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第162話 留学

2月も下旬に入った頃、美雪さんが大きな仕事を持って帰って来た。ちょっと旅行するついでに色々と作業を行う美雪さんは今回、とんでもない案件を俺に提示した。


「ロシア、プロイセンと3ヵ国で軍人の交換留学を行うことになりました」

「……凄いな。よくそこまで話を持って行ったよ。日本の軍人は、プロイセンに留学することになるのか」

「そうですね。プロイセンの軍人はロシアへ、ロシアの軍人は日本へ留学することになります。規模は、陸軍5人と海軍5人の計10人となりました。可能なら、若い人に行って貰いたいですね」


何をどうしたらそんな話になるのか分からなかったが、日本から諜報員をプロイセンに送ってプロイセン人の生活スタイルについて調べていたのが見つかってしまったようだ。そして将来的に同盟を結ぶなら、生活スタイルや物価などの基本的なことを調べるのなら、お互いに軍人を交換留学させようぜ、という話になったらしい。どうしてそうなった。


プロイセンは、色んな国から留学生を集めているとのこと。そう言えば亡命してきたフランス人の中にも、プロイセンに留学していた人はいるな。ドイツ語を話せる人は軍人でも少ないかもしれないけど、せっかくなので今年士官学校を卒業する年代の若者を留学させてみようか。


交換留学するきっかけになったのは、3ヵ国とも陸軍と海軍に大学校があるからだろう。この陸軍大学校、海軍大学校に入学させるのを予定としているようなので、数年単位での留学になりそうだ。留学中に戦争が始まったら、観戦武官になるのかな?危険は伴うけど、将来の佐官候補に経験を積ませられるのは大きい。


「現在、士官学校の今年度卒業生の希望者から成績で上位4名と、現役の士官で大学校を出ていない希望者1名を陸軍と海軍で募集しています」

「現役の士官はお目付け役?」

「そうなりますね。流石に10代の若者10人で欧州に向かわせるのは無責任過ぎますので、ドイツ語が特に優れている人物を選出したいと思います」


美雪さんの行動力が凄まじいが、外国へ日本人を留学させるのも、外国から留学生が来るのも国として初めてだろうからか、気合いが入っている。ロシアやプロイセンと仲良くして欲しいとは頼んだが、ここまでの関係構築を行えるとは思わなかった。


プロイセンで学べるのも有り難いけど、ロシアの若者が日本に来て生活してくれるのも有り難い。フランス人やイギリス人は、基本的に文句を言えない立場の人間だから対等な立ち位置からの意見も聞くことが出来る。


今年の4月からプロイセンに向かわせることになるから、素早い決断をすることが出来るような人間がプロイセンに留学することになるはず。……士官学校を卒業する人間は基本的に16歳だから、もう大人と言っても良いような年齢だけど、それでもプロイセン行きを決めるには勇気が必要になる。まだ関係が浅い国同士、いざこざが起これば命が危うい。そこら辺はちゃんと美雪さん達が配慮するだろうけど、それでも異国の地へ行くのは怖さがある。


「プロイセンに留学できるなら、海軍組に関しては潜水艦について勉強出来ないかな。陸軍組は、日本でも活用出来そうな戦略や戦術について学んで欲しい」

「潜水艦は流石に機密性が高いので難しいと思いますが、取引をしている最中ですのでもしかすると学べるかもしれません。陸軍の方はプロイセンの戦術論を学べると思いますので、きっと良い成長に繋がるでしょう」


不安は募るけど、成果は大きいはず。そう思って美雪さんは交換留学の誘いに乗ったと思うし、この機会は最大限利用したい。士官学校を卒業した生徒は基本的に少尉の見習い的な存在になるけど、留学を決断した人には少尉という階級を与えて送り出すことにした。帰って来たら少佐昇進が確定している大尉扱いだな。


留学中の日報の決まりや、予算も決めて送りだす体制は固める。こちらは問題が無かったけど、受け入れる方は難しい。どういう教育をするか、どういう扱いをするのかは早めに決めたいけど、全員の線引きが違っているので早めに話し合いを行いたい。


そもそも、ロシアの軍人がどういう教育を受けてどんな訓練をして来たのかが分からない。日本の軍人なら大学校に入るのはほとんどの場合、士官学校の卒業生だからどのような訓練や教育を受けて来たのかが分かるし、文武両道を目指している。……士官が肉体を鍛えるのは欧州では嘲笑されるような行為なら、ちょっと教育のプログラムを変えようか悩む。


いや、士官が崖を登るとか必要性が0とは言わないけど、その訓練を士官がする必要はあるのかと問いたくなるような訓練は幾つかある。戦争が100回あったとして、そのような状況に陥るのは1回あるかないかだ。……あれ?100回に1回あるかないかの事象で、確実に生存させるという方針は分からなくも無いな。


まあ、ロシアから来た軍人が今まで受けて来た教育やその方針を語れないとは思えないので、何とかなるだろう。ロシア人にとって日本語は難しいだろうけど、頑張って取得して欲しい。こちらがロシア語を話せる教師を用意出来れば良かったのだけど、ロシア語が堪能で教鞭を執ることの出来る軍人は残念ながらいなかった。


ロシア語は、残念ながら俺には理解出来ない言語だ。まず文字が読めないし、英語以上に馴染みの無かった言語なのでウラーとハラショーとスパシーバしか意味が分からない。とりあえず挨拶ぐらいはしたいのでアリスちゃんに聞いてみたが、発音が難しい。


「こんにちはがスドゥラーストヴィーチェとなります」

「ず、ずどらーすとゔぃちぇ?」


……やっぱり言語は統一した方が良いのかもしれないと、アリスちゃんに挨拶を教えて貰いながら思った。

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