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第141話 公務員

11月の下旬に入り、ロシアとの貿易を行うための会社の設立は順調に進んでいた。国有企業から人員を異動させる時に行政に関わる公務員と国有企業の従業員に区分けして雇用枠の見直しも行わせたが、あまり効果は無かったみたいだ。


「そう言えば、不況時に公務員を減らすという考え方を彩花さんはどう思う?」

「不況時というのは、デフレスパイラルが起こり民間企業が立ち行かない状況ですよね?

……あり得ないです。その国の公務員の規模にもよりますが、第一感ではあり得ない、と思いました」


改変前の日本では、安定した職業である公務員を目の敵にして批判している人達が存在する。特に不況時にはそういう人が増える印象だ。実際に、公務員の削減を目標に掲げる政治家もいる。しかし彩花さんに公務員の削減について聞いてみたら、あり得ないと一蹴された。


……あまり不況という状況に陥ったことが無い今の日本に住む彩花さんだけど、デフレスパイラルやハイパーインフレについてはノートに詳しく書いていたからか知識として知っているみたいだ。両方とも、図にしたら凄く分かり易い現象だし、豊森家の人間なら知っていて当たり前なのだろう。


「不況時ということは、社会不安が増大しているような状況でしょう。そんな状況で大量の失業者を生めば、更なる社会不安を呼び寄せます。本当に公務員の規模にもよりますが……大きければ大きいほど、革命が起きやすくなると考えます」

「そういう考え方もあるのか。……ああそうか、なるほど。無闇に公務員の削減をするのも良く無いってことだな」

「はい。仕事が無くて人員の無駄が発生しているなら、切り捨てる方向に持っていくよりも仕事の創生を行った方が健全的でしょう。そもそも、国は受け皿になるべきです」


彩花さんの言い分は、都市に住む公務員を失業者にしてしまえば社会不安が増えるというもの。たぶん、これは豊森家共通の認識なのだろう。どんなに赤字を垂れ流す国営企業でも、人件費の削減は行わなかった。国が受け皿になっているということもあるのだろうが、そこを削ってしまえば、国民の不満度が溜まると予想しているのだろう。


「もしも公務員の削減を考え無しで言っている人が多い国、というのが存在したとすれば、どう思う?」

「そのような国は存在しないと思いますが、もしも存在した場合は……」


彩花さんに今の日本では考えられない仮定の話をすると、真面目に考えて答えてくれた。……改変前の日本で最終的に革命が起きるとは思えないが、よっぽどな状況まで国民の生活が追い込まれたらそうなるのかな?いや、どんなに追い詰められても革命を起こすという状況が想像出来ないから、革命には至らないような気もするな。


公務員も人間だし、同じ国民だ。削減自体は簡単なことかもしれないが、削減をした後のことまで考えないと国に反感を持つ失業者にジョブチェンジをする。そういうことは頭に入れておかないといけないのか。本当に今の日本は絶妙なバランスの元、安定していることが確認できた。


少しでも赤字の軽減を試みようと雇用枠を見直したのは、良く無かったな。まず、考え方の根本が違うからそこを意識して指示を出さないといけないのに、どうしても赤字垂れ流しが気になって、人件費が無駄に思えてしまったから指示を出してしまった。結果的にはただ呼び方を変えるだけで無傷だったが、反省するべきだろう。


ある種の弱者救済は行っているからこそ、これ以上の弱者救済政策に社会的リソースを割くことが出来ないという判断もすることは出来る。


本当に、無駄な仕事をしている人は多い感じだけど、仕事が無いなら人員は要らないという考え方も危険だということだ。だからこの日本では公務員が無駄に多いと主張する人間はいない。税金で食っているのに仕事をしないとは何様のつもりだと怒る人もいない。そもそも、豊森家の売り上げから賃金が出ている部分もあるから税金だけで食べている状況ではないし。


そんな世の中で、株式会社のモデルケースとなった貿易会社の運営に関わるのだから慎重に行きたい。お手本となれるように、色々と異動してきた人達とも話し合いをする。その結果、貿易会社の株主優待として半年に1回の頻度で高級なウイスキーの割引券を渡すことになった。株主優待って経営側から見ると調整が難しいな。


出来ればボトル一本送りつけたい気もするが、単価の高いお酒でそんなことをすれば破産まっしぐらだ。株主優待は、無い企業もあった気がする。モデルケースだから、せめて健全な経営を行いたいからと色々と悩んだ結果、とりあえず割引券で良いかということで全会一致となった。


……おまけでこれだけ悩むんだから、配当金の割合とか相当悩みそうだな。株主優待は一定以上の株を保有する全員に渡すから一律で、配当金は1株○○円となるから株の保有数に比例する。確か、こんな感じで良かったはず。


「利益の試算結果では毎年安定して事業の拡大が出来るはずですが……実際に取引を行った際、問題が多ければ純利益は相当少なくなりますね」

「だからと言って、初めから高額で売り出しても継続して売れないから様子を見るしかない」


愛華さんから試算結果を見せられるが、経営は最初から黒字かどうかは微妙なところという状況。そんな濡れ手で粟を掴むような話では元々無いので、稼働してからどうなるかという話になる。


上手くいけば、年末から取引は始まるだろう。酒屋や商店に並ぶのは年明けからだな。新年の祝いという名目で、大々的に売り出せば初年度の黒字は確保されている。それが継続するかは疑問だけど、輸送コストを抑えるには……ここも、人件費が関わって来るか。

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