第174話 チワワ防衛戦
3月27日に、2月22日までのフラコミュとメキシコの戦争について最新の情報が入って来た。メキシコ軍は新しく3個歩兵師団を編成してチワワに向かわせ、そこでフラコミュ軍を迎え撃つ作戦にしたようだ。チワワを連呼されるとどうしても犬の画像が頭に浮かぶので、イメージを払拭したいけど難しい。
「設計図を購入して、それから製造を開始するのは間に合わないかもな。義勇軍を派遣するのもありだけど、そこまでするとアラスカ方面から侵攻されそう」
「そうなれば、こちらから侵攻しても良いのではないですか?」
「メキシコを侵攻しているフラコミュ軍の戦力が少ないのは、日本との国境を警戒しているからだと思っている。フラコミュがアメリカ大陸を何処まで工業化出来ているのか分からないけど、少なくとも自給自足は出来るようだからそれなりに下地は出来ているし、今の段階だと勝てる見込みが薄いよ」
相変わらず怜可さんが武闘派な回答をするけど、アラスカに駐屯している日本の軍規模はそれほど大きくない。現時点で5個歩兵師団、2個騎兵師団、冬季戦用に編成中の騎兵師団、冬季戦にも適応出来る山岳兵師団、6個砲兵旅団となっているから、単純計算で歩兵7万8千人と騎兵2万4千人だな。軍縮する前は歩兵だけでも5個師団10万人だったから、それなりにスリム化してしまっている。アラスカ方面軍だけは増員しておくべきだったな。現地住民が少ないから、即座に師団を編成するのも難しい。
フラコミュのアメリカ大陸領がどれぐらい工業化しているのか不明だけど、イギリス海軍とフラコミュ海軍は大西洋上でお互いに輸送を妨害し合っていたはずだ。それに対応できるよう、自立できるだけの力は付けさせるはず。フラコミュ本国がまだ高速道路の敷設中だから、インフラとかはそれ以下のはずだけど、想定は高めの方が良いだろう。
「その内、歩兵師団は自動車化歩兵師団や装甲車師団に置き変える予定だよね?そうなると、騎兵が浮いた存在に見えるな」
「騎兵は馬と人との組み合わせが2人分の歩兵を上回るなら価値があると判断されています。現状、選別された人間しか騎兵になれないのは選び抜かれた人じゃないと2人分の歩兵を上回れないからですね」
「ああ。一応、騎兵不要論は出ているのか。馬産業の問題は、本当に頭が痛くなるよ。……そう言えば、今なら賢士さんと気軽に話せるし、相談しておこうかな」
「分かりました。賢士さんは北海道最大の牧場主でもあるので、今後を決めるのであればじっくりと話し合うべきでしょう」
馬産業をどうするかは1つの問題点でもあるので、彩花さんのために京都まで来ている賢士さんに相談をする。この人、自由奔放のように見えてかなり頭が回るタイプなので、相談役にはうってつけだろう。そう愛華さんに言って呼び出して貰おうかと思っていたら、都合良く賢士さんがやって来た。
「賢士さん!ちょうど良いところに……」
「秀則様は、彩花を正妻にしないのですか?」
そして俺から話しかけようとしたら、賢士さんの方から問い詰められる。賢士さんはいつもにこやかなのに、今回ばかりは目が笑って無かった。……どう足掻いても俺が悪いことなので、真面目に話そう。
「まだ確定したわけじゃ無い。豊森家の後継者に関する問題だから、今回の決まりは俺が独断で決めた」
結婚式を挙げる話になった時、どうしても付き纏う問題は誰を正妻にするかどうかだ。いやまあ、正妻は珠だけど、それを今の時代で言ってもしょうがないのでちゃんと選ぶつもりだった。しかしここで1番の焦点になるのは、後継者問題だ。
豊森家の当主は基本的に男系になる。美雪さんの父までずっと長男が家を継いで来たから、男系が伝統と言っても良い。他の家では父が直系であれば娘は良いが、その子供までは駄目、みたいな感じ。なので美雪さんの父も美雪さんが当主になった後、秀則に譲れ、みたいな遺言を残したのだろう。
だから仁美さんの子が優先される理由はさほど強く無い。しかし豊森家全体の総意としては現当主の娘である仁美さんと俺の子供が後継者として相応しいと考えている層も多くいるようで……つまりは仁美さんを正妻とする方が良いという意見が多いのだ。
ついでに言えば彩花さんが豊森家の傍系のそのまた傍系なのも問題点になっている。どうせ子は直系になるのだから何にこだわっているのかよく分からないが、円満に解決するのは難しそうだった。流れで仁美さんを選んで、彩花さんの気持ちを無視したくは無かったし。そもそも選べる性格では無いし。
だから、産まれて来る子供で決着を付けることにした。彩花さんが男子を産んで仁美さんが女子を産んだ場合のみ、彩花さんを正妻にすると宣言した。残りの4分の3の場合は、仁美さんが正妻だ。両方が男子を産んだ場合、戸籍上は次男が後継者になるとも宣言しておく。そして結婚式自体は、今年の6月に行うこととなった。
……正直に言えば、最悪の選択をしたと思っている。豊森家の意思を汲み取った上で、仁美さんと彩花さんを納得させやすいような選択肢を選んだということは2人にすぐ看過された。彩花さんはずっと仁美さんを選ぶべきだと言っていたし、仁美さんは自分が選ばれるものだと思っていたと、素直に気持ちを言っていた。
この選択をしたということは、彩花さんが正妻になる可能性があっても良いと言っているようなものだ。要するに、俺の気持ちは彩花さん寄りだと見られている。実際にはどっち寄りとか無いのだけど、家の問題だからなぁ。
俺がこの選択をした理由の一つに、彩花さんが本音を言っていないと察したからだ。俺が察したのか、彩花さんが察せさせたのかは微妙だけど、彩花さんが仁美さんを正妻にするべきだと言った時に、本音を喋って無いなと思った。何処から何処までが彩花さんの悪意なのかは分からないけど、それを試したいとも思った。
「秀則様なら、自身の気持ちに素直になっても良いのではないですか?」
「素直に従った結果が、天任せになった。彩花さんの祖父なら察して欲しい」
「……なるほど、そうですか。分かりました。
彩花のことは、大事にして下さいね」
「言われなくても、大切にします」
賢士さんと彩花さんのことで小一時間ほど話した後、納得した賢士さんはそのまま退室してしまった。俺も気付かなかったけど、慌てて呼び戻して再び賢士さんと相対する。
……今度は、馬産業についてだ。