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第110話 恩師

陸軍士官学校を一通り探検した後、食堂で生徒達の食事の確認をするのと同時に腹ごしらえもする。どうやら食券を買って厨房に置くシステムのようなので、食券を食堂の入り口にいる老婆から購入した。機械なんて無いから、老婆が座って受付をしていた。楽そうな仕事だけど平常時は長蛇の列が出来るから大変らしい。


失礼を承知で給料について聞いてみたら時給換算で400円とのこと。案外貰っていたけど10時から14時までしか働いていないようだから、貯金が無いなら普通に生活していくには厳しそうな金額だ。夜は18時から22時までで、こちらは別の人が対応しているとのこと。


メニューは色々とあって悩んだので、凛香さんがオススメするカレーうどんを注文する。お値段200円。学食のカレーうどんが400円と考えれば少し高い気もしたけど、丼ぶりに並々と注がれているうどんを見て安いと思った。身体が資本なだけあって、食事は多めが基本らしい。


米は食べ放題なので、カレーうどんに加えて米を茶碗に盛り、カレーライスとカレーうどんとして食べる。昔、インドへ侵攻した際に持って帰って来たスパイスの類を南方大陸領で栽培しているようだ。インドをそのまま制圧出来なかった理由は負けた事実を隠蔽しようとしたせいかわからないけど、色々と説があったので不確定。


……おそらく、この時はイギリス以外の国がイギリスの助力をしている。そんな気がする。


まあ、今の日本では改変前の日本で食べられていた俺のイメージ通りのカレーが普通に食べられているということだ。戦国時代の時は、なんちゃってスープカレーだったからな。インドが凄く遠かったし、あり合わせの食材だけで再現するのは苦労した。そんなカレーライスが簡単に食べられる時代になっているのは、良い事なのだろう。


食堂を見渡すと、無料で食べられるご飯と買ったおかずを一緒に食べるのが一般的らしい。国有企業で働く寮暮らしの人の食事とは、少し違う。寮では決まったおかずしか提供されないが、食事自体は無料。対して士官学校の食堂は、おかずを購入するのが一般的だ。


「士官学校って、給料が出るの?」

「陸軍士官学校では、1ヵ月に3万円ほど出ますね」

「……成績が良かったら、4万円ぐらい」

「それだけ貰っておいて、食事のおかずぐらいにしかお金の使い道が無いのか」


この事についてちょっと考えてみると、士官学校ではお金が貰えるのではないかという考えに辿り着いたので、給料について聞く。すると月に3万円から4万円ほどのお金が貰えるとのこと。夏休み以外はあまり外出も出来ないので、貯まる一方だとも言われた。本は無料で図書室から借りられるし、遊戯道具も一通りは揃っているから、使うタイミングが食事か長期休暇しかない。


こんなに良い環境なのに、夏休み以外は凛香さんでも「地獄」という訓練はどんなものなのか、少し気になる。




午後からは愛華さんが士官学校を訪れる予定なので、待ち合わせの場所へ行くと私服姿の愛華さんが禿げ頭の太ったおっさんと話をしていた。ハゲなのに髭が濃いから、インパクトのある顔だ。愛華さんが少し屈んでも、頭の位置が愛華さんの胸より下だから、あの人の身長は140センチ以下だな。加藤さんや島津さんより小さい。


今の日本人でも、珍しい部類に入る身長の大人だ。禿げの人はあまり見ないし、太った人は意外と少ない。背が低い人は多いが、流石にここまでの低身長は見たことが無い。そんな要素が詰まった人だけど、愛華さんがペコペコと頭を下げているということは結構偉い人なのだろう。


「……愛華さんと喋っているの、坂井(さかい)校長」

「えっ、あの人が校長!?」

「秀則さん、驚きすぎです」


愛華さんの方へ近づくにつれて、愛華さんと喋っている人がドワーフにしか見えなくなっていたけど、凛香さんに校長先生だと言われて目を覚ます。流石に失礼なことを考えすぎていたようで、彩花さんからはジト目で見つめられた。しかしまあ、身長135センチのドワーフみたいなおっさんが校長先生だとは思わなかった。威厳が欠片も無い。


「秀則様。こちらは私の恩師でもある坂井校長先生です」

「ははは、まさか愛華君が秀則様の付き人になるとはなぁ。あぁ、校長の坂井です。豊森姓ではありませんが、甥と娘が数年前に豊森姓になりましたので、血縁関係があると言っても過言では無いでしょう」

「豊森秀則です。坂井校長は、今年でいくつですか?」


坂井さんは今年で46歳のようで、思っていたよりも若かった。お喋りな人で、愉快な人だけど自虐も多い。ただ、生徒からは慕われそうな先生だ。凛香さんによると、授業の時は鬼よりも怖いらしいが。


「私が担当していた授業は、皆さん真剣に取り組まないと死ぬ恐れがあるため、厳しく指導していただけですよ」

「……死ぬの?」

「過去に2回だけ、死亡事故があったようですが、私が教鞭を執ってからは死者どころか重傷者もいません」


そんな坂井校長はロッククライミングの教師だったそうで、愛華さんや凛香さんもこの先生にロッククライミングを教えて貰ったとのこと。科目名は岩壁登りで良いのかな?士官に崖登りのスキルが必要だとは思えないけど、将校の生存率を上げるのが目的なら必要なのかもしれない。


命綱を付けているとはいえ、ロッククライミングが授業に盛り込まれているって凄いな。後で補習の子に指導をするそうだから、見学してみたい。


「……何か、士官候補生への指導で追加して欲しいことがあるのですか?」

「……新兵器について、相談したいことがあるんだ」


少し、指揮官の素質について考えていたことがあったので、坂井校長に相談しようか悩んでいたら見抜かれた。……士官学校の校長は、55歳まで続ける人が多いようだ。その話通り55歳まで校長を続けるのなら、この人はあと10年の間、この陸軍士官学校の校長ということになる。それなら、この人に相談するのが良いか。

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