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第111話 適応力

「戦争の変化について、話しておきたいことがあるんだ」

「それは、このような立ち話でもよろしいのですか?」

「そんなに長い話でも無いから、立ち話でも良いよ。本格的に戦略や戦術の根本から変えるなら将寛さんを通すし」


坂井校長に、機関銃の原型のようなものが開発されてから考え始めるようになったことを丸々伝えよう。まず最初に、機関銃が日本でも開発され、欧州諸国ではさらに高性能な物が開発されていることを坂井校長に伝え、陣地防御がより容易になることを説明した。


「……その防御陣地を破壊するか、迂回するかですか?」

「ああ、それも考えないといけないけど、基本的には現地の将校に任せるよ。柔軟な思考で破壊するか、迂回するかは即決して欲しい」


日本の技術力はようやく前進を始めたところだが、残念ながら欧州諸国は既に自動車も飛行機も存在している。戦車が登場するのも、時間の問題だろう。既に装甲車ぐらいは存在しているのかもしれない。そして陸軍元帥の将寛さんに作製させていた防衛計画では、戦争相手の速度の想定が出来ていない状態だった。


「この前、将寛さんが完成させたインドとアラスカ方面での防衛計画を見たんだ。凄く丁寧に考えられていたと思うよ。今までは攻勢を重視していたから、随分と時間を割いて考えたんだと思う」

「その防衛計画が不味かったのですか?」

「……自動車について、疲れない騎兵が常に最高速度で動き回るぐらいを想定するよう言ったのに、敵の自動車化歩兵の想定進軍速度が普通の騎兵並みだったんだ」


一応、自動車の速度についても伝えてはいた。馬は、早ければ時速60キロぐらいで走る。たぶん敵の自動車化歩兵も、最高速度では時速60キロから80キロで進軍出来るだろう。特に索敵の必要も無いような後方では、かなり速度で移動や配置転換が出来る。悪路だと速度は出ないだろうけど、それでも将寛さんの想定よりか遥かに早いスピードで侵攻してくるはずだ。


……第二次世界大戦の日本の行軍速度が1日に100キロだっけ?それぐらいの速度で侵攻される可能性があることは言っておいた方が良かった。将寛さんは1日に50キロ近い進軍速度を想定にしているから、たぶんそれだと遅い気がする。


「本当に1日で100キロも踏破されるのならば、将寛元帥の防衛計画は穴だらけになるでしょうな」

「時速80キロは言い過ぎたかもしれないけど、40キロは出せると思うよ?」

「その自動車を動かすのには、ガソリンという最近出回り始めた燃える水が必要なのですよね?1リットルで、どれほど動けるのですか?」

「あっ……兵士と装備を乗せるなら、1リットルで10キロも走れ無いか。悪路なら5キロ程度が限界かもしれない」

「ならば、その石油の輸送も必要でしょう。おそらく、石油の輸送も視野に入れて将寛元帥は1日に50キロと判断したのだと思いますよ」


しかし、坂井校長も将寛さんよりの思考だった。俺が、警戒し過ぎているだけなのかな?自動車の技術が進歩していないと、1日に100キロは難しいか?そもそも、1日に100キロは戦闘が無かった時の進軍速度だった気もする。


……警戒し過ぎて悪い事は無いと思うけど、ネガティブな思考は良くないのかもしれない。まあ、俺が話したかったのは速度の想定が早い遅いの話じゃない。


「……自動車の侵攻速度についてはもう一度俺も考え直すけど、言いたかったことは新兵器に適応出来る人材を育成して欲しい、ということだ。これから先、戦場というものは目まぐるしく変化していく可能性がある。それらに対応出来る指揮官が多いほど、戦場で優位に立てると思っている」

「教本通りの戦を展開出来るだけでは無く、新兵器をいち早く導入できる人材ですか。変化を嫌う人間は一定数いるとは思いますが、可能な限りそのような指揮官を輩出できるよう尽力致しましょう」


開発された機関銃は、既に数挺ずつ日中戦争で戦いを継続している各戦線に割り振った。ここで面白いのは、各戦線の軍団長の機関銃の扱い方が、見事に分かれたことだ。


上海戦線にいた慎重派な軍団長は、最低限の試験運用をした後、防戦時に機関銃を使い始めている。感想では有用な兵器だと述べていた。一方で南方戦線にいた武闘派な軍団長は、攻撃時に使おうとして持ち運びの不便さを訴えていた。


機関銃と共に送った言葉は、実践運用して使用感を教えてくれ、だけだ。機関銃の実戦での運用方法についてしっかりと教えなかったのは悪かったと思う。しかし見事に機関銃を重用する派と、機関銃を邪魔者扱いして今まで通りの戦闘方法を継続する派に分かれた。


……機関銃を実践運用を始めてから数日しか経って無いし、今はまだ機関銃の出来自体が微妙だから仕方ないのかもしれないけど、軍団長の性格によって新兵器の扱いが変わるなら、新兵器をどんどん使える人材の方が個人的に好ましいという話だ。


「進軍速度の話は勉強になったよ。あれだけ補給の重要さを戦国時代に説いていたのに、補給について説かれるとは思ってなかった」

「私も、新兵器への適応力については考えたこともありませんでした。頑固に過去のやり方に固執する人間は、私の知り合いにも多いですから、これから卒業していく生徒達にはそのことについても指導するように致しましょう」


坂井校長が頑固に過去のやり方に固執する人間と言った時、何か胸に刺さるような感覚を覚えた。過去というか、改変前の日本に固執しているという自覚があったからだ。……まあ、改変前の日本のようにするかは俺自身の意識の持ちようによるだろうから、これも少しずつ考えて行こう。

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