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第105話 裁判官

8月11日の朝。愛華さんが岐阜にある実家へ帰省するのでついていくことにした。仁美さんは仕事が溜まっていたようなので、しばらく豊森邸から出られ無さそうだ。愛華さんの家はさほど大きく無いようだから、ぞろぞろと親衛隊を引き連れてお邪魔しても迷惑だろうし、あらかじめ宿に泊まる用意をしている。そもそも、20人近い団体客が入る彩花さんの実家がおかしい。


「愛華さんのお父さんは、裁判官だっけ?元軍人が裁判官になるのはよくあることなのか?」

「よくあることではありませんが、出世の道を閉ざされた元軍人の行先の1つですね。残念ながら休暇の時期が合いませんでしたので、今日からは岐阜地方裁判所の方へ行っていると思います」


愛華さんのお父さんについては元軍人の裁判官としか知らなかったので、そのことについて愛華さんに突っ込んで聞いてみる。すると裁判官は出世街道に乗れなかった軍人の行き着く先の1つだと説明された。……毎年士官学校からは優秀な人材が輩出されるのに、高級士官の枠は常に一定人数だ。


一度出世が止まってしまうと、それ以上の出世は難しい上に降格の恐怖と戦わないといけない。下からは、常に優秀な自分より若い世代の人間が突き上げて来るからだ。だから、降格が始まりそうなら軍から抜けるのが慣例になっているらしい。愛華さんの父親も30代半ばで軍を辞め、そこから2年の勉強を経て裁判官になったようだ。


裁判に関しては、俺が未来のノートに軽く記していたからか三審制になっていた。簡易裁判所、家庭裁判所、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所の5つがあり、一番下が簡易裁判所と家庭裁判所になっている。地方裁判所の上に高等裁判所、高等裁判所の上に最高裁判所があるのは改変前の日本と同じだろう。


……家庭裁判所から控訴したら次は地方裁判所だったのか、記憶があやふやだから改変前の日本とこの辺が完全に一致しているのかはわからない。だけど400年以上変わらなかったということは、特に大きな問題は起きなかったのだろう。


愛華さんの父親は岐阜地方裁判所の裁判官として働いているそうだから、今の日本の司法について確認するために裁判の傍聴でもしようかな。


「簡易裁判所と家庭裁判所では、裁判官が1人で判決を出すのか。忙しくならないのか?」

「裁判官で一番忙しいのは地方裁判所の裁判官だと言われているので、簡易裁判所と家庭裁判所にまで人員は割けない状態です」

「……俺が司法試験は難しくしろとか言ったから、人手が足りて無さそうだな。あと簡易裁判所とか家庭裁判所の略語として、簡裁や家裁という言い方があることは伝えて無かったけど、略語が既にあるなら俺がそっちを使うよ」

「いえ、略語はありませんでしたので簡裁や家裁を使うことにしましょう。地方裁判所では地裁ですか?」

「うん。地裁、高裁、最高裁だね」


愛華さんから簡裁と家裁では1人、地裁では3人、高裁では7人の裁判官が存在することを教えられる。最高裁は13人もいるとのこと。複数人の裁判官がいる場合、裁判長としての資格を持つ人間が裁判長を務める。愛華さんの父親はまだ裁判長としての資格を持っていないため、基本的には一介の裁判官として人を裁いているようだ。


管理社会でとことん犯罪者を追い詰めるような法が存在していても、犯罪が起こらない国家というのはありえない。思っていたよりも早く岐阜についてしまったので、愛華さんが実家に向かうのを見届けてからは岐阜地方裁判所の方へ行くことにした。


地方裁判所という名前なのに、1つの県に平均して3ヵ所以上は存在しているそうだ。日本本土だけでも150ヵ所以上に存在していると言われたし、意外と多い。……要するに、それだけの数が無いと間に合わないということだ。


今日、たまたま入った岐阜地方裁判所では殺人事件の第一審が行われた。加害者は、僅か10歳の少年だ。学校で常日頃から虐められており、復讐した結果、虐めの主犯格である同学年の2人を殺害している。


印象的だったのは先生が虐めの事を認知しており、解決のために色々と行動していたことを長々と語っていたこと。虐めの主犯格の2人とは話し合いをしていたことについて証明もしていた。何だか必死になって虐め解決に向けて努力していたことをアピールしているけど、教師は虐めを知らなかったと言えないのだろうか?


小休憩を挟むことになったので、そこら辺を愛華さんに聞こうと思ったら実家だった。なので彩花さんに聞くことにする。


「教師は、虐めを知らなかったことに出来ないのか?」

「はい。虐めの存在を認知していなかったとしても、認知していたと言った方が罪は軽くなります。虐めの存在を認知出来ないと、教師としての評価が下がるので」

「……あー、虐めに関連した事件が起こると教師も罪に問われるのか。そりゃ必死になるわな」


虐めが発生しても罪には問われないようだけど、認知していながら対策をしていなかったら罪に問われるようで、認知をしていなかったらかなり重い罪になるとのこと。かなり重い罪と言っても半年間の減給程度で済むけど、その後の人生にも関わるからあの教師は保身に必死なのだろう。


「今回の裁判は、あの少年が少年法を知っているかどうかで刑の量定が随分と違ってきます。10歳であれば知っていると思うので適用されないと思いますが……」

「今の日本の少年法の対象は10歳以下だから、10歳なら適用されるんじゃないの?」

「いえ、10歳以下でも少年法の存在を認知しており、故意に引き起こした事件であれば適用されません。今回の場合は確実に故意なので、適用される確率は低いと思います」


少年法に関しては、事件を起こした本人が少年法の存在を認知していれば適用されないようだ。本人が知らぬ存ぜぬでも、周りの人間が少年法を教えたか否か、本の貸し借りの記録から知っていてもおかしくないか、全てを調べ上げるようだ。


裁判所まで来たついでに、愛華さんの父親がどの人か特定しようと思ったが、すぐに愛華さんの父親は裁判長の右隣に座っている人だと予想が出来た。たぶんこの裁判所内で2番目に偉いポジションに就いているから、元陸軍士官の能力の高さや豊森家の家の力というものを感じる。……愛華さんの父親の顔とか知らないけど、裁判官の中で1人だけ190センチオーバーは流石に目立つから、予想は外れていないだろう。

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