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第103話 欧州情勢

8月10日の夜、豊森邸に帰還すると美雪さんが珍しく出迎えてくれた。美雪さんは今まで北方大陸領に足を運んで、涼しい夏を過ごしていたようだ。


「今日は秀則様に、お伝えしたいことがありまして。

まずはプロイセンの内情ですが……」


休暇中なのに、数日間はロシアの外相と会談もしており、欧州情勢についての情報も収集していた美雪さん。働き過ぎだとも思ったけど、普段は温泉に入ったり、美味しい料理を食べることが仕事の人なので、単に暇だったのかもしれない。


美雪さんが話してくれた内容はプロイセンに送り込んだ諜報員が調べてくれた内容を纏めたものだけど、ここ最近の欧州情勢について具体的な内情まで把握出来た。大まかな対立図はロシアが話してくれた内容や、フランスからの亡命者達が語ってくれた情報と一致しているけど、細部まではわからなかったからありがたい。


まず最初に、プロイセン王国内部には大ドイツ主義者達がおり、友好国であるオーストリア=ハンガリー帝国を敵視している人間がいるようだ。プロイセンは王国なので王様が居るわけだけど、完全な一枚岩じゃないのは不味い。大ドイツ主義者の勢力は年々増して来ているようなので、将来的な不安が残る報告だ。ここからじゃどうしようも無いから、静観するしかないけど。


また、プロイセン王国の北にある北欧諸国が集ったスカンディナヴィア連邦では6月に大規模な粛清が発生。軍人が大量に死んだらしい。よくこんな情報を手に入れたな、と思ったらプロイセン王国に潜り込んだ日本の諜報員が、プロイセンの新聞を読んで知ったらしい。諸外国の新聞に触れて日本の諜報員がどう思ったのかも、聞いてみたいな。


……今の日本の新聞は、毎週土曜日に発行される分厚い本だ。項目ごとに分かれていて、書いてあることは明瞭。日中戦争の経過はほぼ正しく伝えられているし、俺の大まかな行動まで書かれている。危険性を訴えて細かなスケジュールは削除はして貰ったが、たぶん削除を願い出ていなかったら今でも細かな行動まで詳細に書かれていただろう。


プロイセンは毎日新聞を発行しているので、活版印刷の技術も向こうが上かな。日本の新聞の内容は研究成果やスポーツの結果、裁判の結果や事件が主な内容で、芸能関連のニュースはほとんど無い。


……日本の芸術方面の価値が低下しているせいで歌手とか漫才師はあまりいないし、歌舞伎や能、落語も一応は続いているという程度だ。芸術方面で1番人気なのは曲芸師らしい。


この前の新聞に載っていたけど、今の日本の幼い子供達の将来の夢は大半が軍人か陸上選手かサッカー選手だった。……サッカー選手という答えが上位3つの中に入っていて少しホッとした。まあ、サッカーのルールを教えたのが俺だし、その辺は影響していると思うけど。軍人がトップなことは、今の日本を如実に表していると思う。


まあ、軍に優秀な人を集めることは悪いことでは無いから問題無いと思うけど。戦争が続いている世界で、どこの国も軍人の育成に力を入れているし。


そんな軍人をバッサリと粛清したのが、スカンディナヴィア連邦だ。ようやく社会主義国家らしい社会主義国家の情報が入って来た気がする。プロイセンの諜報機関が優秀なのか、欧州では情報のやり取りが活発なのかが分からないが、スカンディナヴィア連邦では元帥3人、大将9人、中将46人、少将以下169人が死んだらしい。


全体の約半分の高級将校が死ぬとか、今後どう立て直すのだろうか?というかプロイセン王国とロシア帝国に挟まれた位置にあるのに粛清とか自殺行為のような気がするが、おそらくプロイセン王国はこの好機に動けないだろう。


イタリアで、クーデターが起こったからだ。


「確認だけど、王政を打破するための共産主義者達によるデモ活動が起きて、それを軍が鎮圧した後に軍が議会を制圧して政権を奪取。軍事政権が発足したら、次に反政府勢力が、特に共産主義者達によるイタリア解放民主戦線が各地で暴動。最終的に共産主義者達が首都ローマで最高革命評議会を発足させて内乱が終わったと思ったら、イタリアの北部地域が独立宣言をした……という認識で大丈夫?」

「その認識で大丈夫です。現在はフラコミュがイタリアの北西部の大都市ジェノバに向けて軍を派兵しており、イタリアと領土問題を抱えているオーストリア=ハンガリー帝国もイタリア北東部にあるベネチアを目指して軍を派兵しようとしています」


ややこしい状況だが、簡潔に纏めると半分共産化していたイタリア王国がイタリア社会主義共和国となり、反発した北部地域がイタリア社会共和国として独立。それを認めなかったフラコミュが侵攻を開始し、オーストリア=ハンガリー帝国も侵攻しようか迷っている状況だな。


……今世界大戦の引き金が引かれたら日本的には困るので、オーストリア=ハンガリー帝国が動かないことを祈っておこう。フラコミュも共産化したイタリア社会主義共和国と大々的な対立はしたくないはずだから、そこまで大規模な軍をイタリアへ派兵していないと思いたい。


というか、最初のデモ活動からイタリア社会共和国の独立宣言まで僅か1ヵ月だからこの間にイタリアで何万人の人間が殺し合っただろうか?北部地域の独立宣言が7月10日とのことなので、ちょうど1ヵ月前の話になる。もう今頃は全てが終着しているか、それとも欧州全域に飛び火しているかの、どちらかだ。


「せっかく日中戦争も終わりが見えて来ているのに、続けて戦争をするのは避けたい。

……万が一、2020年中に世界大戦が始まってしまったのなら、日本は全ての外交方針を転換するからそのつもりでいてくれ」

「具体的には、どう動くのですか?」

「たぶん、動かないと思う。領土死守が基本的な考え方になるかな。流石に追い付いていない分野の研究が多すぎるし、今のままだと欧州諸国の領土を削るためには人が多く死ぬだろうから」


世界大戦がいつ起こるのか、ということは俺には分からない。何となく、今では無いという雰囲気は感じるけど、万が一今このタイミングで世界大戦が起きてしまえば日本に出来ることは領土死守しか無い。まだロシア帝国とは相互不可侵条約の交渉しかしていない状況だし、守りに入ってもどこも文句を言わないだろう。


その間に、欧州諸国との技術力の差は更に開きそうだけど。フラコミュがイタリアに対してどこまで干渉したかによって、今後の日本の行く末は変わりそうだな。

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