第175話 馬産業
馬産業について、間違いなく1番詳しい人と対談をする。賢士さんは競馬に馬主として、牧場主として、調教師として関わり、馬の血統や生態にも詳しい。馬車による運搬も行なっているので、馬が関わる事業にはほぼ全般的に関わっていると言っても良いだろう。
ついでに馬肉も大好きらしいが、これは本人的にかなり割り切っていることだそうだ。そう言えば、駄目な馬は自分で食したいと語っていたな。気持ちは、分からなくは無い。
「徐々に、生産する馬は減らさないといけない。これは間違い無いのだけど、血は繋ぎたいというのはわがままかな?」
「わがままでは無いでしょう。しかし軍馬用として売れなくなれば、行き着く先は馬肉しか無いのも現状ですか」
「馬車も無くなるから、究極的にはそうなるね。種牡馬の数は減らさなくても良いけど、繁殖用の牝馬はかなり減らさないと経営が難しいと思う」
「現状、既に赤字なので今さらですよお。牧場主なんて、余程の貯蓄が無ければ始められませんから」
色々と現状を聞いた上で、何に使えるか分からないけど、優秀な種牡馬の精液は冷凍保存することになった。人工授精は良い馬が産まれないとか色々と改変前の世界で言われていたけど、血統を保存したいという俺のわがままだ。血が偏り過ぎるのも良くないと思うし、保存しておけば途絶えることは無い。
冷凍保存がどれぐらいの期間、可能なのかを調べる必要はあるけど、そういうデータなら揃っているようだから何とかなりそう。生物分野特化は、伊達じゃ無かった。最終的には、DNAさえ保存出来れば良いとも思っている。
そして徐々に競馬以外での馬の活動範囲を狭めていくことで馬の数を調整することにした。……バッサリと言ってしまえば、馬肉にする馬の数が増えるという事だ。これ、後で彩花さんから突っ込まれそうだな。もうそろそろ陣痛が始まりそうだから伝えないけど、間違いなく知ったら悲しむ。でも年に10万頭以上も産まれるのに、屠殺しなかったら馬主や牧場主が経済的に死ぬから致し方ない。
馬は食肉用として価値が高いわけではない。管理が大変だし、逃げ出したら面倒なことにもなる。肉付きも良いとは言えないし、牛や豚と比べれば需要も低い。美味しいとは思うけど、競馬が流行っている以上、心情的に受け付けない人もいるだろう。今の日本人は割り切っている人も多いから、馬刺しを食べながら競馬を観戦する猛者も多いようだけど。
「少なくとも、種付け料以上は馬肉では稼げないか。……種付け料を廃止して、国が同じ血を持つ馬の最大頭数を管理してしまうか」
「人工授精を主流とするならば、良い方法だと思います。国が最大頭数を管理するならば、特定の血に集中することも無いでしょう。種牡馬を持つ馬主は反対するかもしれませんが、今後のためです」
馬を1頭ずつ管理するのは大変なことだけど、人工授精による血の集中という弊害を抑えるためには必要なことだ。1頭の種牡馬の子供は最大200頭までにして、権利はオークションにすれば良いだろう。例の封印入札競りなら、200番目まで一気に決めることも出来るしな。
「ということは、これからの種付け料は……」
「……国が貰うことになるかもな。馬主達には還元するつもりだけど、管理費が膨大になれば入札額の何%かを国が徴収するかもしれない」
種牡馬の馬主は、基本的に大金持ちだ。レースで勝った馬が種牡馬になるわけだから、当然レースでの賞金を多く稼いでいる。その上で、種付け1回で数十万から数百万円を稼ぐことも出来る。馬主自体も金持ちじゃないと始められないことを考えれば、税を新たに課すに当たって1番良いのはここだと思った。……勝てなかったらお察しの通りなので、別に馬主が全員勝ち組というわけじゃないけど。
賢士さんとの相談の結果、結局は生産量を減らしつつ屠殺率を上げる方向で何とかなるだろうと結論が出たので問題が表面化するまでは生産の方を管理することになった。同時に種牡馬で儲けている馬主達からは、少々の税を取ることも決まる。
……所得税以外にも、税収を増やそうとしているのだ。今までは人口が多いから税収も多いのに、その還元を国民達にあまりしていなかった。しかしこれからは今までの管理作業に加え、インフラの整備に巨額の資金が必要になるはずだから、税収を増やす仕組みも考えないといけない。国民達の逆鱗に触れないよう増税するなら、お金があるところから少しずつ回収していくのが1番だ。
国債の発行も考えたけど、国債の返還が難しくなった時に国がどうなるか分からないので制度が確立される来年までは見送りだ。……全国にアスファルトでの塗装や排水溝の設置をするとして、幾らかかるか試算をさせてみると100兆円との返答だったから非常に困っている。
「インフラは分割して整備していくしかないか。むしろ、100兆円で納まるのかが不安だよ」
「100兆円という金額は概算ですので、正確と言えるのかは怪しいです」
「まだ一部区間しか実験的な敷設をしていないから、試算が正確じゃないのは別に良いよ」
怜可さんが100兆円は正確ではないと言っているが、豊森家の頭脳達が算出しているのでプラスマイナス10兆円ぐらいで納まるように計算しているはず。それでも海外領のことを考えると、100兆円という規模で納まってくれるかは微妙。幸い、石油は満州付近や旧中国領で多く見つかっているし、インドネシアやベトナム辺りでも産出している。アスファルトが足りないという事態には陥らないだろう。
今回の予算会議は長引きそうなので、4月の上旬まで継続して行われる予定だ。本来であれば、2021年の3月に行なわれる予算会議は2021年度の下半期の予算編成を決めるのだが、今回は上半期の予算編成も行なっている。
前回の予算会議で決まった2021年度上半期の予算編成が穴だらけだったから、修正に時間がかかっているのだ。大体はメキシコとフラコミュの戦争のせい。この戦争に名前を付けるなら、チワワ戦争で良いな。衝突は国境付近全域で起こっているようだけど、両軍の被害が1番大きいのはチワワ州だ。
……思っていたより、メキシコが耐えている。イメージが足を引っ張っているけど、メキシコの国力は想定より高いのかな?