第153話 艦隊計画
2021年1月18日。初風型駆逐艦の設計図がフランス人技師の監修の元、無事に完成した。8月の頭から設計を開始したから、設計だけで半年弱もかかったのか。最初の予定では3ヵ月で設計図が完成するはずだったけど、想定以上に時間がかかった印象だな。
こうなると最初の12隻が完成してから設計の見直しをして増産、という体制はかなり時間がかかるだろう。そこで持ち上がった計画は、最初の12隻が完成する前に、建造中に気付いた項目を突っ込んだ新しいタイプの駆逐艦を設計をするというもの。この新しいタイプの駆逐艦を88隻建造し、来年の3月までに100隻の駆逐艦を揃えたいようだ。
……内燃機関は今現在、馬力が少し足りないという状態。飛行機や自動車に使う予定のガソリンエンジンと並行して船舶用エンジンの開発も進んでいるけど、ガソリンエンジンよりかは一歩進んでいるというような状況。モデルとしてフランス人達が亡命の時に使用した艦艇があるから、ある程度は完了しているけど、もう少しだけ時間は必要だと言っていた。
それなのに起工するとか色々と見切り発車感が漂うけど、フラコミュ相手に50個師団規模の上陸作戦を行うならば、最低でも100隻ぐらいは駆逐艦が欲しいようだ。1年で100隻も用意出来るのは凄いかもしれないけど、これは日本が規格外というわけでは無いだろう。駆逐艦に限定すれば、100隻ぐらいならフラコミュでも1年で建造出来そうだからな。
駆逐艦の建造期間は長く見積もって9ヵ月だと言っていたが、設計図も長く見積もって3ヵ月とか言っていたから、1年ぐらいはかかりそうだ。明後日、ガソリンエンジンで人とエンジンを乗せた台車を動かすそうだけど、船に転用できるほどの馬力は無いだろう。研究への投資は、本当に金が溶けるように消えていく。
日本の艦隊については、今まで主力だった蒸気船を主力艦隊として使うか使わないかでも揉めた。たぶん、蒸気機関より内燃機関を採用した船の方が早いから、同艦隊にはし辛いのだろう。しかし、廃棄するのも勿体無い。小型戦闘艦とか、現行の最新式が500隻近くあったはずだ。
「……輸送艦の護衛は駆逐艦に任せたいし、先遣隊として使うしか無いか?
でも、どちらかと言えば人員の方が勿体無いな」
「海軍は人員の規模が陸軍より小さいですからね。急に艦艇の数を増やしても、即座に人員の育成が完了するかと問われれば、厳しいとしか答えられません」
「1隻当たりの人数を減らしてしまえば、戦闘効率が下がるからなぁ。海軍関係の施設にも投資するしかないか」
彩花さんと海軍の方針を見直していると、乗組員の急造は難しいと言われた。まあ、揺れている船で大砲を撃つわけだから練度が必要になるのは当然だ。船を高性能にしても、中身が高性能にならないと十全の力は発揮できない。……海兵の育成にも力を入れないといけないな。
あれもこれもと手を出すと、国家予算があっという間に消える。駆逐艦1隻でたぶん50億円近い値段になるから、100隻だと数千億円。その乗組員や砲弾、魚雷の値段を考えると1兆円規模だな。1隻に250人前後が乗るとして、人件費は単純計算でも年に500億円。駆逐艦100隻のために国のリソースの1%を使うのか。
これに加えて輸送船団の建造、管理を行うのだから、物流管理部門を設立しといて良かったと思う。50万人の陸軍を首都から1万キロ離れた陸地に送り込むための兵糧や補給線を考えるのは、専門分野の人じゃないと難しいだろう。今年は海軍の拡張に重点を置き、ドクトリンの見直しも行いたいけど、駆逐艦(未完成)とそれより小さな砲艦が大量にあるだけだから、物量作戦以外に良い作戦が見えて来ないという。
「空母は夢のまた夢だな。どうしようもない現実が見えて来たわ」
「……イギリスやプロイセンでは戦艦による競争が激化しているようですが、戦艦は作らないのですか?」
「戦艦に、格好良い以外の利点は少ないよ?遠くの敵に戦艦の砲撃を当てるのとか凄く難しいだろうし、とにかく技量が必要になる」
空母はまだ保留中だけど、船舶用のエンジンが完成したら設計図だけでも描かせよう。後発の駆逐艦は、先の駆逐艦の進水式が終わったら設計するとかしないとか。改初風型とかネーミングセンスが死んでるけど、俺もネーミングセンスは無い方だから文句を言えない。
「進水式は、今年の夏頃になりそうか?そこから艤装の工事が始まって、秋頃には完成と同時に改初風型を起工すると。……鉄鉱石はオーストラリアがあるからわりと無尽蔵だったか。中国も埋蔵量は多かったはずだし」
「そうですね。船に使われる鉄はオーストラリアからも運ばれて来ますが、オーストラリアにも造船所は多く存在しています。オーストラリアの造船所で建造される艦艇数は、まだ全体の2割程度ですけどね」
「彩花さんが乗っていたような、小型の砲艦はもうオーストラリアの方でしか建造していないって聞いたけど?」
「小型の船しか作ってないのに数では全体の2割なので、そこまで一極集中している訳ではありません。オーストラリアでも災害は発生するので、一極集中は避けている状況です」
オーストラリアはもう完全に全土支配が終わっているから、豊富な各種資源は大量に使える。人が多いし、物量作戦でも何とかなるのは確かだ。だけど俺個人の思いとして、人命を軽く扱いたくはない。
ちなみにオーストラリアでは山火事が頻繁に発生し、酷い時には数百人規模で死者が出る。だいたいはコアラが食べるユーカリの木のせい。育ちやすい上に、成長が早いから紙の原料でもあるし、風邪薬や毒薬にも使用されている。植林もしているそうだけど、燃えやすいから、山火事を発生させないようにするのは難しいと言われた。
……林業関係の予算編成の中に、山火事が発生した時用の予算があったけど、そんな毎年のように山火事が起きるのならもっとしっかりと対策して欲しい。自然災害だからどうしようもないことは分かるけど、工夫出来ないのかな?