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第135話 北米の主権

北アメリカ大陸は昔、大英帝国とフランス共和国、スペイン帝国、大日本帝国という4つの国が争い合った魔境だった。どの国も大陸の主権を狙っていたし、軍事力はいずれも高かった。そして1番最初にこの戦争から抜けたのは日本で、1750年頃にアラスカの山岳地帯を生かして防御陣地を構築。対面にいたイギリスが手を出せなくなったのを確認して日本は派遣する軍規模を縮小していった。


ここからは確証があるわけではないが、フランス人達から教えられた情報から基づいて歴史の流れを追うと、1800年初頭にスペイン領からメキシコが独立した。その後、改変前の世界では有名な米墨戦争っぽい戦争がフランスとメキシコの間で起き、砂漠地帯を取り合ったらしい。その砂漠地帯には石油があるはずだから、不毛の大地を取り合ったわけではない。


フランスはイギリスとも対立していたので、南北に戦線を抱えることになったのだろう。フランスは延々とイギリス軍とメキシコ軍を相手に戦争を続け、一時は劣勢だったが、共産化してフランス・コミューンとなった。


共産主義を掲げるフラコミュとなった後はアフリカの植民地を全て放棄し、アメリカ大陸の主権を握るために全兵力を北米へ集中させた。その結果、イギリスとメキシコの侵攻を食い止めて逆に押し返し始めたとのこと。現在、メキシコとフラコミュの戦争は停戦状態で北アメリカ大陸の主権はイギリスとフラコミュの一騎打ちという状態になった訳だな。それが、フラコミュの勝利で終わりそうだと。


「……フラコミュと事を構えるなら、攻勢計画も必要だと思ったけど、現行の戦闘計画ってアラスカ方面からの攻撃が主攻になってるよね?これを変えたい」

「どのように、変更するのでしょうか?」

「ハワイからの強襲上陸をサンフランシスコやロサンゼルス、サンディエゴとかのアメリカ南西部へ行いたい。そのための計画を立てて欲しい」

「……ハワイからアメリカの西海岸まで、3000キロはあることを承知の上でしょうか?」

「ハワイから4000キロぐらい離れていることは知ってるよ。日本からハワイまで6000キロはあることも知ってる。本当に、日本からアメリカまでは遠いな」


今回、参謀本部を訪れた理由はアメリカへの上陸作戦を真剣に考えて貰いたかったからだ。……いや、別に手紙で指示を出しても良かったけど、理由もなく参謀本部の見学はしたくなかった。一応、遥か昔に立てられた計画は存在しているけど、現実的な敵の防衛戦力すらまともに考えてないような進軍予定表だったから作り直しだな。


……フラコミュのアメリカ西海岸で、すぐに戦力化が出来る現実的なフラコミュの戦力の数字は20個師団前後だと常久さんが推定してくれた。そして向こうの方が砲も銃も性能が上だとすると、奇襲の効果を加えても60個師団は用意しないと突破は難しいらしい。同時に60個師団で強襲上陸しようとするなら船舶の確保が困難とのこと。そりゃ、60万人を一斉に輸送することは難しいだろう。


上陸戦専用の船舶の概念を日本は元々持ち合わせていたが、長距離輸送に何度も耐えられるか微妙な船、という存在が多すぎる。速力は普通の蒸気船なので、フラコミュ相手に戦争状態になれば捕捉されそうだ。


「内燃機関を導入した船を、全て作戦に投入するぐらいの覚悟をしないと難しいのか」

「……失敗すれば、間違いなく痛手となるでしょう。60万人以上の兵士と装備が海に沈むのですから」

「あれ?アラスカ方面にも軍を置くとして、初動だけでも200万人以上の人を動員するのか?」

「秀則様、落ち着いて下さい。アラスカには10個師団でも50個師団以上の攻撃を食い止める防御陣地が存在します。秀則様の言う要塞化も、防衛計画を作製しながら行いました」


アラスカに作られた要塞や、現状保有する船舶の数を考慮しながら、アメリカ攻勢計画の概要を大雑把にでも作り始める。大雑把でも概観を作らないと、議論の停滞を招くのである程度の雑さは目を瞑る。鉄道網がどれほどのものなのかも分からないから、フラコミュが正直に言うと怖い。フランス語を話せる日本人はいるけど、フラコミュに潜入することは出来ないから情報が集まらない。


……亡命して来たフランス人達は、既に日本の現状を詳しく知ってしまっている。日本への忠誠心もそこまで高くないような人間にスパイ活動は難しいし、フラコミュがどんな共産主義か分からない以上、無策で突っ込ませることなんて出来ない。


本当に、フラコミュ人がどんな生活をしているのかは気になるな。フランス人から大まかな社会体制は聞いているけど、一度民主化した後で共産化している時点で異質だ。日本を参考にしていたとしても、長年に渡って安定した社会を構築している時点で成功していると言っても良いしな。




常久さんと戦略の話をしている最中に、1人の女性が部屋に入って来た。愛華さんの知り合いとのことなので、愛華さんと同期の人なのかな。階級は少佐だから、愛華さんと同じ21歳だとすれば出世頭だろう。


その女性によると、数日前にイギリス人の難民が16万人ほどアラスカに押し寄せて来て戦闘が発生したらしい。本国からの指令を仰ぐとか言っているけど、指示を受ける前に戦闘をしている時点で領主は排他的な性格だな。現状は荷物を丸裸にして財産を没収して、食糧を与えている状況だとか。フランス軍も接触してきているので一触即発の事態である。


……もう少し時間があれば、電報を使うことで素早い情報のやり取りが出来たのにな。

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