ほど、彩花さんは休養を取りながらリハビリをすることになる。赤ちゃんに授乳をさせながら、ゆっくりと元の生活へと戻っていく。おむつの交換やその洗濯とかは彩花さん自身が行なわなくても大丈夫なようで、授乳の時以外は基本的に別室という。母体の回復を最優先にしているのかな?いや、彩花さんが特別扱いされているだけか。


「何はともあれ、無事で良かったよ」

「無事だったことしか無かったのでしょう?記録に難産は無かったと記憶してますよ」

「まあ、確かにそうなのだけど、毎回緊張はしていたよ。特に昔は死産が多かったし」

「当時は死産が多かったのに、51子全員が健康ではあったはずです。確率にすれば、凄い確率だと思いますよ?」

「……うん。冷静になって考えてみれば、あの時代にしては異常だよね。現代的な食事のせいか、医療系の知識を持ち込んだお陰かは分からないけど」


彩花さんと、3日ぶりに会話らしい会話をする。4月に入ってからは俺も予算会議に参加して、独断と偏見と直感で大雑把な配分を決めるようになっていたからだ。そのまま妊娠の時の痛みを聞いてみたら、思いっきり手を握られて痛覚カットが入った。


……痛みを感じるレベルで手を握って来たということだから、全力で握りに来たのだろう。俺が痛みを感じていないと察知した彩花さんは、お見舞い品にあったリンゴを握り潰そうとして握り潰せなかった。彩花さんが思っていたよりもリンゴを握りつぶすのには力が必要だったらしい。


「……要するに、全力であそこを握られる痛みです」

「ああ、うん。表現しようとした意気込みは感じられたよ。男には分からない気持ちだし……本当に、無事で良かった」


そうこうしている内に赤ちゃんの授乳タイムとなったので、彩花さん自身が友花里に母乳を飲ませる。胸が大きいと母乳の出が悪いケースは多いけど、彩花さんは普通に出るようなので一安心。というか出産前から出ていたようだ。出ない場合は母乳が多く出る人に分けて貰うようだけど、この辺は戦国時代と変わらないな。


粉ミルクでも栄養的には変わらないのに、とも思ったけどそもそもまだ高品質な粉ミルクを製造出来ないか。彩花さんが友花里を縦に抱いたり横に抱いたりしながら友花里に母乳を飲ませていると、友花里が「ケプ」と可愛らしいゲップをした。昔は背中を擦ったり叩いたりしてゲップをさせるのにも苦労していたから、自然とゲップする友花里の姿が新鮮だった。……ゲップを自然とさせる飲ませ方でもあるのかな?


「友花里はなかなか食いしん坊な赤ちゃんだな」

「よく飲むのは良い事ですが、太らないようにしないといけないですね。あー、眠っちゃいました」

「……寝顔は彩花にそっくりだ」

「そうですか?寝顔は秀則さんにそっくりだと思いますよ?」


友花里が彩花さんに抱き着いたまま眠ったところで、彩花さんの身体検査が始まったので俺も自室に帰って眠る。既に時刻は、夜の12時だ。きっと彩花さんは、明日の朝ぐらいまで眠れないだろう。しかしまあ、可愛らしい女の子で良かった。個人的にはよくお腹を蹴っていたから男の子だと思っていたけど、当てにならないな。


そしてこれで、仁美さんが正妻になることも決まった。


仁美さんの出産は来月になる。友花里には、同い年の弟か妹が出来るということだ。予算会議が終われば、もう安静にする時期へ入るだろう。現状、既にお腹はかなり大きい。彩花さんよりスッキリした体型だから、余計に大きなお腹は目立ってる。……決して彩花さんが太っているわけじゃないけど、彩花さんは胸が大きいせいでお腹に赤ちゃんが入っていた時も寸胴体型のように見えていたからな。


いつの日か、友花里が大人になる日も来るのだろう。その時の俺は、今のままなのだろうか?……娘に身長を抜かされるのは、あまり気分が良いものではない。友花里が抜かすとは限らないけど、何で俺は165センチで身長が止まっているのだろうか。

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