第122話 緩やかな変化
一年ごとの「学年」ではなく、もっと短い期間を一学年相当にすることは、改変前の日本に偏執したままの俺なら考えられなかったことだろう。……俺が成長したのか、単に改変前の日本への憧れが薄くなったのかわからないけど、悪い事じゃない。そう思っておこう。
そしてこのままだと卒業のタイミングがズレるので、高校と大学を単位制にして入学時期を同じように3つに分け、学年による区分を無くした。この改革で、生まれた月による不平等を抑えるつもりだ。
……今まで中学以降がズレてなかったのは、1月から3月生まれに対して早生まれ専用のカリキュラムがあったからだろう。卒業タイミングを一致させるため、無茶をしない範囲で指導内容を早めていたが、それでも不公平感は残っていた。
「問題は、学年という言葉を使えなくなることだな。4ヵ月ごとの区分だと1年生、2年生じゃ無くなってしまう」
「クラス、で良いのでは無いですか?」
「……うーん。しっくりと来ないから、呼び名だけは後でじっくりと考えてみるよ」
学年に相当する呼び方に関しては愛華さんが1クラス、2クラスで良いのでは無いかと提案して来たけど、ピンと来なかったので後回しにしようとして、思い付く。
「1回生、2回生で良いかな?小学校で、18回生まであると考えると、俺は違和感が残るけどね」
「かいせい、ですか?」
「かいは回転の回を使うよ。年を使うよりかは良いだろうし、18回生と18クラスなら前者の方が個人的には良いと思う」
改変前の日本の大学で使うという「回生」を提案してみた。これなら俺以外は違和感なく使えるだろうし、都合が良い。何処から回が来たのか、俺には分からないが。
「後は、1号生、2号生とか?年を使わなければ良いだけなんだけど、候補が微妙だな」
「1号生、2号生……響きは良いですね。年生以外の呼び方は、後からでも決められると思うので、すぐに決める必要は無いと思います」
愛華さんに「年生」以外の候補を押し付けて、一先ずは案を纏める。元々、5年制の小学校を6年制にしていた途中だ。それを18分割するのは、問題無く出来るだろう。教員の確保が課題になるかもしれないけど、小学校の統合が上手く行けば大丈夫かな?小学校の数自体は無駄に多かった気もするし。
「あ、教員の数だけは減らさないでね。減らすのは簡単なんだけど、簡単には増えない……今の日本だと簡単に増えるのか?」
「他の職業よりかは簡単に増えると思います。教員学校も設立する予定で進めていますし、質の良い教員を減らすつもりは無いので、心配は要りません」
愛華さんと会話をしながら、凛香さんが通っていたという小学校へ突入する。夏休み期間中で、子供の気配はほとんど無い。校庭で遊んでいるかと思ってたけど、わざわざ許可のいる校庭より公園や広い家に住んでいる子供の家に集まって遊ぶことの方が多い模様。
「校庭の使用に、許可が要るの?」
「必要です。そこまで広く無いので、遊べる人数は限られていますし、私も友人の家に行くことが多かったです」
「……これは、生徒数によりますね。私の所も許可は必要でしたが、先生があらかじめ使用の許可を出してくれていたので自由に使えました」
愛華さんが通っていた小学校は生徒数が多かったために、許可の申請が通り辛い環境だったようだ。逆に彩花さんの方が生徒数が少なく、自由な部分も多かったとのこと。教育に関する決まり事は統一されているけど、中の人間の意思までは統一されていない部分もあるということだな。
小学校の校舎の中に入ると、木造なのにしっかりとしてしている。まあ、平屋だし安定していない方が問題あると思うけど、流石に生徒数の多い学校は平屋じゃ無くても良いと思う。……小学校で、2階建て以上の建築物を試してみるか?流石に今のままだと、生徒が入れ無さそうだし、何処かで高層建造物は試さないと土地が足りなくなってしまう。
「今まで、1学年で1組だったのか。多い場合だと100人を超えそうだな?」
「あまりに多い場合は他の小学校へ回していたので、つりあいはとれていました。今は子供の数も管理されているので、問題は起こっていません」
「これでいじめが発生したら教師の責任ってのは、少し辛そうだ。基本的に、教師は1人だよね?」
「いえ、専門分野ごとに分かれています」
「……あれ?」
愛華さんに、1学年で100人は超えないように調整されており、学級担任のような存在は複数人いることを教えてられた。思っていた以上に、今の日本は分担好きなのかもしれない。複数人で物事に取り組んでいることが、多い気がする。
「それじゃあ、教師間で1年生の時から生徒達を分割して面倒を見ているってこと?生徒の評価は教師が変わっても一律なの?」
「評価は試験の点数で出るので一律です。生徒達の指導を教師間で分担している、という状態ですね」
愛華さんと話していると、今の日本の教育の現場が色々と分かって来た。もう少し色々と実態を把握してから、教育制度は口出しするべきだったのかもしれないけど、この教育方法で育っているのが今の日本人なので大きな問題点は無いのだろう。
……細かい問題は多そうだけど、表面化していないのは教師に優秀な人間が多いということかな。子供の意識も高そうに思える。11歳から、働きに出る人が多い社会だしな。あまり小学生ぐらいの子供と会っていないから判断し辛いけど、そんな気がする。