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第145話 年明け

2021年1月1日。改変前の日本では祝日だった元旦は、この世界においても祝日だ。神社には長蛇の列が生まれるようで、子供達のはしゃぐ声が聞こえてくる。窓からは凧を視認することが出来たので、近くで凧揚げをしているのだろう。凧揚げは軍でも使うことがあるから、わりと必要な技能だった。電報のお陰でもう凧揚げを情報伝達手段として用いることは無いと思うけど。


「明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとう。今年もよろしくね」


仁美さんの新年の挨拶は、俺が戦国時代の時に広めたものと変わって無かった。仁美さんに新年の挨拶をした後は、次々と親衛隊の皆が挨拶をしてくるけど、お年賀が現金から現物に変わっていた。その品物も高価な物では無いので、社会が文化を変えていったのだろう。現金だとたまに凄まじい額のお金を渡されたりもするから、そういった意味ではありがたい。


「正月は三が日まで一斉にお休みになるなら、商店街が寂しくなるな」

「開いている商店はありますし、人通りも多いですけどね。それに、一斉にお休みと言っても汽車は動きますよ?」

「そこまで休んでいたら物流が死ぬから、何とも言えないな。……自動列車運転装置の技術が欲しい」


正月は全ての民間企業とほとんどの国有企業が休みに入るが、車掌や警察などは休んでいない。汽車は本数が6割減だから、かなりスカスカの特別ダイヤだけど、運行はしている。その減らした本数を、予備の人員や新人まで使って分担しているので正月に1日中働きたくないという意思を感じる。


……まあ、欲に素直なことは良い傾向だ。欲求というものは、人間性の一部でもあるからな。俺だってだらだらしながら生きていたいと思うような人間だし。今だって掘りごたつの中に入りながら蜜柑を食べてのんびりしてるし。


「それにしても、蜜柑が大きいのに甘いのは驚いたな」

「これも品種改良のお陰ですね。蜜柑の品種改良は非常に難しかったようですが。それでも百年以上前にこれ以上の蜜柑は作れないと言い切った博士が居て、事実その蜜柑を今日までに上回った蜜柑は誕生していません」

「へえぇ。実際、今まで食べた蜜柑の中では1番の甘さと量だわ」


掘りごたつに足だけを突っ込んでいる彩花さんと雑談しながら、大量に置いてある蜜柑を食べる。1個でも食べ応えは十分にあるから、3つもお腹に入らなかったが。


「初詣は行かなくても良いのか?」

「……道が埋まっているので、移動は困難でしょう。一般人が豊森邸に拝むため、列を為しています」

「……やっぱり、俺が移動したらついて来るよね?」

「その可能性は高いですね。事態が収拾する明後日ぐらいまでは家でゆっくりするのも良いかと」


正月ということで俺も初詣には行きたかったが、俺が初詣で拝まれる対象にもなっているので豊森邸から出ることが出来なかった。普段の正月はこんなことにならないようだけど、今年は俺がいるからなぁ。


……去年の3月までは軟禁されてて、位置情報が掴みにくかったのもあるだろうけど、今年は俺の動きとか新聞に掲載していたからこんな事態に発展したのだと思う。12月は寒くてあまり外にも出歩かなかったし、年末ということで色々な研究の報告書が届くから確認する量も多かった。年末の研究報告書は、失敗の報告書も含まれるから量がえげつない。


色々な分野で研究は行わせているけど、失敗報告が多かったのはやっぱりエンジン開発の部門だ。田中さんの研究チームが1番結果を残していて、1月中にはガソリンエンジンを乗せた台車を動かそうと頑張っているらしい。人1人とガソリンエンジンの自重と台車の重さを含めたら100キロを超えるから、それをプロペラで動かすのは難しそうだけどな。


飛行機開発を目標にしていても先に自動車が開発されそうだから、もう自動車から作ってしまおうか。フランス人技術者のオーレリーさんは色々な分野に口出しをしてくれているけど、石油精製技術の方を重点的に取り掛かっている感じだから自動車関係を最優先にしてくれと言っておこう。


「もう、お勉強は疲れたよ……」

「愛莉。もう少しだから頑張る、です」


研究や予算の報告書の確認をしながら掘りごたつでのんびりとしていたら、加藤さんと島津さんが部屋に入って来た。朝は元気に新年の挨拶をしてきたのに、もう試験勉強のせいで疲れてしまったらしい。最近は彩花さんと島津さんが共同で作った問題集を渡されてひたすら解き続けているようだけど、たぶん本番の試験も似たような問題が出るのだろう。そうじゃないと加藤さんの合格が厳しいと思うし。


島津さんと彩花さんの2人が協力したら試験問題の問題文すら完璧に予測しそうだな、と呟いたらそれはしないとのこと。カンニングと一緒の行為をしてまで入れさせても無駄だし、加藤さんのためにならないことはしないようだ。ただ、問題集を見る限り分野は絞っているとのこと。……豊森家のエリートって、このレベルを11歳で解くのか。


過去問も見せて貰ったけど、詰め込み学習だと苦しい問題が多い。問題数自体が多いのに、中には閃きを試すような問題もあるから、単純な中学入試より難しいな。軍人の養成機関だからこそ、閃きは重要視しているとは思うけど、この量を一時間は俺でも無理だ。


「……一時間だと難しく無いか?」

「全問解く必要はありませんよ。8割も解ければ合格します」

「その8割は、全問正解が前提か?」

「解ければ、正解するでしょう?」


彩花さんによると8割ぐらいを解ければ良いそうだけど、その解いた問題で全問正解を前提としているのは頭おかしい。結局、一般人は全ての問題を解く必要性がありそうだな。

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