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第120話 妊婦

凛香さんの過去を詮索したくなったが、凛香さんには暗い過去があると何となく察しているので、躊躇いたい気持ちもある。一先ず、温泉には入ろうか。


「そういえば、伊勢は戦国時代にも温泉があったな」

「湯に浸かる文化を広めたのは、秀則様でしたね。蒸し風呂も好んでいたという記録がありますが」

「サウナは好きだったからな。というか、温泉を好んでいた戦国武将は多かったよ?」


戦国時代にも温泉を好んでいた人は多かったが、ほとんどは湯治が目的だった。大手を振って温泉に行ってきますとは、あまり言えない時代だ。湯に入っている間は裸になるわけだから、特に戦国大名は慎重になる。俺の場合は、死なないから気にせずに行っていたけど。


最低でも半年に1回は温泉へ行っていたから、それだけ命の危機があったということだ。というか襲われたことも何度かある。当時、温泉に行くことは凄く危険だったし、今でも警戒するのはわかる。まあ、愛華さんも彩花さんも裸だけど。


「はぁ、寝そう」

「寝たら駄目ですよ!?」

「大丈夫、溺死も経験済みだから。大丈夫だったから」

「私達が大丈夫じゃないです!」


三重にある温泉はぬるま湯が多いようで、この湯も38℃を超える程度だろう。いつもは背後にいる凛香さんがいないから、長湯をしていたら気が抜けて眠りそうになった。彩花さんに叩き起こされて目が覚めたが、もしも愛華さんと彩花さんが居なかったら、湯の中で寝ていただろう。寝ても大丈夫なことは実証されてしまっているから、起きていないと駄目という意識が薄いのだ。


「凛香さんって、会話を怖がっている気がするんだよね」

「……恐らくですが、怖がられていた経験があるのでしょう。人間の集団心理は、時に恐ろしい発想を生み出します」

「それ、昔に俺が言ってたことか」


凛香さんが居ないので凛香さんのこと話題にするが、愛華さんが人間の集団心理について語っていた。出典はたぶん俺の日記だ。いじめについて、尋問について、人間の集団心理が云々を書いていた記憶がある。


「……私は、凛香さんに行われたいじめをある程度推測することが出来ました。予想にはなりますが、凛香さんに指を向けて、悪口を言ったりクスクスと笑う遊びが流行ったのでしょう」

「どこから、分かったの?」

「凛香さんはあまり指を指される立場ではありませんが、指差しについて過度に意識が向いている印象を受けます。秀則さんは、指差しをして指示を出すことも多いでしょう?それと、凛香さんは耳が良いはずなので小声でも悪口を拾えると思います。それに過剰に反応した結果、いじめられたのだと」

「この会話も、凛香さんは聞こえてるってこと?」

「この距離で聞こえているとは思えませんが……そこまではわかりません。しかし、常軌を逸した身体能力を持つ凛香さんの聴力が常識の範囲内で収まっているとは思えません」


彩花さんが、凛香さんの過去について推測を語っていたけど、彩花さんの推測が外れたことはあまり無いのでほぼ真実だと捉えても良いだろう。というか、俺も凛香さんは常識を逸脱していると思うけど、彩花さんも色々と常識を超越している存在だから、彩花さんだけには言われたくないと思う。


そんなことを考えた瞬間に、若干不貞腐れる彩花さん。それを見て羨ましそうな雰囲気を醸し出した愛華さんは、すぐに気を取り直して彩花さんに温泉から出るよう伝える。


「……妊婦に長湯はご法度です」

「えっ、そうなの?」

「妊娠初期に長湯をする人としない人で比較すると、長湯をする方が障害持ちを産みやすくなります」

「それって、何倍になるとかもわかる?」

「確か、2倍以上ですね」


妊娠初期に長湯をすると、胎児に影響が出るようだ。他にも障害者を産まないために、愛華さんは色々なデータを教えてくれた。とりあえず、障害児が忌み嫌われているのがよく伝わってくる。だからこそ、最善を尽くすのだろう。


「彩花さん自身に計算させた所、今が妊娠7週目とのことなので、1番長湯の影響が出る時期です」

「……彩花さんが最近果物を食べるようになったのも、そのため?」

「そうですね。苺やほうれん草などを食べると母子ともに良い影響が出ます。子供のこともそうですが、彩花さんは出産後の身体のことも考えていると思います」


彩花さんが果物をよく食べるようになったのも、軽い運動をするようになったのも、全ては母子ともに健康でいられるための準備だということが分かった。というか果物や野菜をちゃんと摂取しないと、胎児の脳の形成が上手くいかないとのこと。……調べた方法に関しては、もう不問にしよう。貴重なデータであり、活用されやすい分野のことだ。


「それと、彩花さんが感情の吐露を抑えられなくなる可能性があるので、その時は刺激しない方が良いでしょう。妊娠中は、性格が変わることも多いです」

「それは知っているから大丈夫だよ。……本当に、よく知っているよ。論理的に考えられていた子が急に理不尽になったり、逆に元気のある子が大人しくなったり。そういう子は、大体が出産後に謝罪をしてるから、一時的なものだと思うけど」


妊娠中の女性は、時々人が変わったのかと思うぐらいに変化することがある。彩花さんは、まだその兆候が見え隠れしているだけだから問題無いけど、本格的にお腹が大きくなってくるとその人の本性が分かる気がする。一応、妊婦はホルモンバランスが崩れるとかそういう知識はあるが、それによって起こる性格の変化を抑える知識は無い。


「今まで気にならなかったことも気になるそうだから、そういう兆候が見受けられたら要注意だ」

「……流石に、秀則様は詳しいですね」

「伊達に子供が多かったわけじゃないからね」


愛華さんとぬるま湯に浸かりながら、今の妊婦についての常識や考え方を聞く。……彩花さんのお腹の中にいるのが男子か女子かわからないけど、男子か女子かで母体への影響は違うようだ。彩花さんが塩気のある食べ物を欲していたら、男の子が生まれるとでも思っておこうか。

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