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第106話 懲役

2人の少年を殺した少年に裁判長が告げた言葉は、懲役30年×2だった。


「懲役30年×2ってことは、懲役60年ってこと?」

「いえ、懲役30年×2と懲役60年とは違います。懲役30年を2回繰り返すため、模範囚に1度なったとしても1回目の懲役が終われば、また一般の囚人と変わらない扱いを受けることになります」

「……そういうことか。罪をそのまま償わせることが、考えの根底にあるのかな」


結局少年法の存在を知って故意に人殺しをしたと判断された少年は、子供を殺した時に適用される懲役30年を2回繰り返すことになった。『虐められていた』という情状酌量はされたようだが、少年法を知って利用しようとしたこと。身体能力の面で優秀だった子供を2人も殺したこと。最初、事件を隠蔽しようとしたことなどが加わり、かなり重い罪となった。


「殺人事件って、頻度としてはどのぐらいだ?」

「1日に1度は日本のどこかで起こっていると思います。殺人の被害者数は年間で1000人近くですね」

「故意での殺人の懲役は、子供を殺した場合だと基本は30年、大人を殺した場合でも25年か。無期懲役が無いんだな」

「無期懲役ですか。言葉から察するに期限のない懲役刑だと思いますが、存在しません」


彩花さんから説明されるが、今の日本には無期懲役が無いようだ。ただし懲役30年×11とか実質無期懲役な刑罰は存在しており、犯した分の罪を償わせるという考え方が一般的なのだろう。犯罪者の更正を第一にしておらず、被害者の心情を第一に考えて刑罰が課されている。


無期懲役が無ければ、死刑も存在しない。……実質死刑はあるけど、償うべき罪の大きさをきっちりと計算し、犯罪者に課す仕組みのようだ。減刑が適用されたとしても、寿命を軽く超えるような懲役刑の場合は、犯罪者に対して人体実験の被検体という選択肢が生まれる。これらの刑罰の仕組みが犯罪の抑止に繋がっていると考えても良いだろう。


……5億人を超える人がいて、殺人事件の被害者数が1000人を超えないということは、治安だけ見たら改変前より良いのかな?ちなみに殺人より刑罰が重くなる可能性がある犯罪は偽札の発行や放火、器物破損とか色々とある。放火を山で実行されたら何百人と死ぬ可能性があるし、罪が重いのは妥当だろう。


一番罪が重い犯罪は、偽札の発行とのこと。この世界で目覚めたばかりの頃、今の日本について仁美さんに説明されていた時に話題には上がっていた。偽札を作ると、人権が剥奪されるので死刑よりもヤバい。……まあ、偽札は作ろうと思えば作れてしまうから仕方ない。全部紙幣だし、警戒するのは当然だ。将来的には懲役刑に変換しておきたいけど、その前に偽造し辛い紙幣を生み出す方が手っ取り早いかな。


裁判は滞りなく進み、被告の少年は特に抵抗せず刑を受け入れた。加害者の少年の母親と思われる人は終始泣いていたが、父親と思われる人はずっと難しそうな顔をしていた。一方で被害者側の親族は量刑が妥当なのか、裁判所から出て話し合うようだ。懲役30年×2で足りないとかどれだけ恨んでいるのだろうか?……いや、たった1人だけの子を失った親の気持ちなんて俺には推し測れないから、もしかしたら心情的にはこれでも足りないのかもしれない。


罰金は1500万円×2と設定されたため、実質60年間の強制労働をすることになった少年は、僅かな給金を全て遺族への支払いに回されることが決まった。この罰金は、少年の親には支払う義務が無い様だ。少年法が適用された場合は親の責任も発生するので、親が罰金を払わないといけなかったようだけど、少年法が適用されない場合は親の責任が無くなるらしい。


少年法が適用されるかされないかが、子供と大人の境目なのかな。親としては、早目に少年法を教えておきたいのかもしれない。しかし子供が理解していなければ、親の責任が発生する。少し複雑だけど、今回の場合は親が罰金を支払う義務は無いということだ。もしも事件に幼児性が少しでも残っていたら、結果は大きく変わっていたかもな。


「子供の借金は、親が負担しないものなの?」

「そもそも罰金は本人に課されるものなので、親族が代わりとなって負担することはあまりありませんね」

「銀行からの借金を繰り返した場合も?あっ、銀行からお金は借りられないから、借金が発生するのは罰金が発生した時だけなのか」


全体の確認が終わると閉廷になった。どうやら地裁では3回の審理を行って、3回目の審理の時に1回目の判決を言い渡すようだ。この後、加害者側と被害者側が妥当かどうかを話し合い、どちらも妥当では無いと判断した時のみ2回目の判決が言い渡される。片方が不服な場合は控訴、上告となり、どちらも妥当と判断すれば量刑が確定するという流れだ。


傍聴席にいた俺も退場して、裁判の仕組みについて今一度確認する。彩花さんから解説されたけど、地方裁判所以上の複数人の裁判官が居る裁判の場合は、裁判長が量刑を決めて裁判官が全員賛成した場合のみ、量刑が決定される。ということは、懲役30年×2はあの場にいた裁判官3人が全員同意した量刑だということだ。


……改変前の日本の無期懲役は、確か30年で釈放されるんだっけ?量刑が青天井なのは、犯罪の抑制に役立つのかもしれないし、被害者の溜飲を下げるためにも必要なのかもしれないけど、犯罪者の更正を切り捨てている考え方だ。これが良いのか悪いのかは判断することは難しい。改変前の日本だとあり得ないけど、海外じゃ普通だったしな。


少年法に関しても、色々と手を加えられ続けている。元々の少年法を導入したのは俺だけど、問題点が幾つもあったから改変が加え続けられたのだろう。当時の俺が制定した少年法で一番の問題点は、子供の内なら殺しても重い罪にはならないという思考を持ててしまうこと。だから少年法を理解していたら、少年法が適用されないのだろう。


事件が起こらない平和な世界は、おそらく遥か未来でも実現しないだろう。不破野さんの件もあるし、今の日本の司法についてはもう少し勉強しておこう。

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