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第152話 風邪

1月の上旬から中旬にかけて、豊森邸の周辺では風邪が流行った。というか、全国的に風邪が流行っていたようだ。幸い、仁美さんや彩花さんはすぐに隔離されて安全に過ごしたお陰か風邪を引かなかったようだけど、色んな人と接する機会が多い愛華さんは風邪を貰い、ダウンしてしまった。風邪を引いた人を隔離するのではなくて、風邪を引いて欲しくない人を隔離するのは面白いな。俺は風邪を引かない体質というより、風邪を引いても勝手に治っている体質なので何も無かった。


風邪を引けば休むことが当たり前の世界なので、少なくともこの日本には風邪なのに出勤を強要する人はいない。風邪がうつるということは国民全員が小学校の頃に習う知識な上、基本的に人員が過剰だから多少の穴は大丈夫なのだろう。単純作業も多いし、どんな仕事もある程度はマニュアル化されているのが何よりも大きい。この点は管理社会、国有企業だらけという社会の最大の利点だな。納期はもう少し待ってて、が通用する世界。


ただ、休むためには医者の診断書が必要になる。だけど、辛そうにしている人間に診断書を出さない医者はいないとのこと。豊森邸に医者は常駐しているが、愛華さんが服用する風邪薬については、薬に詳しい怜可さんが渡していた。医者が豊森邸にいる意味はあるのだろうか?


その風邪薬は、風邪薬というより漢方薬に近いもので、人体実験の賜物だから何とも言えない。そして風邪薬のお陰か、単に身体が強いのか、重症そうだった愛華さんは2日で復帰した。インフルエンザなら老人とか子供は重症化して死者が出るはずだけど、京都では死者が出ていないのでインフルエンザでは無いのだろう。愛華さんの風邪に関してはまだ潜伏期間中の可能性があるが、本人が元気そうなら大丈夫だと思いたい。


「もう身体は大丈夫なの?」

「はい。昨日の夜の時点で既に治っていたとは思いますが、念のため近づかないようにしていました。

……あの、もう1日休みを頂いても良いでしょうか?」

「良いけど、何で?」

「眼鏡が最近、合っていないような気がするので作り変えようかと思っているのです」


そんな愛華さんがもう1日休みたいと言って来たので、理由を聞いてみると眼鏡を作り直したいと言って来た。勢いで理由を聞いてしまったけど、休みたいと言っているのに理由を聞く必要は無かったな。せっかくなので、眼鏡屋にはついていくことにした。


「伊達眼鏡じゃ無かったんだ?」

「裸眼だと少しぼやける程度の乱視ですが、眼鏡はあった方が秀則様をお守りしやすいです」

「乱視か。乱視は遺伝しやすいんだっけ?」

「……かなりの確率で遺伝します。眼鏡があるので大半の視覚障害は克服されたものとして障害者扱いにはなっていませんが、眼鏡があっても前方が見えない、視界が真っ暗でどうしようもない場合は中度の身体障害者となります」


愛華さんは裸眼でもある程度は見える乱視で、日常生活を裸眼で過ごすことも可能だとは言っているが、遠い所にある看板を読む時とかは眼鏡があった方が良いと言っていた。近視も少し入ってそうだな。視覚障害はやはり遺伝しやすいらしく、愛華さんのお父さんも少し眼は悪いそうだ。軍では視力が大事なので、裸眼で日常生活は大丈夫でも、軍にいた時は眼鏡をかけていたとのこと。


愛華さんの眼鏡を作るということで、ちょっと高そうな眼鏡屋さんの中に入ると、色々な眼鏡が置いてあった。フレームに金を使っている眼鏡とか、宝石のような装飾があるような眼鏡もある一方で、斑模様や真っ黒の眼鏡も置いてある。


「お、これとか似会いそう、いっ!?」

「……そのすぐ手に物を持つ癖、直したいならしっかりと意識した方が良い」

「……分かってるよ。分かってるけど、手に取って確認したくなるの」


愛華さんに似合いそうな銀色の眼鏡があったので、手に取ろうとすると背後にいる凛香さんが視認できないほどのスピードで手首を掴み、俺の腕の動きを静止させる。高級店では手に物を取らないと心に決めているのに、手に取ってしまうのは本当に悪い癖だな。直る気配が一切ない。


仁美さんとか愛華さんは俺が触った方が価値は上がるからどんどん触れと言っているけど、他の客はちゃんと店員に確認していることを考えれば俺も自制したい。だから凛香さんにはあらかじめ止めるようにと頼んではいるが、これで止められたのは何度目なのだろうか。


「眼鏡の試着は、店員の手で着脱を行うのが通例ですね。手を挙げてお願いしますと頼めばかけてくれますよ」

「あまりべたべたと素でで触ったら、店側も嫌だろうしな。お、やっぱり似合ってる」

「それなら、これで良いですね。後はレンズの指定だけなので、1週間後には新しい眼鏡が完成すると思います」


眼鏡を注文する際のあれこれを俺に教えながら、愛華さんは自身の眼鏡の発注を進める。眼鏡の注文の仕方を学んでも、俺自身の目が悪くなることは無いと思うから意味は無い。……将来的に、コンタクトレンズとか開発されるのかな?物を目に入れるって、個人的には凄く抵抗があるから怖いけど。


試しに視力検査を行ってみると、両目共に優という判定だった。何十年と生きて来て、視力に衰えを感じたことは無いからたぶん視力は変わって無いはず。確か両目共に1.2だったはずだから、滅茶苦茶良いというわけではないけど、日常生活において支障は出ない。


視力は身体能力や学習成績と同じく優、秀、良、可、不可の5段階評価。不可は矯正有りでも駄目な人で、可は矯正有りなら見えるという人。愛華さんは良だから、一応裸眼でも見えてはいるはず。


視力検査は改変前のように穴の空いた丸を使ってみたいけど、あれは穴の大きさに確か意味があったような……見よう見まねでも良いと思うけど、すっきりしないのが気持ち悪い。何とかして、意味を思い出したいな。

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