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第124話 研究員

凛香さんの内弁慶な性格は時間が解決してくれそうなので、このままでも良いと結論付ける。道場の方へ戻ると、安香さんも胴着姿で運動をしていたので、改めて安香さんと挨拶を交わした。研究員とのことだったけど、愛華さんとも知り合いらしい。


「予算の要求は私を通すことになっていますが、直接言いに来る人は安香さんを含めて数人しかいませんね」

「やっぱり、手紙で請求する人の方が多いですよね……」

「近いのなら、直接会いに来てくれる方が愛華さんも判断しやすいし、良いと思うけど」


安香さんは幾つか点在しているハンググライダー研究所の副所長で、日々所長の補佐をしているようだ。俺が最優先で研究をさせている飛行機やガソリンエンジンの分野は、俺に任されたお金の中から研究開発費が出ているので、愛華さんがその管理をしている。


……本当は俺が対応したいけど、毎日のように予算の申請書が届くから親衛隊へ丸投げした。元々、親衛隊はそのために編成されたようなものだし、愛華さんは実務のスピードが早いので俺が対処するよりもずっと良い。愛華さんと俺を比較すると、まず文章を読むスピードからして違うし、俺の実務能力はお世辞にも優秀とは言い難い。


熱意のある人間になら可能な限りお金は出すように愛華さんには言ってあるから、基本的には申請されたらお金は出す状態だけど。この前に申請数と許可数を比較したらほとんど許可されている感じだったし。


「普段の業務はどんな感じなの?」

「所長が設計図を書くので、それを元にして研究所にいる人間で組み立てます。最近では所長がガソリンエンジンについて学ばれたので、模型を飛ばそうと必死ですね」

「お、もう飛行機の原型が出来そうなのか」

「いえ、まだ本格的なガソリンエンジンは完成していないので……所長の見立てでは飛行機が飛ぶまで後1年は必要とのことです」


飛行機開発はハンググライダーの開発から始まったけど、そろそろ飛行機の模型が飛びそうな雰囲気だ。模型と言ってもガソリンエンジンを小型化することはまだ出来ないだろうから、無人の使い捨て飛行機がその役割を果たしそう。湯水のようにお金が使われているけど、まだまだお金に余裕はあるから問題は無い。


「その所長も、豊森家の人間なの?」

「所長は豊森家の人間では無いですね。頭は良いのですが、変わった人です。集中すると、周りの声が聞こえなくなってしまいますので」

「……天才って、変わった人が多いよね」

「何でそこで秀則さんは私を見るんですか!?私は普通ですよ!?」

「普通の人は、手を抜いて普通に見せかけるようなことはしないでしょ」


豊森家の安香さんが副所長だったから、所長はどんな人だろうと思って聞いてみたら豊森家の人間じゃ無かった。それでいて変人という評価を安香さんがしているということは、頭の方はかなり良いのだろう。


彩花さんの方を見て天才は変わった人が多いな、とか思っていたら文句を言われた。最近は彩花さんとの距離が近くなったお陰か、大きな声で突っ込みを入れてくれるようになったので嬉しい。膨れっ面が可愛いけど、彩花さんのことだからどんな膨れっ面が可愛いかの研究ぐらいはしてそうだな。


「女性の膨れっ面は男性の気を引くために行なわれることなので、結構な数の女性が研究していると思いますよ」

「えっ、そういうものなの?」

「そういうものですね。私も所長の気を引くために色々と試していますし、練習する人は多いと思います」


そんなことを考えていたら彩花さんから衝撃の事実を告げられた。文字通り頬を限界まで膨らませているわけでは無いが、不貞腐れたり、すねたりする表情を可愛いと思っていたら、男性の気を引くために練習する人は多いと安香さんに言われる。あれ、でもそれを俺にしてくるということは……。


……彩花さんのことは一先ず置いといて、安香さんの上司である所長について詳しく知りたくなったので質問していく。


「その所長って、もしかして複葉の概念に辿り着いた人?」

「ふくよう、ですか?」

「あ、翼が複数ある飛行機は、複葉機という……翼を葉に例えて、翼が複数ある場合は複葉って言い方をするから、覚えておいて」

「承知しました。先程の質問ですが、複葉の概念に辿り着いたのはうちの所長で間違いは無いです」


すると、ずっと会おうと考えていた複葉の概念に辿り着いた人物が安香さんの働く研究所の所長だと判明したので、会う約束をしておく。会おうとは思っていたけど、なかなか実行にまで移せなかったから安香さんと出会えたのは良かったな。


「ハンググライダーは、複葉の方が安定するの?」

「風が強すぎなければ、複葉の方が安定はします。しかし翼が多すぎると自重で墜落してしまうので、調整はなかなか難しいですね」

「なるほどね。今度、安香さんの研究所にお邪魔する時に見せて貰おう」


安香さんの所属している研究チームが、飛行機開発で現状1番進んでいると思っても良さそうだ。研究に関しては全分野で無理やり競争させようとしているので、飛行機分野においても研究者はわりと必死になって取り組んでくれている。研究所の方へ行くことを安家さんに伝えると、所長が問題行動を起こしても大目に見てやってくれと懇願されたので、よっぽどな人なのだろう。


その所長の名前は田中(たなか) (さとし)さん。名前からして賢そう。彩花さんとどちらが頭脳面で上なのかは気になるな。頭の良さの比較は専門性が違うと結構難しいけど、賢人(天然)vs賢人(養殖)の戦いは面白そうだ。

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