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閑話② 原因と結果 (西暦1586年12月26日)

「父上、今年の豊森記念の利益は1000貫を超えました」

「……本当に豊森家の取り分は2割なんだよな?」

「はい。今年は1万人近い観衆が詰め寄せており、屋台での利益も去年より多かったです」


西暦1586年12月26日の夜。年末の恒例行事となった競馬の一大レース、豊森記念の利益が1000貫と聞き、本当に胴元の取り分を2割で計算しているのか豊森秀則は嫡男である豊森(とよもり) 秀一(ひでひと)を疑った。しかし観衆が1万人近く詰め寄せたと聞き、それならば1000貫の利益もあり得るか、と納得する。


「今日のレースを見たけど、年々早くなっている感じがするな」

「父上が種牡馬制を導入したからでしょう。やはり早い馬の子は早い馬が多いです。

……1つ父上に聞きたいのですが、よろしいですか」

「何だ?」

「父上が言っていた『優秀な親からは優秀な子が生まれる、というのは間違い』という言葉は本当なのでしょうか?」


戦国時代の価値観として、優秀な親からは優秀な子が生まれる、というのは一種の常識だった。世襲制が当たり前の世界で、個人を雇う時もその個人を見るより家柄を見るのが当たり前の時代だ。それを現代の倫理観で否定した秀則に対して、秀一はすっと疑問を抱いていた。


「馬の世界では早い馬の子が、遅いこともあります。しかし血統図で確認したところ、早い馬の子は7割以上の確率で早いです。しかし遅い馬の子は、早い馬がほとんど生まれません」

「……身体能力に関して言えば、親から子に受け継がれるものが多い、ってだけだ」


秀一は親から子に受け継がれるものは多い、優秀な親からは優秀な子が生まれる、という考えを払拭できなかった。秀則の子が全員優秀過ぎる、という現状もその認識に拍車をかけているのだろう。もっとも、秀則自身は凡人だ。この時代に来たから優秀に見えるというだけだ。


そのことを自覚している秀則は、やはり環境や過ごし方次第で人はいくらでも変わる、優秀な親だからという理由で子が優秀とは限らない、という認識を改めない。


「では、やはり子は親に似るということでは?」

「頭の方は違うだろう。親がアホでも子は賢いという例はいくらでもあるし、逆に優秀な王の子が暗愚で滅んだ国もあるだろうが。

……まあ、身体面では人間も遺伝する部分は多いとは思う」

「身体面では、ですか」

「武人の子に武人は多いし、背が高い親の子は背が高いことが多い」


そして身体面に関して子は親に似る、と言った秀則に秀一は違和感を覚えた。なぜ秀則は、子が親に似るということをそこまで認めたく無いのか。認めてはいけないことなのか、未来ではそういうことになっているのか。


「では、身体面だけでも優秀な親からは優秀な子が生まれる、ということを実験しませんか?」

「何でお前はそこまで追求したがるんだ。

……どんな実験だ?」

「難しいことではありません。運動能力が高くて背の高い男に、運動が出来て背の高い女を囲わせるだけです。逆に背の低い男には背の低い女を、ですね。

父上も、背が同じぐらいの夫婦をよくお似合いだ、と言ってますよね?」

「確かに、背が同じぐらいの夫婦にお似合いだとは言うな。

……無理やり嫁がせるわけではないなら、まあ、好きにやれ」


秀一は秀則に提案した実験が久しぶりに承認されたことに喜び、人間を使った実験を始めてしまう。と言っても、この時代は子供の結婚など親が決める時代だ。その時の条件に、子供の背が高ければ背の高い相手を選ぶ、という条件を加えるだけ。秀則もそれならば、と看過してしまった。


この実験は秀則が消えた後も行われ続けた。いつの間にか結婚は背の近い者同士が推奨され、身体能力が高い男と女は半強制的に結ばれる。そんな世界になった。




「その結果が、お前らか」

「秀一様はより強い馬を作ろうとした秀則様を真似て、より強い豊森家の人間を作りたかったのでは無いですか?」

「……ぶっちゃけ、あの時に許可を出したことはわりと後悔している」


豊森家の人間に背の高い人が多いのは、息子の秀一のせいだった。俺が馬の交配実験をしている姿を真似て、秀一は人間の交配実験をしていたことが秀一の伝記で書かれていたと、愛華さんに教えて貰った。おそらく身体能力の高い豊森家の人間に、運動神経抜群な背の高い女を囲わせたりしていたのだろう。


「人間を使って実験とか、今考えると何で許可を出したんだろうな……」

「で、ですが秀一様のお陰で豊森家は屈強な人間が増え、豊森家の平均身長も上がりました」

「そういう問題じゃないんだけど……もう行われたことに色々言っても仕方ないか」


人間と他種との交配実験は行われて無かったので、秀一は本当にただ背の高い人同士の結婚を推奨していただけなのだろう。それが止められず、今の凛香さんや愛華さんに繋がる、と。ちなみに愛華さんから見て三親等以内に身長が180センチを下回っている人はいないみたいだ。人間って極めれば高身長だらけになるのか?


……優秀な親からは優秀な子が生まれやすい、とはまだ認めないけど、背が高い親の子は背が高くなりやすい、ということは認めざるを得ない、か。

次回から2章に入ります。

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[一言] 科学の発展に犠牲(悲恋)はつきものデース
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