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第161話 大阪

2月16日の夜。大坂を大阪と改名して大阪から帰る途中に事件が起きた。思い付きで外食にしようと立ち寄った店の中で、1人の従業員が店主に頭を叩かれたのだ。


……告発大正義の今の日本で、嘘の告発は重罪なので店主が本当に頭を叩いたのだろう。告発自体はこれまでにも何回かあったけど、全て些細なことだった。今回は、殊更に些細なことだ。しかも立ち寄った店は、国営の外食店では無くて民間の外食店だ。


「店主が従業員を殴る、蹴るなどの暴力行為を行った場合、不当であれば暴行罪が適用されます。民間企業の従業員達も、当然法によって守られています」

「愛華さん、説明ありがとう。

……で、店主さんは何で叩いたの?」

「煮込み料理を任せていたのですが、当人が寝ていたために、思わず叩き起こしてしまいました」


告発は働いても給料が出ない場合や、理不尽な暴力を受けている人物が行うイメージだったのが、今回の告発でかなり崩れた。従業員が寝ていたので叩いて起こしたら暴行になるとか、理不尽な目に合っているのは店主の方だろう。


「……流石にここまで酷い告発は初めて。しかも、仕事の料理を投げだしているのも問題」

「鍋を時々かき混ぜる仕事とか、凄く楽そうで良い仕事だよなぁ。下準備の2時間以外、弱火でコトコト煮込むだけで8時間労働だろ?」

「いえ、流石に皿洗いなどの煮込み中も出来る作業は行わせていましたし、煮込み料理は数種類あるのでそこまでのんびりとは出来ません」


凛香さんでも呆れるほどの事件は、叩かれた従業員本人がお怒り中。40代の店主であり、料理長でもある男性は涙目だ。つい先程は、ニコニコしながら牛肉と豚肉を煮込んだシチューのような料理を持って来てくれたのに。


「こいつは叩いただけじゃねえ!先月は俺をただ働きさせやがった!」

「……月に5回以上休めば1日毎に7.5%の減給が認められているので、15日間の無断欠勤によって給料は0になりました」

「最低でも半年間は雇用しないといけないんだっけ?大変だね?」

「はい。3ヵ月で25回も無断欠勤をされては、もう1人を追加で雇うしかありませんでした」


このお店では20日締めの25日払いなので、先月の給与が出なかったと言うこの従業員は12月21日から1月20日までの間に15日間の無断欠勤を行ったことになる。たぶん、このお店は今の日本では珍しく正月も営業をしていたのだろう。それにしても、この店は出勤日が月に20日で固定されているのに、15日間も休んでいたら働いている日の方が少ない計算になる。むしろよく5日だけ働こうという気になったな。


話にならないというか、この喚く従業員の主張が支離滅裂過ぎる。働きたくない日だったんだ、働かないと生きていけないこの国がおかしい、俺が偉い人間なら働きたくない人は働かなくても生きていける社会を作る、と豪語している。見た感じ、20歳ぐらいの男がこの主張はヤバい。


「……これが日本の平均ってことは無いよね?」

「ここまで酷いと小学校を卒業出来ないはずですが、上手く教師を誤魔化したのでしょう」

「あー、本来は職業選択権が無いのか。……健常者だとは思うけど、痴呆入ってる老人より相手にしたくねえ」


愛華さんに小声で確認をすると、普通なら国有企業の中でもサボれないタイプの職種に割り振られるタイプの人間だと言われた。店主にいたっては、面接時はまだまともな好青年だったのに、と虚ろな目で呟いている。どう対応しようか凄く悩むのだけど、告発は上の人間の即断が求められるから一旦の処分を決めてしまおう。


「偉い人になりたいの?」

「はあ?当たり前だろうが!」

「じゃあ国王になって良いよ。働きたくない人は遊んで暮らせる国を作ってくれ。佐紀島(さきじま) 一晴(いっせい)君だっけ?これからは佐紀島王国でも佐紀島帝国でも良いから国を作って、そこの王様になっても良いよ」


俺が国王になって良いよと言った瞬間に愛華さんと彩花さんが驚いたような顔をしたけど、その後の言葉で全てを察していた。途中からこの人は日本の批判や豊森家の罵倒しかして無かったから、それなら日本人を辞めて国を興したら良いじゃんと思って、そう言ってしまった。


……親衛隊という護衛を引き連れるような上の立場の人間の前で豊森家の批判が出来るのは、胆力があるのか単に頭が回らないだけか、どちらか分からないけど色々と酷い。


「俺が王様に!?本当!?」

「ああ。佐紀島王国の王様になる権利を君は有しているからね」

「よっしゃ、じゃあ俺は王様になるぜ」


そして王様になると宣言したので、頭が回らないだけということは確認出来た。彩花さんはもう展開を読めたのか目を伏せて悩み始め、愛華さんと凛香さんは外国人となった従業員と俺の間に立つ。俺の発言力は、国を1つ作れるぐらいに大きいのか。


王様になれたとはしゃぐ男は、したり顔で俺に命令した後、愛華さんによって留置所の方へ連行されていった。いや、本当に留置所まで連れて行かれたのかは分からないが、流石に豊森家しかいないような場で豊森家批判は不味すぎる。


ついでに今の日本は二重国籍を認めていないので、例えロシアの皇帝でも日本国籍は取得出来ない状況だ。日本国籍の抹消は本人の意思で行える決まりになっているようだけど、詳しくはまだ知らないな。知る機会も無かったし。


「働かなくても遊んで暮らせる国、というのはあるのですか?」

「200年間、このペースで技術革新が起これば可能かもな。機械が自己メンテナンスを行えるようになって、自動で食糧を生産。配達もロボットが行うようになって、人間性を持ち合わせた人間に好意的なAIが社会を管理すれば、人間は遊んで暮らせる」

「途方もなく、遠い社会ですね。それが人類の夢なのでしょうか?」

「……頭の良い人間が1人で哲学的な事を思い悩まないでくれ。まあ、人類の終着点の1つじゃないか?」


彩花さんが遊んで暮らせる国というものについて聞いて来たが、実は国民が遊んで暮らせる国というものは簡単に実現できる。奴隷制度を駆使して奴隷を国民としなければ、奴隷の調教が完璧であれば、国民は遊んで暮らせる。


……まあ、そんな国は長くは続かないと思う。奴隷では無くて、感情を持たない機械に置き換える事が出来るのなら、実現は可能かもしれないが難しいだろう。

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