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第13話 天真爛漫

京都に到着して豊森家の屋敷に帰ると木下さんと島津さんの動きが止まった。豪邸と言っても良いぐらいの大きさだから、固まるのはわかる。しかし平屋なので、俺としては扉の前でそこまで威圧されることは無い。中の広さには慣れないけど。


「凄く広いです!」

「……走り回っているからという理由で青筋を立てないでくれ」

「うっ、申し訳ありません」

「秀則様は、良いの……?」

「良いよ。子供は元気な方が良いの」


加藤さんだけは緊張せず、あちこちをきょろきょろしたり、駆け回ったりして落ち着きが無い。そんな様子を見て怒ってそうな愛華さんや困惑する凛香さんを宥めておく。


「愛莉、落ち着いて……」

「はーい」

「秀則様……」

「こいつの強心臓っぷりは絶対に今後役立つから我慢しろ」

「いえ、もう怒って無いですが、この子ただのアホな子では……?」


涙目の島津さんに止められて、落ち着く加藤さん。18歳の行動とはとても思えないけど、子供っぽい高校の先輩が何人もいたからなんとも言えない。加藤さんと島津さんは日本で言う5年制の小学校に通っていただけだし、卒業後は漁船に乗って網を投げては引くだけの仕事をしていたらしいし。


木下さんは小学校を卒業後、中学校で落第。その後は漁船の操縦を主にしていたようで、加藤さんや島津さんに比べると肌は白い。それでも加藤さんや島津さんと一緒に網を引いたりしていたからか、俺より日に焼けていた。


「それで、3人とも屋敷に住まわせて良いの?」

「問題ありません。来客用の部屋ならいくらでもありますので」

「……それだけ広いと、平屋でも地震が怖いな」

「地震対策なら大丈夫です。2年前に起きた京都と北海道での大震災でも、建物への被害は少なかったです」


愛華さんから2年前に起きた地震で被害が少なかったと聞いて、建物の耐震性はかなり向上したことが伺える。9年前の大震災では津波のことまで書いていたからか、改変前の世界より被害者数は少なかった。どうやら地震の前から既に岩手や宮城から全員が避難していたようだ。全体主義的な国民性がありがたい方向に働いた結果である。


「2年前と言えば、台風は大丈夫だったの?」

「…………2年前の台風、ですか。大坂や堺では風で家屋が薙ぎ倒されました」

「大阪の方は酷かったのか……あれ?京都は?」

「京都ではそれほど強い雨風ではありませんでしたよ?」

「あれ?」


台風に関してはそれほど京都の被害は大きくなかったようだ。おそらく改変前の世界より温暖化が進んでいないから台風の勢力が弱まったの、か?温室効果ガスやフロンガスが地球に与える影響とか、あまり詳しく無いからわからないけど、地震は変わらないのに台風が変わるって、そうだとしか思えない。


「うわー!ひろーい!」

「……それで、何で俺の部屋のすぐ近くなの?」

「それは秀則様が手を出しやすいように……」

「いや、俺の性癖や好みまで伝わっているならロリ……幼い女子は対象外って知っているでしょ」


加藤さん、島津さん、木下さんは俺の隣の隣の部屋に住むこととなった。最初は1人1部屋の予定だったけど、島津さんと木下さんが不安そうな顔で一緒の部屋にして欲しい、と言ってきたから一緒にした。一応、3人とも今まで同じ部屋で生活していたそうだし、ベッド3つは余裕で入りそうだから良いか。


3人娘の様子を見るために部屋に入ると、ベッドで跳ねている加藤さんを島津さんがあわあわしながら止めているという光景を目撃して、加藤さんは恐怖心というブレーキや常識が無いやべー奴、という評価をしておく。絵描きとしても凄いし、怪我をされると困るから、ハンググライダー作りは慎重に行おうか。


「わ、私なら大丈夫なので、夜伽ならばお任せください」

「声が震えているし、お前が一番無いから安心しろ」


木下さんは3人娘の中で一番普通というか、3人娘の中ではわりとまともな性格をしている方だと思った。ただ、俺と話す時だけ声が震えている。無条件で怖がられるのは納得がいかないけど、豊森家がしでかしたことの大きさを実感した。


3人娘の中で一番小さな木下さんは、141センチ30キロという痩せ型幼児体形だ。190センチ77キロの愛華さんと並べてみたら同じ人間だと思えないぐらいの差がある。試しに愛華さんの肩に木下さんを乗せられるか聞いてみたら、実践してくれた。木下さんは愛華さんの肩の上で放心していた。


「いきなり夜伽の話をするとは、不埒な女ですね」

「会った初日にベッドに潜り込んでいた愛華さんがそれを言うのか」


とりあえず新しい子達とはなんとかやっていけそうな感じなので安心して俺の部屋に戻ると、仁美さんが俺の部屋で作業していた。机の上には大量の書類が散乱している。


「……ただいま」

「お、おかえりなさいませ!出迎えに行けず、申し訳ありません!」

「いや、この部屋一番奥だし、気付かないのが普通だから」


俺の姿を視認すると、慌てて挨拶を返す仁美さん。何で俺の部屋にいたのか聞くと、一昨日の出発時に、夫婦なのだから同じ部屋で生活しろ、と美雪さんに言われたとか。なので仁美さんの私物と思われるものが俺の部屋に運び込まれていた。


「『豊森秀則の旅路』『豊森秀則の伝記』『豊森秀則の生涯』

……何冊同じような本があるんだ」

「こちらは『豊森秀則による予言書』の写しです。他にもこちらに秀則様の残した書が……」

「実験記録を纏めた本とか、よく残っていたな」


俺に許可確認を行う前に美雪さんの指示が実行される辺り、仁美さんの中では俺よりも美雪さんの方が上と言う構図が垣間見えた気がする。別に仁美さんと同じ部屋で寝泊まりすることに不満は無いのだけど、仁美さんの『豊森秀則』に対する執着心が強そうで少し怖い。


3人娘の部屋には、ベッドが3つ運び込まれていた。対して俺の部屋には出て行った時と同じ大きなベッドが1つ、変わらずに置いてあるのみだ。


……仁美さんから熱い視線を感じるのは気のせいだと思いたい。

次回から少し時間が飛びます。

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