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第155話 兵役期間

2月に入り、受験シーズンが始まった。加藤さん、島津さん、木下さんの3人は海軍幼年学校の試験を受けることになったけど、海軍幼年学校は複数あるようなので、1番突破が容易な所を狙うと島津さんが言っていた。


「……寮生活だし、場所によって合格最低点とか変わるの?」

「受験した学校によって、合格最低点は違います。試験内容はほぼ一緒で、難易度もそれほど変わりませんが、だからこそ受験生による読み合いが発生します」


彩花さんに解説されたが、全国で同じ問題を出そうとすると管理が難しいので各学校で問題を用意するらしい。後で出た問題については精査されるから、どの学校も試験問題作りは手を抜かない。今年から面接試験が無くなったので、その点は年齢が上の加藤さん達にとって追い風だ。


過去の倍率や問題傾向から、今の加藤さんの学力で1番突破が簡単な学校を島津さんと彩花さんが選択。なお、どの学校も訓練は厳しいようで、教育マニュアルに大きな差は無い模様。


「そう言えばこの国の兵役についてアバウトにしか知らなかったけど、兵役期間は何年ぐらいだ?」

「えっと、海軍と陸軍で少し兵役期間についても変わりますが、どちらの兵役期間についてですか?」

「陸軍の方が人は多いから、陸軍の方で」


今までアバウトにしか兵役期間について知らなかったので、この機会に詳しく聞いておく。日中戦争の時は、階級制度と昇進規定についてしか聞かなかったからな。彩花さんに海軍と陸軍で少し違うとは言われたけど、大差は無いようだ。陸軍の方が人は多いので、陸軍の事から詳しく聞くことにする。


「では陸軍の方で説明します。例えば、10歳で小学校を卒業し、11歳で陸軍に入隊するとしましょう。まず最初に行われるのは、適性検査ですね」

「徴兵じゃなくて、志願兵なんだよね?検査でどのぐらいの人が拒否されるの?」

「この検査は試験のようなものではありませんよ。単に身体が丈夫かどうか、最低限の頭はあるのかを確認するだけです。近年は96%から97%が突破していますね。昨年度は通過率が97.6%です」

「3%は落ちるのか。志願すれば、健康なら軍には入れるんだ?」

「数が多すぎる場合はこの検査で選別もしますが、ほぼ大半が入れる状態ですね」


11歳という少年が、軍に志願して最初に行われることは簡単な試験で、全力で走っても大丈夫なのか、簡単な指示を守れるかのチェックを行う。その後、三等兵として訓練が開始される。


「1年間の訓練が終われば全員が自動的に二等兵になるって聞いたな」

「いえ、新兵の全員が二等兵になるというわけではありません。能力的に厳しいとなれば、訓練についていけなければ、抜けるように言い渡されます」

「……1年間の選別を経て、まだ二等兵なのか」

「二等兵になれば、兵役期間が3年間伸びて4年になり、軍を辞めた後も予備役となります。予備役の中でも順位は低いので、滅多なことでは徴兵されませんが」


二等兵となれるのは、三等兵の中でも訓練に耐え続けられた者のみで、志願兵全体の7割程度。志願兵でも数が多いから、数を絞る方針なのだろう。志願する数が増加傾向なのは、ある意味凄いと思う。


「その二等兵の中で、優秀な人間は一等兵となります。一等兵の条件は知っているかと思いますが、二等兵として1年以上の勤務と試験の合格ですね。一等兵になれるのは二等兵の3割程度で、一等兵になれば軍役期間が6年伸びて10年になります」

「軍役期間が10年に伸びても、21歳になれば軍から外れて予備役になるのか?一等兵の予備役から師団を編成していく感じ?」

「いえ、21歳で必ず軍から離れるというわけでは無いですね。師団に関しては、基本的に一等兵以上だけで編成されます。15人前後の分隊を構成するのは隊長になる軍曹1人、副隊長になる伍長が1~2人、上等兵が2~4人、一等兵が8~11人となりますね」

「じゃあ、やっぱり師団には一等兵が1番多いのか」


彩花さんの説明によると、志願した5人に1人がなれる一等兵が軍の中核となる歩兵になれるそうだ。こんな方法をとっているから、1人1人の戦闘力が高くなるのだろう。軍事費が増大していたのも分かる気がする。技術で劣っていても戦争で負けて無かったのはえげつない兵士育成システムのお陰だな。


「その後、一等兵の中でも1年以上勤務した人間の中で優秀だと認められた人間は上等兵となります。割合的には一等兵の2割程度ですね。上等兵になるとさらに軍役期間は伸ばすことが出来ますが、伸ばすかどうかは志願制になります。上等兵になると軍を辞めても他で優遇されるため、20歳で辞めてしまう人もいますが、戦争が始まれば真っ先に呼び戻される存在です」

「このシステムだと、21歳以降は軍に残れ無さそうだけど、25歳前後の歩兵もいたぞ?」

「一等兵以上であれば、兵役期間を延長することも可能ですよ。一等兵であれば最長で30歳まで軍で働けます」

「30歳までか。まあその線引きは妥当かもな」


30歳までは軍に残れるそうだけど、実際に30歳の一等兵という存在は少ないそうだ。上等兵の上は伍長だから、陸軍幼年学校への入学が必要になるけど、上等兵だと試験は無い感じかな。しかも幼年学校の教育を1年受ければ卒業扱いだから、流石に優遇はされている。しかし下士官は伍長から軍曹、軍曹から曹長への出世で止まってしまうから、出世することが難しいらしい。


だから二等伍長や二等軍曹が存在するのだろう。曹長にもなると、50人前後の小隊の隊長も任される場合がある。士官学校を卒業したばかりの少尉と、曹長が小隊の隊長になるのか。少尉はわりとすぐに出世するそうだから、小隊長のほとんどは曹長だと思って良いな。曹長になると50歳まで軍に居座れるそうなので、流石に途中で辞めたりする人は少ないとのこと。


一般人は軽い気持ちで軍人にはならない方が良さそうだな。加藤さん達をとりあえず、という気持ちで海軍幼年学校に突っ込もうとしている豊森家の人間は感覚が俺とは少し違うようだ。まあ、漁船と言えども船乗りには違いないから目指すなら海軍で合っているのだろうけど、軍全体が競争社会過ぎる。


……いや、空軍を設立してそこで雇えば良いかと思った俺が軍人を軽く見すぎていたのか。軍人の世界が厳しいなんてことは分かっていたはずだけど、思慮が足りなかった。

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