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第109話 陸軍士官学校

8月14日の朝。俺が築城した山城や信長が整備改修を繰り返した岐阜城の現在を見て回った日の翌日に、岐阜と愛知の中間地点にある、陸軍士官学校の見学をすることになった。数百年前、最初の陸軍士官学校を設立しようとなった時、日本の中心に設立しようと決めたようだ。そこで色々と論争が起こった結果、岐阜と愛知の中間地点が日本の中心になった。


正確には、岐阜の中心から愛知寄りの場所にある。日本の中心が本当はどこにあるのか俺は知らないけど、俺も岐阜が日本の中心だと思っておこう。海外領土も含めれば、本当の意味での日本の中心は太平洋上にあると思うけど。


「趣きがあるというか、中央の建物は古いな。煉瓦で出来ているのか」

「……中央の建物は補強を繰り返しただけで、建て替えて無い」

「凛香さんがそう言うなら、他の建物は建て替えを行ったということかな」


愛華さんが居ないので凛香さんが案内してくれるが、淡々とした説明で案外わかりやすい。必要以上に喋らないだけで、必要なことは喋ってくれるので問題は無いな。彩花さんは海軍士官学校の卒業生だから、陸軍士官学校にはほとんど来たことが無いようだ。


今の日本の陸軍士官学校は14歳から16歳までの3年間で、詰め込めるだけ知識を詰め込み、軍事演習を行い、射撃訓練や騎乗訓練などで一通り身体も鍛え上げる。留年は怪我や病気以外では認められず、進級できなければ退学になるという環境だ。凛香さんが教えてくれたけど、入学時には1学年1000人が、卒業する頃には400人になるそうで、士官学校の時から脱落者は生まれるとのこと。


佐官以上に昇進しようと思ったら、これに加えて卒業まで平均で4年、最短でも2年はかかる陸軍大学校の卒業が必須となる。というか、卒業すれば少佐だ。卒業までには色々と規定があるが、凛香さんは入学の時点で半分ぐらいの項目をクリアしていたとのこと。一応、虚弱体質でも頭が良ければ卒業は可能だけど、体力や筋力のある人間の方が卒業は楽そう。


……20歳で少佐になれるなら、愛華さんの父親が36歳で中佐は遅れているのかもしれない。最短の場合、15歳で佐官か。11歳でも士官学校に入れるのはちょっと問題視した方が良いのだろうか?


「彩花さんは、海軍大学校みたいなところには入らなかったの?」

「海軍では主に海軍士官学校の成績と勤務態度で出世の順が決まるので、大学校の卒業は必須では無いです」

「……ああ、なるほどね。勤務態度か」


確認してみると、陸軍大学校を最短ルートで卒業した人がいなかったから、少佐昇進の最短記録は18歳だった。大佐昇進の最短記録は凛香さんの21歳。凛香さんも凛香さんで色々とヤバい人だった。19歳で少佐だから、本当に毎年のように昇進をしていたのか。


陸軍士官学校の校舎を見て回ると、長期休暇中のためか人気は少ない。大半の生徒は寮暮らしだけど、夏休みは実家に帰る人も多い様だ。夏に訓練が無いのは意外だけど、この夏の長期休暇以外は凛香さんによると「地獄」だそうだからきっと過酷な環境なのだろう。


「一学期末の試験結果か、これ」

「そのようですね。下位の人は、赤点の人もいます」

「……2年生で800人弱か。1年だけで200人は辞めるんだな」


廊下には1学期の期末試験の結果が張り出されており、1年生に至っては1000人の生徒の点数が明瞭に表示されていた。名前の部分は紙に名前の判子が押されているだけだけど、それでも1000人分は大変だろう。というか普通に書いた方が早そうだ。そして、上位100人の内8割程度を占めるのは豊森家の人間という。


内申点のようなものは存在して無いようだし、凛香さんの説明によると筆記試験と体力試験の点数だけで順位は決まっているので、単に豊森家の人間に凄い人が多いということなのかな。点数も明記されているし、豊森家の人間だけに下駄を履かせては無さそうだ。


「あれ、豊森家の人間は面接で有利だから進学率が高いと聞いていたけど、成績で下位の方に豊森姓の人間が見当たらないな」

「面接時に優遇されている豊森家の人間は基本的に成長しやすい人間を選別しているため、4ヵ月という時間があれば下位からは脱すると思います」

「……マジか。マジで、単に見込みがある人間だけを特別扱いしていただけなのか」


豊森家の人間の中には地頭こそ良いものの、小学校時代はあまり勉強に打ち込まないという人間がいる。それは凛香さんのように運動ばかりしていた人や、特定の教科のみ勉強に打ち込んだ人が当てはまる。そのような人達は面接時に加点され、ギリギリでの入学になるけど、数ヵ月で普通に入った人を抜かすようだ。……人間の能力は、平等に作られていないということがよく分かるな。


「凛香さんも、面接時には加点されていたのか。……まあ、単純な特別扱いじゃないことは分かったよ。面接を無くせ、と言ったのは早計だったかもな」

「いえ、面接を無くすのは良い考えだと思いますよ。どうしても第一印象が面接での点を決めてしまうので、緊張しやすい人間は不利でしたから」

「そういう認識はあったのか。彩花さんは、緊張とは無縁の様な気がするけど」

「私だって緊張ぐらいしますよ!?」


成長のしやすさ、というのは曖昧な観点からの評価だ。だけど成長しやすい人間を判別できると言うなら、面接でその分を加点するのは分からなくも無い。ちょっと考えが浅はかだったのかもしれないけど、もう指示は出してしまったし、数ヵ月で追いつけるようなら数ヵ月分早くから受験勉強を開始すれば良いだけだから、問題は無いと思いたい。


……凛香さんは陸軍士官学校に入学してからずっと100位前後をウロウロとしていたとのこと。体力試験だけで大きく稼いでそうだけど、筆記試験でも平均レベルはあったそうだから落第とは無縁だったとのこと。やっぱり豊森家の人間の持つポテンシャルがおかしい気がするけど、遺伝子が働き過ぎているのか、妥当なのかの判断は俺には出来ない。

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