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第113話 お墓参り

息子である秀一のお墓の前には長蛇の列が出来ていた。豊森家の人間が多いようだし、豊森家以外の人間も参拝をしているようだ。まるで神様扱いだな。俺の首から下は、本当の意味でご神体になっていたけど。何人の人間が跪いて礼拝していたのか、数えたくも無い。


「親衛隊の存在が、これほど頼もしく思えたのは久しぶりだよ」

「普段は全員が参加して、秀則さんのために空間を確保する必要もありませんからね」


人の数も凄いが、俺の移動に合わせて空間を確保する親衛隊の隊員達も凄い。親衛隊が壁になってくれているお陰で俺のことは認知されていないようだ。もしも親衛隊が存在して無かったら、行く先々で大騒動が起きていたのかもしれない。そうこうしている内に秀一の墓石の前まで移動できたので、生前に好きだったお酒と牛乳をコップに入れて供え、線香を焚く。


「お酒が好きだったんですか?」

「嫌なことがあったらすぐにお酒を飲んでいたよ。牛乳でかなり薄くしたお酒を、いつも飲んでいた」

「……変わっていたんですね」

「俺がいなくなってからはどうしていたのか分からないけど、見て来た範囲だけで秀一を語るなら一言目は奇人になるな。二言目は賢人だけど」


彩花さんが秀一のお酒好きに驚いていたけど、俺が見ている時はいつも度数の低いお酒を好んで常飲していた。むしろ、このことが後世に伝えられて無かった事に驚きたい。元々薄い日本酒を牛乳と割ってさらに薄いお酒にして、仕事中にも飲んでいたから、知られていてもおかしくないと思っていたのに。周りからは、牛乳を好んでいるとでも思われていたのか?


「お墓の掃除は、しなくても良かったのかな。出来れば墓石に水をかけたかったけど」

「秀則さん、墓石にお水をかけるのは祖先に失礼……祖先に失礼……?」

「失礼ってことになってるの?」

「……なっている地域もある。だけど、気にする人は少ない」


水を墓石にかけたかったと言うと、祖先に失礼だと言おうとして彩花さんがフリーズした。凛香さんによると、地域によってお墓参りの作法についての言い伝えが違っているようで、統一されて無かった。何でも統一しているイメージだったので少し意外だ。


宗教に関しても日本教を創始したから日本教が浸透しているのかと思ったら、一部の仏教は残存しているとのこと。強引に取り潰さなかったから、ここら辺はかなり歪な状況になっている。


「まあ、お墓参りなんて死者を弔う気持ちさえあれば良いと思っているから、気にし過ぎないように言うだけで良いか」

「……秀則さんは、日本教を創始する際に細部まで作り込まなかった理由とかありますか?」

「楽だと信仰しやすいから、細部まで決め事を作らなかったんだよ。単に日本国民が日本国民として思想を似通わせるために作ったものだし」


日本教と仰々しく言うと違和感が凄いが、単に祭事を集めて1つの宗教にしてしまおう、という発想から生まれた黒歴史の産物だ。改変前の日本の文化を目指して、新年には神社に行ってお願い事をし、お盆にはお墓参りを行い先祖を弔って、クリスマスにはケーキを食べて聖夜を迎える。これを日本教の行事とした。


今思い返してみると宗教を統一しようとか、かなりえげつないことしていたんだな。強制的に改宗を迫った訳では無いが、一向衆が面倒だったから宗教戦争に踏み切ったのだ。祭事を詰め込んで祝うだけの、日本国民が日本国民であるための宗教を作って、他教徒を精神的に追い込む予定だった。最終的には殴り合いで決着を付けたが。


「基本的に宗教は掛け持ちが禁止されているからね。日本教が掛け持ち出来て自由な宗教でも、もう一方の宗教が掛け持ち出来なければ日本教を信仰出来ないという状況に陥る」

「だから日本教に合わせて教義を変えて、掛け持ちを出来るようにするような扱いやすい宗教を見極めていたのですよね?」

「……その辺は完全に勢いでやった後、息子達へ放り投げたからなあ。まあ、今でも文化として続いているのなら日本教を作った意味はあったけど」


宗教問題は国を統治する上で必ず起こる問題でもある。だから日本教という自由奔放な全ての宗教を包括した国教を定め、日本国民は日本教を信仰していることにした。実際に信仰しているかどうかは関係無かったし、元々の目的は一向衆門徒への挑発だ。しかし全てにおいて楽な日本教は、次第に勢力を伸ばしていった。


……そもそも、当時から神と仏が混在しており、海外からはキリスト教が伝播していた時期だ。それらがお互いを敵視していたら、日本国民として持っておいて欲しい国民意識の統一が難しい。だから、国民意識を持たせるためだけに日本教を導入した。日本への帰属意識が欲しかっただけだから、教義は凄く適当に決めた覚えがある。


「国民意識、ですか」

「国家への帰属意識のことだよ。日本に住む人は日本人だという自覚が欲しかったんだ。また戦国の世になるのは嫌だったし」


国民に国家への帰属意識を持たせた結果が、全体主義へ昇華したのだと思うと凄く複雑な気分だ。……全体主義自体は改変前の日本でも持ち合わせていた、日本人特有の気質なのかもしれないけど。


秀一へのお墓参りを終えたら、次は秀一の嫡男で俺の孫、公秀のお墓参りだ。時間的に息子達全員のお墓参りは厳しいし、そもそも息子達に関してはお墓が散らばっているから岐阜の墓地に埋葬されていない息子もいる。何で沖縄や台湾にまで豊森家のお墓があるんだ。


……公秀はのんびりとした秀才タイプだったけど、海外領土の獲得を始めた人物として評価されている。軍隊の近代化を推し進め、今の軍編成の元を作ったからか、軍人からの評価は高い。まあ、8割以上は俺がノートに書いていたことだけど。

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