第130話 改変前後
主人公の考察回です。
改変前の日本と改変後の日本を比較すると、間違いなく改変前の日本の方が技術は先行しているだろう。倫理観も、生活レベルも、改変前の日本の方が圧倒的だと言っても良い。今の日本には足りない物や技術が多すぎるからな。でもどちらが先に滅亡しそうかと問われれば、俺は改変前の日本の方が滅亡するのは早いだろう、と答えるつもりだ。
……改変前の日本は、間違いなく緩やかな滅亡期に入っていた。人口の30%近い人間が65歳以上という超高齢社会で人口が自然に減っていっているのだから、必然的に待っているのは国家の崩壊だ。あるいは、被支配層がパンクをするか。
そして超高齢社会という問題よりも厄介な問題となっている少子化をどうしても止めたいというなら、国が主導して強制的な結婚や子作りを行なわせる必要がある。もしくは、一夫多妻制の導入でも良いだろう。
……戦前、戦中の日本であれば、お見合い結婚が普通だった。親が強引に結婚を決めることも珍しくは無かった。お互いに、結婚するまで互いの顔さえよく知らない状態で結婚するのも普通にあることだったのだ。それでいて離婚率も低かったのだから、ある意味強制的な結婚とも言えるだろう。
お金持ちが何人も妾を囲って子供を産ませるのが当然の世の中になれば、お見合い強制結婚がまた一般的な世の中になれば、少子化には歯止めがかかる。独身に課せられる税金が高くても、結婚しない人が増えて続けていたのだ。おそらくこれぐらいはしないと、出生率が2を超えることはない。
しかし、そんな政策は実施されない。改変前の日本では人権という言葉が重くなり過ぎた。いや、人権を武器にする人間が多くなり過ぎたのかもしれない。だから少子化問題の対策をせず、労働人口を移民に頼った。子供が増えないのだから、労働人口を外からの輸入に頼るしか無かったのだろう。
俺がタイムスリップした2020年の時点ではまだ外国人労働者の人権の軽視は問題視されていない。一部メディアは取り上げていたが、実際に解決するのはおそらく当分先だ。だけど移民の数が増えればデモ活動が活発になる可能性もある。その内、移民の人権も重要視されるだろう。
世界的に、人権の軽視が許されない世の中に変わったのだ。だから独裁者は討ち滅ぼされる対象だし、管理社会なんて空想の産物では常に悪の象徴になっていた。例え管理社会を肯定しているような作品でも、最後には主人公の改心や改革によって打倒されていた。何故なら、空想の管理社会なんて機械的な人間しかいないイメージだからだ。
そして今、俺は例え管理社会でも自由さを保てば持続可能な社会を作り出せるのではないかと考えている。個人的に中国という国には良い印象が無かったけど、目標は中国に近いものかもしれない。改変前の世界で、中国は一人っ子政策のせいで日本以上の衰退が見込まれるが、子供の数までコントロール出来る日本ならば持続可能な管理社会の構築が可能だろう。
……結局改変前の世界で、日本と中国はいつ限界を迎えたのだろうか?AIの発達やロボットの進化で労働力問題が解決するなら何とかなるのかもしれないが、解決しないのであればいつかフリーズする可能性は低く無かったと考えている。それを避けることが出来るのであれば、それだけで管理社会を続ける意味はあるのかもしれない。コンピューターも無いのに管理社会を実現しているのだから、管理能力は高いだろうし。
まあ、社会体制は鶴の一声が効く状態であればいつでも変更することが可能な状況だ。結論を急ぐ必要は無いから、世論を意識しながら慎重に考え抜こう。既に飛行機開発とか無線通信技術とか、俺の手に負えない分野の技術開発が進んでいる。概念はかなりの量を渡したし、文系脳な俺1人の研究力なんて高が知れている。
もしも今の俺が今の日本に何か尽せるものがあるとすれば、それは無駄にある社会体制に関する知識と、世界の国々の「失敗」に関する知識だけだ。だからこれだけは、ゆっくりでも良いから継続して考え続ける必要がある。
今の寛容さや競争がある管理社会も、そう悪い物ではない。民主主義は、今まで行われてきた政治の中で最も優れていただけであって、最良ではない。この意識は常に持っておく。10月に入り、この世界に来てから既に半年が経過した。何が今の日本に必要で、何が余計なことなのかも意識はしておくべきだ。
今後の目標は、豊森家の重鎮達に話していた通り世界の統一になる。中国を丸ごと食べることが出来そうなのは、何よりも大きい。将来的な火種が1つ消えただけでは無く、中国の恵まれた大地をそのまま活用することが出来る。人口もまだまだ伸びるから、日本人が10億人に到達するのも可能だろう。
……人口を気軽に増やす指示が出せるのは、統治者として恵まれているのだと思う。改変前の日本とか、増えないどころか減っていたからな。というか今の日本では子作りが許可制という意味不明な状態だから、豊森家から許可が出ればとりあえず産むという価値観であり倫理観だ。女性の生涯未婚率が1%を余裕で切っているとか、ある意味違和感が凄い。
まあ、基本的に許可は簡単に出るから問題が起きていないのだろう。人権の尊重を始めてしまうと、管理社会としての利点は大きく損なうことになる。人権の尊重は、民主主義は、個人の自由へと繋がる。自由にさせた結果が問題点も多かった改変前の日本だとすれば、どうするにしてもある程度の規律と制度は作らせるべきだ。
この辺は、もう少し早く気づくべきだったのかもしれない。