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第127話 模倣

京都に帰ってから1週間が経過した頃、ようやく安香さんから連絡を受けることが出来たので研究所の方へお邪魔する。わざわざ研究所まで行く目的は、稀代の天才とも稀有な変人とも言われている田中さんに会うためだ。ガソリンエンジンの構造を一発で理解し、試作品を作り、最近では建物を爆破炎上させた罪でつい先日まで拘留されていた。


流石に故意じゃ無かったから、懲役刑は免れたとのこと。しかし罰金は10万円ほど払っている。一応減刑はされたようなので、本来はもう少し高い罰金刑だったのだろう。故意じゃないのに器物破損で罪に問われるのはちょっとどうかとも思うけど、故意じゃ無かったら国宝でも壊して良いのかと問われれば俺に正解はわからない。


……そもそも、重傷を負った2人の研究員が触ってはいけないと言われていた場所を押し込んだとのことなので、実際田中さんは悪くない。まあ、それでも責任能力は問われるようだけど。随分と、上の立場の人間は管理する人間に対して気を遣わないといけないようだ。


研究所に着いたら、安香さんが出迎えてくれたので所長のいる場所まで案内して貰う。研究所の中は、中央の大部屋にハンググライダーの残骸やガソリンエンジンが無造作に置かれており、元倉庫だということが納得できるぐらい広々としていた。中で働いているのは十数名ほどで、こちらを見るなり敬礼している。


研究所の見学というか視察を行う人間は、基本的に立場が高い人間だということが分かっているのだろう。元軍人も多い感じなので、雰囲気は軍に似ている。今知ったことだけど、ハンググライダーのフレームはヤスリでも加工しているみたいだ。旋盤とかも置いてあるけど、こいつら研究員兼製造者かよ。


「あの旋盤、どうやって回してるの?」

「今までは、蒸気機関で動かしていました。近くの研究所で、電気でも動く旋盤を開発中とのことでしたが?」

「うん、電気で動く旋盤は造らせているし、そろそろ完成しそうな雰囲気だよ。

……それにしても、蒸気で回していたのか。まあ、手回しよりかマシだよな」


安香さんに旋盤について聞いてみると、蒸気で動かしているとのこと。結構な速度で回っているから少し怖い。加藤さん達が使っているハンググライダーも、ここで製造されているのだからここの従業員の凄さはわかる。


しばらく奥に進むと、従業員の部屋がずらっと並んでおり、奥には所長の個室があった。製図している時は梃子でも動かないそうだけど、俺が来ると知った瞬間に正気に戻って着替えを始めたらしい。服のセンスは皆無で普段白衣しか着ていない人だから、身だしなみは大目に見て欲しいとのこと。言われなくても身だしなみで怒ったことは記憶に無い。


「はじめまして。田中聡です。ずっと直接会って、お話をしてみたいと思ってました!」


田中さんは、雰囲気としては大学生に近かった。24歳で大学生のような雰囲気は……特に問題無いかな。実質66歳なのに16歳の風貌のままという人もいるし。安香さんと同じぐらいの背丈だから、身長は175センチ前後。若干痩せているけど、顔が理系ですと物語っているような顔だったのでわりとイメージ通りな人だ。今はスーツのような服を着ているけど、白衣の方が似合っているだろう。


田中さんと少し話していると、俺が過去に行っていた規格化や標準化についてやたらと持ち上げて来るので、そういう方面で尊敬しているという気持ちが伝わって来た。戦国時代の時に広めた規格化や標準化の概念は完全に改変前の日本を真似して実行したことだから、表現し難い罪悪感が募っていく。今の日本の工業力で大量生産を可能にしているのは間違いなく標準化のお陰だから、俺がしでかしたことの影響力は大きい。


「ここに来た目的は、田中さんに聞きたいことがあったからだけど……飛行機が完成するまでの概算ってどうやって出したの?」

「ガソリンエンジンは既に試作品が完成していますが、まだ飛行機を飛ばすための出力には全然足りていません。今までのエンジン開発の積み重ねとフランス人から頂いた概念から、形にはなった状態ですが、形にしか出来ていない状態です。おそらく、後半年はエンジン開発に全力を注いでようやく人が乗る台車が動く程度の出力でしょう。飛行機が飛べるような出力にするには、1年以上かかるという予想です」


田中さんに現在のエンジン開発の状況について教えて貰ったけど、やっぱり模倣するのも難しかったようで、回ることは回るけど出力が足りない、という状態だった。田中さんの研究所では現在、部品から見直して、何とかしてエンジンが乗った台車だけでも動かせるようにしたいそうだ。飛行機よりも先に、自動車が開発されそうだな。


ちなみに、空を飛べる乗り物ということで気球に関しては既にフランス人達が成功させた。なので、空を飛ぶだけなら気球で可能だ。初めての空の旅は、気球を作り上げたオーレリーさんの甥が乗って、30分間で数キロ先まで移動している。まだ指向性は持たせられないようだけど、飛行機が開発されるまでは戦場にも駆り出されそうだ。


1ヵ月で気球を作ってしまうあたり、日本人とフランス人の知識の差を感じる。技術を教えて貰って模倣している段階だけど、今はまだ日本に専門知識を持つ人が少ないので模倣にも苦労している状況だ。これを解決するためには、専門知識を学べる教育機関も設立していかないといけないと思う。


……専門知識を持つ人が増えて、知識を蓄えた人が多くなれば、日本人の得意分野だと思っている改良、効率化の分野に移行できる。その時までは、教育に投資をし続けるしかない。教育は即効性が皆無な投資先だから、目に見えて変わって来るのは何時になるのかわからないけど。

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