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第121話 年単位

8月22日の朝になり、宿で凛香さんのお義母さんが作ってくれた豪華な朝飯を食べつつ、凛香さんが傍に居ないことに一抹の寂しさを覚える。凛香さんが居ない間は料理の最終チェックを怜可さんが行っているけど、この人は社長令嬢なのに何で毒見役をしてるんだ。


「怜可さんは、製薬会社の社長の娘だよね?兄弟はいるの?」

「7人います。弟が4人、妹が3人です」

「長女かよ」


元々、凛香さんに食べられる前には鈴香さんか怜可さんが毒見をしていたようだ。毒見というか、完全に味見だけどな。まず俺が毒じゃ死なないと思うから、毒見の意味は基本的に無い。……毒殺はされてなかったと思いたいけど、実際に毒を盛られていたのかは判別が付かないからわからないな。


道場の方へと向かうと、胴着姿の凛香さんが同じ身長ぐらいの男達に囲まれていた。この時点でもう男達の方が心配になったけど、鍛錬だから心配しなくても良いと凛香さんのお父さんに言われた。一応、凛香さんもこういう状況では手加減が出来るようだ。


まるで映画のワンシーンのように、男達をぶん投げ続ける凛香さん。そして最後、凛香さんに少し似ている体格の良い男と向き合った。


「……凛香さんの弟ですか?」

「ああ。息子達の中では、持って生まれた才能は1番だろうなぁ」


この道場が掲げる無手勝流では、素手での戦闘で勝つ術を身に付け、鍛え上げた肉体を格闘技に活かすことが目的らしい。戦闘民族過ぎて怖い。凛香さんの弟も、本気で凛香さんの顔を目掛けて右ストレートを放つ。


しかしそのパンチは手で受け止め、弟に向かってローキックを行う凛香さん。その蹴りは弟のふくらはぎ付近に命中し、弟の身体は一回転する。……蹴りで人って浮くんだなぁ。


普段は護衛業で、身体が鈍っているから少し鍛え直したいそうだけど、今の凛香さんに鍛え直す必要性が見当たらない。まあ、色々と枷の外れた普段の凛香さんというのが見たかったから、凛香さんの無双を見続けるのも良いけど。


「……それにしても、声が凄いな」

「声というのは相手を威圧する最も簡単な手段です。お腹の奥から声を出して、相手を威嚇しているのでしょう」

「うん。たぶんあの勢いのまま、目の前で叫ばれていたら俺も怯むな。流石に怖い」

「そのようなことをする輩がいれば、叫ぶ前に凛香さんが相手の口を抑え込むと思いますよ」


愛華さんが奇声の解説をしてくれたが、確かに声は格闘技でも重要な要素だろう。剣道部とか、いつも奇声をあげているイメージだ。凛香さんも、意外と大きな声を出していた。大声なのに綺麗な声だと思ったから、普段からちゃんと声を出していれば、心証は180度変わるだろうに。


「骨を折ったりする人はいないの?」

「1年に2、3人は折れるぞ。だが、受け身さえ取れていれば死ぬことは無いから大丈夫だ」

「……凛香さんが折れたことは?」

「一度も無い。だからあの子は特別なんだ」


この界隈だけはもう長居したく無くなって来たが、幼い頃からこんな環境にいる怪物が大きくなったら凛香さんのようになるのだろう。幼い子も隅の方でかなり大きなグローブみたいなものを付けて殴り合っている。あれも、無手の中に入るのだろうか?いや、幼い子が素手で殴り合う危険性はわかるけど、そもそも道場の存在自体が危険だと思う。


あまりにも凛香さんの実家の道場が殺伐としていたので、昼頃には抜け出して近隣の探索を行うことにした。凛香さんの実家の道場を初めて見たという親衛隊の面子のほとんどはどん引きだったので、あれがまともでは無いことに安堵した。むしろあれがまともなら、日本軍300人で10万人以上のペルシア軍を返り討ちに出来そうだ。ペルシアに銃が無かったらの話だけど。


「小学校が、2つあるな」

「生まれた月が4月から6月までの学校と、7月から9月までの学校ですね。来年度には統合されていると思います」

「凛香さんは確か9月生まれだから、こっちの小学校だな。……1年ごとに管理するのは、本当に良い制度なのだろうか?」

「どういう意味です?」


近隣の探索を行っていたら、凛香さんが通っていたと思われる小学校を発見した。愛華さんによると、隣には違う誕生月用の学校があり、来年には統合される予定だ。俺が出した指示だし、改変前の日本に合わせようとした事象の1つだ。


しかし、これには少し違和感がある。改変前の日本でも4月生まれと3月生まれの差の問題は見て見ぬ振りをされて来た。その違和感をそのまま声に出すと、彩花さんが突っ込んで聞いて来たので口を開く。


「学年で管理すること自体が良くない気がして来たんだ。3ヵ月ごとの区分の方が差異は少ないことを考えれば、学年、というかクラスを増やせば良いんじゃないか?」

「学年を、増やす?……なるほど。そういうことですか」


彩花さんは今のあやふやな言葉で納得してくれたが、正確に言うと3ヵ月の期間で1学年ということにすれば良いのではないか、ということだ。……何でこれ、今の日本で行われていないのだろうか?たぶん俺の発言が何処かで仇になっていたのだと思うけど。


「これだと、3ヵ月という区分が面倒か。6年が24クラスよりかは……4カ月ごとに区分してこれから行われる義務教育の期間を6年から18クラスにしてしまえば良いのか?」

「……確かに良さそうですね。校舎の統合自体は推し進めた状態で、教育内容を4ヵ月ごとに区分けしましょう。秀則様の言っていることは4ヵ月ごとに進級、という意味でよろしいでしょうか?」

「そういうこと。……教育分野の方針転換は、今からでも来年度までには間に合うよね?」

「当然間に合います。来年の3月の予算会議までに計画を立てれば良いので、それまでは改変可能です」


愛華さんを通して仁美さんに連絡をして貰うけど、また仁美さんの仕事が増えそうで申し訳ない。あの豊森家の上層部を呼び出した会議の時に、思い付けば良かったな。

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