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第131話 貿易

10月3日、前日まで延長して行われた予算会議のせいで疲れ切ってしまった仁美さんには頼りたくないので、彩花さんと美雪さんを頼ってロシアとの貿易を行う会社の設立を目指す。試験的に株式の導入もモデルケースとして行ってみたけど、豊森家の人間が出資の99%を占めているのでほとんど国有企業と変わらない。雇う従業員に関しては国有企業から異動となるだろうし、国有企業との違いは豊森家への配分があるかないかだけだな。


「株式の導入は、俺に知識が無さ過ぎたな。というか何で今も1株あたりの価格が上がり続けているの?」

「秀則様が資金を集め始めたからでしょう。採算を度外視してまで株を買いたいという人が列を為しています」

「……美雪さんがトップだった方がマシだったのか?それでも同じような感じだったとは思うけど」


株式についての知識が少ないのに株式会社を設立したためか、予想以上に株価が上がり続けるという知識が無くてもヤバいとわかる事態に突入した。一応、豊森家の人間から豊森家の人間に株が移っているだけだから、今はまだ何とかなりそうだけど、不味い状況であることには変わりない。とりあえず急落する株の怖さというものは周知させたけど、関係無さそうだ。


「既にロシア帝国から認可を受けた会社とは話し合いが出来る状態なので、物々交換ですが取引は可能ですね」

「うん。とりあえず資本は集まったから、これで日本のお酒を買ってロシアのお酒と取引してみようか」


美雪さんがロシアとの交渉を継続していたお陰で、大量の物資を交換することは可能になっていた。ロシアでは金本位制で金兌換が認められているから、為替の取り決めに関してはまだ交渉段階だ。まあ、物々交換の方が後腐れも無いから良いだろう。ウイスキーは日本で人気が出るのか分からないけど、俺が飲んだと知れば全日本国民が一度は欲するだろうし、一定の需要は見込める。


……ウイスキーは飲んだことが無いから、一度は飲んでみたい。だけどお酒を飲むと記憶が飛ぶ可能性もあるので大量には飲みたくないというジレンマ。この前は障害を持って産まれた和秀の過去話を泣きながら延々と語った後に、そのまま仁美さんの寝室で眠ってしまったらしい。


1人用の手狭なベッドだったし、仁美さんはいい迷惑だったと思う。何度目かは分からないけど、お酒は飲まないでおこう、とその時は決心をした。自制心は低い方だから、禁欲は無理だけど。人間としての三大欲求は健康的な16歳の日本男子のままだから、色々と厄介だ。


「今の日本って、金本位制では無いよね?金とは交換出来る?」

「金の相場は変化することもあるので、絶対に交換できるとは言いませんが、食べ物は常に一定の価格で提供しています」

「……食糧本位制ってことか?いや、妥当ではあるけど」


今の日本は食糧本位制というか、豊森家本位制。豊森家が提供するサービスを受けるために必要なのがお金だから、お金を稼いでいる感じだ、家とか土地の値段も豊森家が決めるし、汽車や水道料金も豊森家が……豊森家による支配体制の盤石っぷりが凄いな。豊森家が牙を向けたら、たぶん相手は何も抵抗出来ない。


「その内、電気料金やガス料金も豊森家が請求するようになるのか。反政府勢力が出来ても、すぐに息の根が止まりそうだな」

「反政府勢力は、今の日本では存在することも出来ませんよ。ロシアの方では、かなり反政府勢力の勢いが強いようですが」

「それは前にも聞いたな。皇帝や貴族が贅沢な暮らしをしているのに、貧困層はその日の食事も困っている状況なら、仕方ないか?」

「はい。なので食糧と酒でも交易は可能かもしれません。食糧であれば安価なため、多くの利益を生みだせると思います」


一方でロシアの方では貧困層が反乱を起こすかもしれない。貧困層が多く、その日の食べ物も困っているそうだから、日本としては食糧を供給したいようだ。……中国と同じように、社会の形骸化が狙いかな?


「ああ、そうだ。これは聞きたかったことなのだけど……」

「何でしょう?」

「中国をあそこまで形骸化させた人って誰?」

「……常久参謀次長です」


美雪さんに中国という国を形骸化させた人物について聞いてみると、豊森常久(とよもりつねひさ)という名前の人を教えられた。中国に格安で食糧を輸出し続け、経済をぶち壊し、民主主義の欠点をとことんまで追及して国の形骸化を目論んだ人物だ。最初、日中戦争は中国側の暴走だと思っていたけど、よくよく資料を漁ると仕組まれた戦争だということは嫌でも分かる。


中国は、一応民主主義だった。対抗馬として共産党もいたから、反対票の受け皿は存在していた状況だ。しかし現実として、国民党が選挙で負けたことは無い。これは国民党が支援者にお金をばら撒き、政権の確保を行っていたからだ。もちろん、そのお金の出所は税金である。


……所詮、民主主義は多数派が勝つ1つの仕組みでしかない。反対派を排除していき、支持者には利権を約束すれば選挙に勝ててしまう。選挙で勝つことが目的となり、政府が戦果となる。そんな中国に、民主化してから日本は食糧を格安で提供し続けていたのだ。当然、経済は崩壊して地方の農民たちは生活に困窮することになる。


もちろん、中国側だって最初は対策を講じようとしていた。しかし働かなくても良いという状況は、徐々に中国政府を蝕んでいったのだろう。結局は思考停止して、日本の食糧を頼るようになった。


何十年もかけて、中国を形骸化させたのは素直に称賛するべきだ。それも、日本では余り始めた食糧を使い始めたのが大きい。日本の市場は健全化を行うことが出来た上に、中国は食糧の援助を止めたら国として死ぬようになる。共産党が地方で根回し活動が出来ていたのは、中央が地方に対して無関心だったからだと思うけど……中国に弱体化して欲しいのは日本だけじゃないから、色々と仕掛けられていたのかもしれない。


この食糧の輸出を、ロシアにも行いたかったのだろう。二匹目のドジョウがいるのかは分からないけど、損はしないからとりあえずやってみようという感覚だったのかな。流石にロシアとの関係を拗らせるのは、日本の立ち位置が苦しくなるだけだから止めさせたけど。ロシアを敵に回すとプロイセンもセットで敵に回るので、デメリットの方が大きくなってしまう。


……デメリットが少なければ、実行は視野に入れていた。とりあえず食糧を貰って、捨てる国は少ないと思うし。まあ、それで中国が崩壊したということはロシア側も知ってそうだから、そう上手くはいかないと思うけど。

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