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第165話 1周年

2021年3月9日。俺がこの世界に来て1年が経過した。何もしていないようで、世界は大きく動き、日本も大きく変化した。……その内、この日が祝日になりそうだな。


祭壇の上で目を覚ましたのがもう1年も前だと、個人的には信じられない。本当に時が経つのは早い。


僅か1年の間に、自転車や機関銃が開発されて自動車まであと一歩のところまで来ている。来年の今頃には、飛行機が飛んでいそうなぐらいの勢いだ。旧中国領での鉄道網構築は順調で、沿岸部の一部区間は既に開通している。


何かにつけて宴会を開きたがる豊森家では、今回も当然のように祝宴が開かれた。お酒が振る舞われ、ご馳走が並ぶ。食による幸福を追求した料理はどれもこれも美味しく、軍の携行食として採用されそうなチョコレートは若干の違和感こそあるものの、甘くて美味しいチョコだった。


そしてその日は早めに就寝したせいか、久しぶりに夢を見た。



改変しなかった世界で、2021年3月9日は高校の卒業式があったらしい。高校2年生の俺は先輩達を見送って、そろそろ受験勉強を本格的にしようかなと考えていた。期末考査では英語と物理と化学以外でそこそこ上位に食い込んだらしい。全国模試の結果も、楽観視出来るほど良くは無いけどそれなりに良かった。どうやらこの1年間は、真面目に勉強を続けていたようだ。


国は2025年までに消費税率を現行の10%から15%まで上げることを発表し、高齢者である65歳以上の人口が30%を超えそうので70歳以上を高齢者にすると、スマートフォンで見たニュースには書かれていた。それを見て、思わずついこの前までは8%だったのに、と夢の中の俺は呟いてしまっていた。国の首相は、生涯現役で働ける社会を目指すと意気込んでいる。


親父は1年でさらに白髪が増えていて、新入社員がどんどん辞めていくと嘆いていた。親父は年功序列で給与の保障はされているが、新入社員は全然増えないからだと言ったらそりゃそうだなと返された。そういう親父も、ボーナスがほとんど出なくなったらしい。母はパートを始めていた。昨年から働き口を探していたけど、ようやく見つかったようだ。


国債の格付けはどんどん格下げされ、出生率は人口の維持が見込めない1.8を目標にするも一向に越える気配を見せなかった。子供を持たない女性へ懲罰としての増税が試みられたが、世論の大反対を食らって廃案となった。高齢者が増えたせいで増大する医療費は50兆円近くにもなり、国の財政を圧迫している。


冷静になったつもりで世の中を見ていた夢の中の俺は、本当に大学進学で良いのか悩んでいた。しかし、両親は学問が身を助けるからと進学を後押しした。その言葉を信じ、1年間は死ぬ気で勉強しようと決心する。国公立の大学に入れば、1年間の学費は50万円を超えるぐらいで納まるだろう。


テレビをつけると、芸能人や元官僚が少子化問題について話し合っていた。その中で国がお見合いを主導し、同じレベルの人間を引き合わせたら良いと答えた人は、同じレベルの人間って何だよと袋叩きにされていた。1番叩いていた人は、未婚の女性芸能人だった。


プロ野球では、贔屓の球団に大物助っ人外国人が入って話題となっていた。SNSでも話題になるレベルで、流石は南米出身のメジャーリーガーだと記事にも書かれていた。身長195センチの太った黒人は、日本人の監督と並ぶととても大きく見えた。


夢の中の俺は今までの事柄に対して特に疑問も持たずに、今日もゲームを始めた。受験生になるのに大丈夫かよと思っていたら、10分も経たずにゲームを切り上げ、机に向かって参考書の問題を解き始めた。どうやら、罪悪感を感じながらゲームをするということでゲームを嫌いになれたらしい。ゲーム断ちをしないと成績が上げられないのは分かっていたし、自己流で工夫をしたのだろう。


そのまま夜の12時ぐらいまでだらだらと勉強を続けて、ベッドに横になる。残念ながら、勉強の内容は把握することが出来なかった。夢の中の俺が寝ると同時に、俺は目を覚ます。



「大丈夫ですか?随分とうなされていましたが?」

「……ああ、大丈夫だよ。少し悪夢を見ただけで……悪夢?」


次の日の朝は、仁美さんの顔が真正面にあるという状況で起きる。思わず悪夢と口に出してしまったので訂正しようかと思ったが、訂正することが出来なかった。改変前の日本で、いつか実現するだろうと言われてた高齢者の30%越えは、2022年には達成するかもしれない。あの夢の中で、2021年に高齢者率が29%越えってマジかよ。


……高齢者率は7%で高齢化社会、14%で高齢社会、21%で超高齢社会だから、30%を超えたら何になるのだろうか?本来であれば、上の世代が増えれば下の世代も相応にして増えるのでここまで高齢者の比率が増大することは無い。しかし1970年代に出生率が2を下回ってから、およそ50年。そこにいた俺は社会が軋む音を聞いていないのか、聞こえない振りをしているのか、何とも思ってなかった。


いや、間違いなく聞こえていたから、聞こえない振りだろう。破綻がいつか訪れると知りながらも、何もしていなかった。世の中の大半の人間は、聞こえないようにして都合の良い日常しか見ていなかった。


俺は、どんな世界よりも自由度が高い世界で生きて来た。その自由度が高い世界の先にある破綻について、何も想像できない一般人だ。しかしついさっき見た夢を悪夢だと言った。完全に無意識な状態で出た、俺自身の言葉だ。……視点が違えば、物の見方は変わって来る。ただ、それだけの話だけど。


もしかすると、機械が出産を代理するようになって人口ピラミッドは改善されるのかもしれない。ロボットやAIが労働力不足となった生産活動を請け負ってくれるのかもしれない。だけど今の日本で、自由度の高い世界は自殺行為だと自覚させられた。


……今の管理社会を継続的に発展させられるかどうかは、世界の情勢に大きく左右される。大戦争も起きずに民族自決の精神が発達してしまうと、手遅れだ。だけど今のままだと技術にはまだ差がある。


全てはタイミングの問題だ。そしてそのタイミングを決められるのは日本じゃない。フラコミュに仕掛ける側の大英帝国やプロイセン王国か、仕掛けられる側のフラコミュ自身だ。外交力が弱い日本は、盤面が決定してから動く方が良い。盤面が決定する前に、決断を迫られるかもしれないが。

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[一言] 本当に夢かな…? 夢であってほしいけど…
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